はじめての闘い その14 ―す ね ぱ あん こーまん あんてけっさん―
朝食が終わると、
「オレ、汗だくだよ」と手を扇にする"ジュネス・ドレ"。
そして、腋を嗅ぐジェスチャーをしながら
――それとも本当に嗅いでいる?
「オレ、くっせーわ」
そして、"摂"氏に向き直ります。
「シャワー浴びる?」
「そうですね」と返す"摂"氏。
その時、"摂"氏は昨晩、汗を落とさなかったことに気付きました。
その時はそれほど汗が噴き出していませんでしたが、指摘されたことを念頭に置くと、肌と服がべたつく関係にある様にも、思われます
――そんな事、"摂"氏には基本的に、どうでも良いことのひとつでしたが
――しかし、社会生活を営む上で、清潔を保たなければならないことは、十分に理解していました。
「では、シャワーを頂きます」と"摂"氏。
「それとお前、いい加減、敬語やめろよ」と、"ジュネス・ドレ"による、冗談にしたつもりの、本気。
「無理ですね」と、真摯。「下品な言葉は極力、使用したくないのです」
「じゃあ、そこ入って」と諦めた、"ジュネス・ドレ"。
そして、キッチンスペースの壁に埋め込まれている、洗濯機と乾燥機の隣りにあるドアを指しました。
「タオルはそこにあるの、勝手に使って」
[因みに、"ジュネス"邸のキッチンと、"ジュネス・ドレ"の部屋の間――その隙間部分に、バスルームがあります。そのバスルームへは、キッチンからも行けるし、"ジュネス・ドレ"の部屋、どちらからも行けるようになっています]
シャワーの高級さは、水の奔出の強度によって測ることが出来る様です。
バスタブが併設されていないシャワーから吹き出す水が適度に(でも強く)肌を叩くのを感じながら、"摂"氏はそう考え
――ませんでした。
シャワースペースに立つ"摂"氏には、考えなくてはならない、もっと重要な問題があったのです。
<<あの"蜘蛛宇宙人"は、一体何者なのか?>>
"摂"氏には、詮索趣味はありませんでしたが、気になる対象であることは、間違いがありません。
先程、"ジュネス・ドレ"は、"蜘蛛宇宙人"が<兄>であることを否定しました。
"蜘蛛宇宙人"は、"摂"氏についての情報を
「弟から聞いた」
という発言を行いました
――しかし、弟が「"ジュネス・ドレ"である」とは認めませんでした
――つまり、弟とは、"ジュネス・ドレ"ではない?
<<じゃあ、弟って誰だ?>>
あの"蜘蛛宇宙人"と"ジュネス・ドレ"の外見は、似ていると云えば似ているし、似ていないといえば、似ていません。
<<もしや、あのヒトは、本当に泥棒だった?>>
その場合、"ジュネス・ドレ"の取った泰然とした態度が解せません
――泥棒なら、警察を呼ぶでしょう
――親に連絡を取るでしょう
――<普通>のヒトなら。
"摂"氏は<普通>ではありませんが、"ジュネス・ドレ"はそうなのですから、そうすべきなのでしょう。
<<しかし、しなかった>>
つまり、少なくとも、"ジュネス・ドレ"と"蜘蛛宇宙人"は、知り合いなのでしょう
――ひどく冷たい間柄の。
そこまで"摂"氏が考えてから、問題は次に移ります
――シェイクスピアのソネットによって発生するかもしれない、<防御効果>について。
<<身を守る?――何から?>>
そうこうしているうちに、"摂"氏は、ソネットを口ずさんでいました
――タイルに落ちる水滴の音は、59番のリズムにマッチしています。
<<そういえば、"蜘蛛宇宙人"は、ソネットが「背中に壁を作る」って言っていたな>>
その時、<何か>が
「変」
――であることに気付きました。
すると背後から
「ぴゅ」
と音がして――"摂"氏は振り返ろうとしました。しかし、振り返りきらずに――やって来るモノへ、視線を戻しました。
「どぉぉぉん!!!」
衝撃音と共に目の前、"蚊人間"が、宙で一度、静止して――から、後方に吹っ飛びました。"蚊人間"の身体が、落ちます――大地の上、叩き付けられる様に、落ちました。一度弾んだ後、横たわっています。
顔を上げました。
びしょ濡れの髪が、垂れていました。その髪の中から、銀色の唇(むしろ嘴)が突出していて――"摂"氏の方へ近づいて来ます。這っています――<狙った目>で。
"摂"氏は立ち竦んでいます。
そしてまた
「ぴゅ」
と"摂"氏の背後で音がして――
<塊>が、"蚊人間"の顔に当たります――"蚊人間"は攻撃を受け、転げる様にして、後方へ寝返りました。
停まり、仰向けになった"蚊人間"の身体の上、何か<液体>が宙に弾けているのが見えます――透明の液体でした。そして小さく
「ピリピリピリ」
と音を立てながら、輝いていました――泡を伴いながら。
そして、何度も攻撃が続きます――"蚊人間"は寝そべったまま、飛んでくる<塊>を受けています。防御の体勢を取らないのが不思議です。ただ、一方的な連続攻撃を、受け続けているのです――声を出さずに。
"摂"氏は、振り返る必要がありませんでした――攻撃がどこから来ているのか確認する必要はありませんでした。そんな"摂"氏は、不思議な事に、自分が攻撃されるとは微塵も思わないのです。そんな、ただ目撃するだけの"摂"氏"はある瞬間、観察の結果、新たに気付くのです。
「あの<塊>は、水で出来てきた弾なんだ」
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