はじめての闘い その2
扉を閉めた途端、
鳥がとつぜん飛び立ったのか、羽ばたきが
「ア ティーク デルス」
と聞こえました
――複数でした
――庭にいたのでしょう
――鳥の癖に、擬態語がエスプリに気取っていますね。
外――眩い。
暑い
――本当に<シツコイ>のです
――まるで、この話の<描写>の様に。
芝は、陽に映えていました。
火事にはなりませんが、もえていました。
前晩は気付きませんでしたが、庭にはスプリンクラーがある様です。
"摂"氏が"ジュネス"邸の<離れ>を出た時は、作動していませんでした。
<<やはり大金持ちは、手作業で芝に水をやらないものだ>>
<<というか、芝には水をやるものなんだ>>
<<当たり前か――草だもの>>
<<単に草刈り機を買えば手入れが十分になるわけではない>>
と、"摂"氏は、新たに学習しました。
そして、スプリンクラーを見ることで、シャワーが浴びたくなりました。
その前に――
目の前に、原色を取り戻した風景が、あります
――同じ風景でも、昨晩のそれとは、大きく異なります。
それは、夜か昼かの<違い>ではありません。
それは、プールに於いて、際立っていました。
"ジュネス"邸の裏庭にある屋外プールは陽光の下、夜に現れていたあの<陰鬱>なイマージュ(イメージ)
――それは恰も、霧消したかの様で
――快活さだけが、ありました。
(英語で云えば、<トンボイ>な感じです――ピシヌ(プール)は女性形ですから)
しかし、その<快活さ>は、漂っていませんでした。
それは、風景の中にあるすべてのモノに、タンポケークモン(一時的に)宿っているかの様でした。
水面に光が反射して煌めく
――様子は、ありませんでした。
波は、ない
――少なくとも、目立ってあらわれてはいません
――"摂"氏の視力が悪いだけかもしれません。
風はない、と思いました
――あるのかもしれませんが、既に、その後、漸次的に高まっていくだろう過激、既に存在しているその兆しを内包している、そこにある<暑さ>によって、知覚の為の重要度が貶められていました
――それか、その日も、ヒトに暑さを届けるためにしか、役に立たないのでしょう。
ただその日、茹だるようでは、ありませんでした
――まだ。
プールに行かず、ポーチに上がり、"ジュネス"邸母屋1F<玄関スペース>に向かいます。
裏口は、開いたままでした。
金属製の取っ手が、熱くなっています。
入ります。
部屋の中は、それほど暑くはありません。
<<どこへ行けばいいのだろう?>>
"摂"氏は迷います。
"摂"氏は館を、ひとりで、勝手に、探索する気には、なれませんでした。
玄関スペースには、ひとりがけソファ
(もう、家具描写に於いて、<高級感>を指摘することは不必要でしょう)
――があり、その傍にあるサイドテーブルには、テーブルライトと、置き時計があります。
デジタル式です。
その時はまだ、午前の、早いうちでした。
モダンなテーブルライトは、陽光の中で目立たなくなっていますが、明かりが灯ったままでした。
その時、気づきました。
館の正面は、すべてカーテンが、閉められたまま。
館の裏のカーテンは、すべて絞られている事。
陽光の力強さを鑑みれば、電気の無駄を発生させているそのライトを消すべきか否かを、エコ活動に強く関心のある"摂"氏がハムレットばりに迷っている間、傍の窓を覆う、豹柄のカーテンの裾が揺れる
――のが見えます。
浮かんで――沈む。
やはり感じなくとも、風はそこにあるのでしょう。
さて、これから、選択肢は三つ発生します。"摂"氏は
1.左手の、ダイニング・ルームへ行く。
2.階段を上がって、"ジュネス"邸2Fへ行く。
3.右手へ行く。
この後、"摂"氏が、どれを選択するかは、すぐにわかることです
――どれがバッドエンドかも。




