はじめての闘い その5 ―けれ "るぃぇ"?ー
振り返ると、
「チビ」
そう発する相手は
――確かに小柄です。
そうです――全体的に小さい印象なのです。
小顔で、胴が短い。
身体を構成するパーツすべてが、それぞれ、小さいのです
――対し、手と足は、異様に長いものでした。
昆虫の、蜘蛛の様でした。
発達した三角筋があり、肩が、異様に盛り上がっています
――現実の中で夢を見る、赤毛の文学少女が着ることを夢見る<パフ・スリーブ>の様に。
そんなの矛盾している
――もちろん理解済み。
<筋肉が発達している>と表現すると、その小柄な相手は自動的に<イカツイ>印象となり、蜘蛛の様な<せせこましさ>はその身体上に現れていないことになる=「矛盾している」、そう云えるのかもしれません
――が、その人物の、胴に対して長すぎる腕と脚は、極端に細いのです
――だからこそ、蜘蛛、という形容が妥当に思われるのです
――しかし、細さから自動的に連想が働く<弱さ>、それは微塵もありません
――雑誌か新聞紙をまるめて、上から叩いても生き続けるスュルビバントな強さ。
腕は、丸み、というより、<岸壁>(がんぺき)の様でした
――上腕の筋肉が削ぎ落ちて、肩からの曲がり角、その下のラインまでが急なのです。
先程、肩を「パフ・スリーブの様だ」と譬えましたが、シュー・ア・ラ・クレーム(シュークリーム)の様な柔和さは無く、<岩石>の様でした
――斜め掛けのショルダーバックをかけるには、首に引っかけなければならないでしょう。
同じ肉体に於いて、つながっているそのファンな<腕>とロシューな<肩>、その二つの、<両極>とも云えるほど異なった特徴的差異が、
<この人物は、普通ではない>
ことを、視覚的に知らせています。
その蜘蛛は、"ジュネス"邸ダイニング・ルームの「L」(える)の曲がり角に立っていました
――まるで、いまキッチンから出てきたばかりという様に。
この細さで、どうやって身体を支えるのか、疑問に思われる程です
――しかし、上半身だけ宙に浮いている、亡霊の様では
――ありませんでした
――そこらへんの人間よりも、身体に生命が満ち溢れているのです
――それは生き甲斐を持った人間の楽観主義ではなく
――生が同じ量を維持し続けるものではなくて失われるものなのだ、と知った者の<遅ればせながらの縋りつき>
――それが、滲んでいるかの様です
――つまり、汗濁なのです。
腕が、
だらり
と垂れています。
そして、上腕と同じ太さの前腕が来て
――骨。
そうです。
皮と骨だけ、という表現があるかもしれませんが、その腕は「骨だけ」という描写に近いほど、白く、細いものでした。
そして、表面に模様が入っています
――透かし彫りの蔦のよう。
腕、ということで考えると細いですが、それが骨、として考えると大変太い棒なのです
――骨粗鬆症など、訪れようとしても、怖気づく様な腕。
その腕の先についた<手>は、爪の先が、
――まるで両極を緊張で引っ張り、ついに耐えられずに千切れた糸の中心点の様に、ほつれて、下がっていました。
そんな指も、フィクション作品で典型的にあらわされる<宇宙人>像の様に、細長いものでした。
そして、片手にだけ、黒いガン(手袋)が嵌めて、あります。
黒革の、ガン。




