はじめての闘い その11
"蜘蛛宇宙人":「ごめん――殴るなんて――もう防御魔法は唱え済みだと思ったし、抑々(そもそも)警戒くらいしてるだろうと思って……」
と、母国語で話します
――そして、殴ったばかりの"摂"氏の背中を、殴った同じ手で擦りました
――大人の、厚い、熱い手でした。
「痛かっただろ?」
「いいえ」
実際、痛くも、痒くもありません
――<暴行>と<撫で>、両方とも、そうでした
――回復効果もありません
――ただ、くすぐったかった様です
――疲れの無い者にとって、マッサージとは、身体をより良い状態にするものでは必ずしもありませんから。
「いいです」
肩を竦める様にして、"蜘蛛宇宙人"の手を払います
――嫌悪感無く。
話を変える様に、
「防御魔法?――防御魔法って何ですか?」
と"摂"氏。「――何を、何から守るので?」
「本当に知らねぇの?」
そして、眉を顰め、
「――そんなことも知らねぇの?」と"蜘蛛宇宙人"。
それは、
――ある特定の情報を相手が知らないからという理由で相手を傷つけようとする人間の軽蔑ではなく、
――本人にとって、常識だと思うことを(他人とっては常識ではない))
――他人には<上から目線>と思われる態度ながらも、その意図なく
――これから教えてやろうとする、
<善意の前置き>でした。
それを"摂"氏は不快に思いませんでした
――嬉しくも思いませんでしたし
――感謝もしませんでした。
しかし、
「まだ"敵"が来てない様で、良かったな」
「知らなくて、ホントに良かったな」
<ホント>という語を強調
――そして、黙りこみました。
"摂"氏も、つっこみませんでした
――それは自ずと、わかること。
暫しの間の後、
「シェイクスピアのソネットは……」
と"蜘蛛宇宙人"が切り出します。
「は?」
「――"敵"から身体を守る、防御魔法なんだよ」
「ソネットが?」
「お前は――いままで――プラクティカルな目的で使っていなかった様だな」
――<プラクティカル(実用的)>だけ、英語でした。
「しっかし、プラクティカルな目的以外でシェイクスピアのソネットを覚える奴が現代にいるとはね……あんな、面白くもなんともないモンをね…」
そう言って、"蜘蛛宇宙人"は、
――馬鹿にしました
――今度は、明らかに、馬鹿にしていました。
「いまどき、シェイクスピアを読む――ソネットを覚える奴なんか、いるんだな――目的もないのに」と、しつこく続けるから、
「それ(シェイクスピア・ソネット)は、知っていて当たり前であるから、知っていただけです」と"摂"氏。
「シェイクスピアが有名なのは、シェイクスピアのソネットが周りの酸素を集めて、圧縮して、呪文を唱える者の背中に壁をつくる魔法だからだよ」
「嘘?」
「もちろん嘘――多くの奴らはその効果を知らないから。でも、そうでなけりゃあんなもん…」
そして、目の前に座る"摂"氏がその<例外>であることに気付き、"蜘蛛宇宙人"は、その先を続けませんでした。
"摂"氏は尋ねます。
「それは――<それ>とはつまり、防御魔法とは――シェイクスピアのソネットでなければならないのですか?」
「知らん――でも、ソネットがだいたい、使われるよな」
そう言って、黒い手の甲を、宙に掲げました。
手の甲が見えます
――先程より、より近い場所にいるから、黒い手に書かれた文字が、よりはっきり見えます
――「SHALL.....I....C....OM....PARE...」
「ああ――」
"摂"氏が理解してから"蜘蛛宇宙人"の顔を見ると、
自信満々です。




