はじめての闘い その10
暴行は、あまりにもいきなりでしたから、"摂"氏は目を見開いて、座ったまま、振り返りました。
見下ろしてくる"蜘蛛宇宙人"を
――といってもそのヒトは小柄ですから、視線は、平行より少しズレている程度です――
"摂"氏が視界に捉える頃、痛みはありませんでしたが
――痺れが来ました。
その後、
格闘技に精通している者ならば、受け身を取ったり、反撃の為の準備をするのかもしれませんが、"摂"氏は喧嘩どころか、虐待経験すらないのです
――だから、呆然しかありませんでした。
連続攻撃は、ありませんでした。
痺れが消えない為、"摂"氏は海老反りをしました
――相手の次の一手を、見失わない様に警戒したまま。
"蜘蛛宇宙人"が立っています
――それも、ひどく、驚いた顔で。
"摂"氏が、
「なんなんですか?」
と母国語で言いかけた時、
「くーる?」と、"蜘蛛宇宙人"。
ラテン語で、
「なんで?」
という意味です。
そして、
「ノネ チュー イプスム クストーディス?」
つまり、
「お前…、自分の身を守らないのか?」
――「は?」
"摂"氏は、意味を掴み兼ねました。
立て続けに、"蜘蛛宇宙人"は発話します。
「ネー プグナウィスティ プリウスクアム クム アリクオー?(これまで、闘ったことないのか?)」
「プグナーレ?――クァム オブ レム?(闘う?――何の為に?)」と"摂"氏が返します。
すると、
「弟の話だと、お前、いつもシェイクスピアのソネットを唱えているって……」
"蜘蛛宇宙人"はその時、"摂"氏の母国語で話していました。
「弟?」
"摂"氏も、ラテン語から母国語に切り替えました。
そして疑問を単語化して口外した途端、"摂"氏は状況を理解しました。
「ああ、"ジュネス"君("ジュネス・ドレ")は、あなたの弟さんなんですね?」
「――言わなくても分かっていると思ってた」
「そうですね――そう予想すべきでした」
「じゃあ、いままで、オレを<何>だと思ってたんだ?」
――そして、"蜘蛛宇宙人"は眉を顰めました。
「泥棒かと……」と、嘘をつく"摂"氏。
本当は、相手が何者なのか、単にわからなかったのです
――が、
「泥棒が、冷蔵庫を漁って、我が物顔で家を歩き回ると思ったのか?」と"蜘蛛宇宙人"。
「そうですね」
そして、
「――変ですね」と認める"摂"氏。
「変だな」
二人は、無表情でした
――しかし、二人は笑っていたのでしょう
――こころの中で。
その後、"摂"氏が、相手の名を知る機会があります。
しかし、そこに到達する前に、先に明かしておきましょう。
そうです。
この、"蜘蛛宇宙人"こそ、
<ジュネス・ルィェ>なのです。




