はじめての闘い その8
――"ジュネス"邸キッチンにて――
"蜘蛛宇宙人"なヒトは、キッチンの隅に設置された冷蔵庫ドアを勝手に開き、中を漁っていました。
「アラス!」
――将に、館の名に相応しい程、巨大な冷蔵庫!
――その前に立ちはだかる、小柄のヒト!
――その"蜘蛛宇宙人"の、細見の背中でも隠しきれない部分から、
――ちら
――と見ると、冷蔵庫の中身は
――色とりどりの野菜
――色は単色だが、種々様々な肉
――が詰まっている
――でも、すべては<ピーマンの肉詰め>ではない
――整理整頓されている!
ことがわかります。
その"ジュネス"邸キッチンは、モダンテイストでした
――ダイニング・ルームや玄関スペース程、派手ではない
――クリーム色に近い、薄い黄色の壁紙
――ですが、それに四方囲まれたモノは、ほとんど、灰色です。
ブルーの洗濯機と乾燥器が、シンク脇に併設されています
――それが例外である位。
部屋の真ん中には、
――他と色を合わせたのか、
鼠色のカウンター・キッチンがあります。
冒険者が集いそうな<酒場>にでも在りそうな
――<背もたれ>の背は低いが、足が異様に長いスツール
が、付いています。
よく考えると、<仲間>を酒場で手に入れる
(手に入れる、という表現も変ですが)
というゲームが昔、ありましたが、
子供が遊ぶコンピューターゲームで、プレイヤーである<子供>に、
(たとえゲーム内では、大人だと仮定しても…)
酒飲み呑兵衛の集まる<酒場>という場所に入らせ、仲間をつかまえさせる
(依然として、表現は適格ではありません――仲間は<なる>モノなのでしょう)
「いいや、仲間は、物ではない!」
――とにかく
「そんなの、子供の情操教育に、悪影響です!」
――そんな声をあげるヒトは、まだいるのでしょうか?
――閑話休題……。
とにかく、スツールは、木製の、ヴィンテージな椅子
――背もたれとしては全く役に立たないだろう程、背の低い背もたれは、<♣>の形をしています。
四本の足はそれぞれ、丸みを帯びています
――まるで、四本まとめて、透明なチューリップの蕾の様
――まるで、膝を曲げていて、いまにもジャンプしそう。
それを"摂"氏が確認した時点で、背を見せていた"蜘蛛宇宙人"が、振り返りました
――冷蔵庫を開けたまま。
「電気の無駄!」
「不謹慎!!」
――はいはい……。
そして、人差し指を、
立ったまま佇む"摂"氏
――その前にあるスツールに向けました。
「イルーク セデー(そこに座れ)」
"摂"氏は従いました
――そのスツールは、ダイニング・ルームの椅子と違い、足の裏に、床を傷つけない為の加工が為されていないのか、
「き」
の連続した音を立てました。
座った"摂"氏が相手に視線を戻すと、
「どん」
とカウンターに、
「ラク」
――牛乳パックがテーブルに置いていました。
"摂"氏が
「あっけ」
に取られているウチに、
――キッチン・キャビネットを開け、有名シリアル会社の名前が載ったセレアルの箱を出し
――置き
――続けてパンを
――出し
――置きました。
そして、"蜘蛛宇宙人"は腕を胸上で組み、
「ミソシル?」
と、フランス語の様に、発しました
――ラテン語に、該当する言葉は無いのです
――そして"蜘蛛宇宙人"は、パグの様に、小首を傾げました。
それ以上、何も言いません。
"摂"氏は、キッチンを観察します。
スープの準備が出来ている様子はありません
――コンロは、からっぽのまま。
因みに、ガスではなく、電気です。
"摂"氏は、
「ノン」
と、相手の申し出を断りました。
すると、瞬く間にキッチン・キャビネットを再び開け、ボル(器)を取り出し
――キュイェーク(スプーン)を取り出し
"摂"氏の目の前に、投げました
――文字通り、投げました。
だから、ス・ボルとセット・キュイェークは、キッチン・カウンターの上で、揺れていました
――しかし、収まりました。
そして、気づきました
――キッチン・カウンターも、大理石で出来ていること。
"摂"氏は、セレアルとレ(牛乳)を、黙って食べました。
それを"蜘蛛宇宙人"は黙って、見ていました。
キッチンには、"摂"氏の同級生"ジュネス・ドレ"の鼾と悲鳴は
――聞こえてきません
――あるいは、悪夢は良夢に転じたのでしょうか?
――というか、<良夢>なる言葉は、ニッポン語にあるのでしょうか?
その後、"摂"氏がセレアルを半分ほど食べた頃でしょうか?――とつぜん!!!




