はじめての闘い その6 ―じゅ ぬ すい ぱ すーぷる こむ あん がんー
その、猫背の
――蜘蛛の様な、
――エイリアンの様な
外見の人物は、手の甲で
――具体的には、ガン(手袋)の填まっていない、裸の手の方で、
額の汗を拭ってから、"摂"氏を、
じっ
と見つめました。
様子を見ている?
――違う、睨んでいる
――または、元から<ぎょろ目>なのでしょう
――目も身体と比例して、小さいのですが。
そして、閉じていた口を再び、開きました。
「キース チビ――エス?」
そして、睨みつけていた目で、さらに睨みつけてきました
――もとから<ぎょろ目>だったのが、単に睨んだだけかもしれません。
「チビ?」と"摂"氏が、質問返し。
相手は、黙りこみました。
視線を逸らしました。
そして、身体の向きを変えてキッチンに行きかけた時
――落胆した背中――
"摂"氏は、相手の話している言葉がラテン語だとわかり、
[つまり、目の前の人物は、「お前は誰だ?」という趣旨を尋ねたのです]
「ミヒ?」
歩を止めました。
振り返ります
――尊大に。
その人物は、黙ったまま。
だから"摂"氏は、
「ノーメネ メウム チュー ロガース?(わたしの名前を訊いているのですか?)」
頷いた
――気がしました。
しかし、何も言いません。
間に耐え切れず、
「"セツ"――メー アペロ」と"摂"氏は名乗りました。
相手は何も言いません。だからさらに、
「シーク メー アペラース――シ プラケ」
と、"摂"氏は、既に発言した事と大体同じ内容を、繰り返しました。
すると相手は、
「キド エス?」
そして最後に、「T」を、わざとらしく発音しました
――唇を捻りながら
――右眉を、ひどく傾斜させながら。
しかし、"摂"氏は怖気づきませんでした。
すると相手は威嚇ポーズを和らげ、
「デーニュオー(もう一度)」
だから、
「"セツ"」
と、"摂"氏は、己の名前を繰り返しました。
「スキーウィ イド――エゴ(それは知ってる)」
――は?
<<最初から知っているのなら、訊く必要がないだろうに>>
<<しかし――何故、わたしの名前を知っているのだろう?>>
――"摂"氏はそう、自問自答。
"摂"氏は目の前の人物と、以前会った記憶がないのです
――しかし、どこか面影が…
――はい、やはり知りません。
考えられる可能性は、
1、同級生の"ジュネス・ドレ"が、この人物に"摂"氏の名前を前もって知らせた
2、――
ここは"ジュネス"の家なのだから、(1)がもっともらしい。
<<ところで、この人物は誰だろう?>>
相手は名乗らず、きつく"摂"氏を見つめます。
相手が誰だか、わからないまま
「ミヒ ペルグラートゥス エス テ コンウェニール」
と、"摂"氏は挨拶しました。
すると相手は、
「ふん」
と鼻で笑いました。
その侮蔑は、ラテン語ではなく、"摂"氏の母国語でした。
そして、転じて、
――"ジュネス"邸のキッチンに入って行きました。
その時、"摂"氏は思いました
――今まで、この人物が<泥棒>だったり、<殺人者>である可能性を、少しも考えなかったこと。
歯でした。
拡声器を使わない声がします。
「わかったな?」
"摂"氏が声の方を向くと、既に"鯖頭"とその上半身は箱の中でした。そして、箱の中から人間の腕が一本出てきて、蓋を閉めました。
少し離れた所に歯がまたひとつ、空から落ちてきたのが見えました――砂利の中に混ざりました。
そして、ロードローラーがバックを始めます。そして、
「ぱらぱらぱらぱらぱら」
というより、
「喝喝喝喝喝」
と音を立て、大量の歯が、続けて降ってきます。
"摂"氏はその、驟雨ならぬ驟歯の中、慌てます。
「ちょっと待った!!! 待って下さい!!!」
掌を突き出すつもりで三本指を突き出すと、ロードローラーは待ってくれました。
「何が何だか…」
歯に打たれながら、"摂"氏は問いかけます――文章を完成させずに。その声が擦れています。
拡声器らしき声がします。
「たまにあるんだよ。裁判前の加工プロセスで、お前みたいに、歯と一緒にレールからはずれてしまう奴が」
「ここって――」
「もちろん三十九点――」
「そうではなくて――」
「<地獄>だよ!!!」
"摂"氏は頷きました。
「それより、早く行かなくていいのか?――ヒヒョウカを見失うぞ!!!」
"摂"氏が振り返ると、既に"蚊人間"の背中は、先程より小さくなっています。
そして、ロードローラーの動く音がして――それは進行方向を変えていました。
その時、大地の先に、動きがありました――地平線の上に<点>がまた、無数に生まれているのが確認出来ました。
そして"鯖頭"を乗せたロードローラーが、来た道をまた進み始めた時、
「最後にひとつだけ!!!」
と、"摂"氏は大声を出します――ロードローラーは止まりました。"摂"氏は、砂利道の先で歩き続ける"蚊人間"を指さし、
「あれは、何のヒヒョウカなんでしょうか?」
「知らねぇ!!! あの羽根の色は<食べ物>だから、多分<ラーメンの批評家>だろうな!!!」
そして、ロードローラーは加速して――砂埃を上げながら、去りました。
"摂"氏はすこし見送ってから、乾き過ぎた所為で引っ付いていた口内の膜を破らないよう、丁寧に剥がしました。そして、"蚊人間"の後を追うのです――もちろん、蛙跳びで。
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