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温度  作者: 折鋸倫太郎
はじめての闘い
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はじめての闘い その9 ―じゅ すい こむ ろわぞ すー ら ぶかんしゅ―

 "摂"氏が顔を上げると、冷蔵庫の前

 ――冷蔵庫は閉まっています

 ――"蜘蛛宇宙人"と

 ――視線が会いました。


 笑顔です。


 何かを企んでいる様な、笑みです。

 "摂"氏に見られている

 と気づいた時、"蜘蛛宇宙人"は

 さらに強く笑いました。

 そして、"蜘蛛宇宙人"は、てのひら

 ――上げて

 ――肘より上げて

 ――肩より

 ――軌道が外れていく…

 ――口元に

 ――持っていきます。

 めた黒革のガン(手袋)によって、隠される唇

 ――不敵な笑み

 ――その口端くちは

 ――そして、中指だけを誘うかの様に折り

 ――爪の先を噛みました。


 引き――千切る

 ――千切れず、

 台風時の傘の様に、裏返る。


 そして、すぽり、と脱げるガン。


 口から、力なく、垂れています

 ガンは中指だけ直線で、


 ぴん


 と張り

 ――あとの指は、背後に隠れています。

 "蜘蛛宇宙人"は

 ――まるで、獲物を捕まえて見せびらかす、犬の様。

 それが

 ――とつぜん、消えます

 ――"蜘蛛宇宙人"が、脱いたばかりの手で、握ったのです

 ――丸めたのです。

 その時、"摂"氏は、口元にて無動のままの拳骨げんこつに、焦点を移します。


 そこには、裸の手の甲があります

 ――日に焼け焦げたかの様に、赤みの混じった

 ――黒過ぎる手。


 黒革の手袋と同じ色の手。


 妙でした。


 "蜘蛛宇宙人"の皮膚は全身、褐色とは程遠いのです

 ――寧ろ、<透き通っている>という形容が妥当である程

 ――色のない、色。

 だから、手首に境界線がボールドに引かれているかの様に、色は上下、対局中の碁盤ごばん的に区切られて見えます。


 それまでずっと黒革ガンの下に隠されてヒトの目を忍んでいた、その黒い手は、その他肉体にマッチしていない、<わざとらしい>色でした。

 その中、"摂"氏は気付きます。


 <<あ、黒の中、何か、文字が書いてある…>>


 着色された手の甲に書かれた文字のトコロだけ、皮膚の色のままで

 ――透かし彫りの様に、目立っています。

 "摂"氏は読もうとします。

 それは、英語で、


 「S.....H..ALL」


 その時、黒い手は、


 だらり


 ――と落ち

 ――宙ぶらり

 ――"蜘蛛宇宙人"の腰まで

 落ち切ります。

 その時、

 ――ガンの指が、己を握る"蜘蛛宇宙人"の指の隙間から、筆先の墨の様に

 ――都市を暴れまわる巨大猿人に捕えられたヒトの、バタつく裸の脚の様に、

 滲んで、さらに<落ちよう>としている様が確認できます。


 そしてそれは、かにの様に横歩きしながら

 ――太腿ふとももを軸としながら、

 ――腕の動きに合わせて、

 <振り子>の様に揺れるのです。


 すた

 すた

 すた


 と"蜘蛛宇宙人"が、座る"摂"氏に近づいてきます。

 そして、背後に回り込み


 「ずん」


 そして響きが、静電気の様に"摂"氏の身体を、血と共に駆け抜け、

 同じ地点から出発し、反対方向に向かう二つが

 ――出会い


 ――「ル・ランデブ」


 ――そして回帰。

 "摂"氏は衝撃を認識し、

 衝撃波に乗り、前のめりになりました。

 てのひらを大理石に着き

 ――突き

 ――セレアル(シリアル)の入ったボル(お椀)に顔を浸さない様、押し留めました。



 それは、暴力でした

 ――過剰な<励まし>でした

 ――良く言えば、の話です。

 しかし、"摂"氏は痛みを感じませんでした。 

 しかし、


 「自分は、殴られたのだ」


 とその時になって、状況を理解しました。



 「何の罪で?」

 「わかっているだろう?」

 "摂"氏には、わかっていました。

 周りに合わせない罪。

 低レベルの為に降りて行かなかった罪。

 年上を自分と同等として対応した罪。

 その他大勢と平等になる為の努力をしなかった罪。

 上から目線を続けた罪。

 三行でわかりやすく説明してやる義務を放棄した罪。

 頭が悪くなる様に努力しなかった罪。

 努力して賢くなろうとした罪。

 「多くのヒトを傷つけてきたのだ」

 首肯する事は叶いませんでしたが、頷きました。

 「だから、これから罰が下るんだよ」

 「当たり前だ」

 と、思い浮かんだ言葉は、声になりません

 ベルトコンベアーは動き続けている様です。


 ⇒ 「――てない その6」へ

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