はじめての闘い その4 ―"るぃぇ" ふぇ そん あんとれー
以前 [「『実力』と、それを包む邸宅」その10 にて]、
「"ジュネス"邸1Fにあるダイニング・ルームは<L>(える)字型だ」
と地で表した様に記憶していますが、その、<L>の底部の「一」の右先端にドアがあり、その先に"ジュネス"の部屋があるのです。
"摂"氏が奥へ行けば行くほど、
「う」
の音は、明瞭になり、それが犬の<威嚇>に近い音であることが、聞き分けられます。
"摂"氏は、行き止まりました。
扉は、開いていました。
中は、真っ暗でしたが、内装はよく見えます。
壁にはブラインドが掛かっていて――その奥に窓があるのでしょう――まるで、線がすべて光で出来たデカルト座標を見ている様な印象がありました。
その時、部屋は全体的に色を失っていましたが、明るい時なら壁紙が明るい色であろうことが、誰にでも簡単に推測可能だろう程、暗い中で弾んで見えました。
"摂"氏は入ろうか、躊躇います。
"摂"氏が、同級生の名前を呼ぼうと、
「じゅ…」
と発言した時でした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!」
と、叫び声がしました
――部屋の中から、しました。
それは、同級生"ジュネス・ドレ"の声でした。
"摂"氏は竦みあがりました。
<<悪い夢でも見ているのだろう>>
そして、悪い夢を終わらせてやる為、部屋に入ろうと、決意します
――しかし、二の足を踏みます。
奥からすぐに
「すぅ、すぅすぅ」
と寝息が聞こえてきましたから。
"摂"氏はどうすれば良いのか、わからなくなりました。
誰にでも男性的コォシュマーク(悪夢)の経験はあるのでしょう
――現実生活に於いて他の誰も、そして自分自身も取り除くことの出来ない心痛の原因があり、それがどうしようも出来ないままに眠ってしまった、その時に見る悪夢[①]と
――そこそこ、フツーに、苦痛もあれば楽しみがある時に、偶然見る悪夢[②]
それぞれでは、魘され方において異なる点があることは、誰もが知っていることでしょう。
"ジュネス・ドレ"の魘され方は、まさに、一番目の悪夢のモノでした。
"摂"氏は、戸惑ったままです
――だからといって、"摂"氏が、
「この難事件の真相を暴いてやる!」
といった下世話さに、すぐに転じる訳ではありません。
「こんなことになるんなら、"ジュネス"のプライバシーに首か足を先に突っ込んでおければよかった」
と後悔することもありませんでした。
"摂"氏はただ、次の一手を探っていました。
また、"ジュネス・ドレ"が唸る「う」の音が、響いてきました。
因みに、"ジュネス・ドレ"の部屋は、<L>を横[左]に90度回転させた形で、ダイニング・ルームの<L>に、繋がっていました。
たとえばブロック・ゲームで、横一列に並べると〼が消滅して得点が加算されるものを見たことがありますが、その熟達者が連鎖を目指して隙間を開けてどんどん積み重ねる、その、わざとらしい未完成
――それがダイニング・ルームと、"ジュネス・ドレ"の部屋の関係に当たります
――基本的に、この様な関係で全体が出来ているのが、この館、"ジュネス"邸なのです
継接ぎだらけ、という意味ではありません
――ちゃんと建築の計画書に沿って作った、館なのでしょう。
しかし、すべての部屋と部屋の関係には何か、互いにすんなりと熔け込まない様な歪さがある――そんな様を持つ家なのです。
――恐らく、その歪さこそが、館を<饅頭>の様に見せているのでしょう。
"摂"氏は"ジュネス・ドレ"の部屋に、顔だけ入れました。
奥には、二段ベッドがあります。
二段ベッドの下の段に、ふくらみが見えました。
その時!
「やめてくれ!」
――先程より、より明瞭な発音で。
<<もう暫く、寝かせておこう>>
"摂"氏がそう思った――
その時、背後で声がしました。
「チビ」
耳にしたことのない声でした。
しかし、声の主が、<大人>であることは、すぐに分かりました。
"摂"氏は振り返ります。




