はじめての闘い その1
――"ジュネス"邸 二日目――
闇の中で、"摂"氏は目覚めます
――しかし、闇だと思っていた<それ>は、そうではありませんでした
――<夜>でさえ、ありませんでした
――それは、直黒では、ありません
――もちろん
――壁の上、漏れている、縦に、横に、<ア ヴォル ドワゾ>(直線的)に走る光によって、<朝>を迎えたことがわかりますから
――光に交差点はありませんがね。
それにも関わらず、鳥の鳴き声は、ありません。
部屋に籠った暑さはその日、前日が繰り返されるだろうことを、端的に示していました
――だからといって、暑すぎはしませんでした
――"摂"氏は死んではいませんし、我慢できる程度です。
ただ、静かでした。
怖いくらい、物音がしません。
その日は、前日とは違う日になる予感が
――しませんでした
――"摂"氏は予知能力者ではありませんから。
足にかかっていたシーツを、"摂"氏は払いのけます。
こんな暑いのに、何故、掛布団の助けを借りようとしたんだ?
と"摂"氏は、眠りの最中にいた筈で、いまは眠っているだろう<自分>に問いかけます
――そして、答えはありません。
上掛けを取り除き、より涼しくなり、解放感も伴いましたが、
――清涼感はありませんでした。
すこしの間、ベッドの上にいました。
天井を見つめることは、ありませんでした
――あまりにも文学的に、典型的ポーズですから。
哲学者の様に、
「自分とは、何か?」
と考えることも、
――ありませんでした。
ただ、体育座りでした。
"デスボークデス・ヴァルモーク"の<薔薇>の香り描写から、
「スマタン(朝)が何時で、スソア(夜)は何時か」
を具体的に特定しよう、と、頭の中で、計算中だったのです。
動きもしないのに、汗濁になります
――じとじと、と部屋
――そして、そんな身体
――自業自得。
動く準備が出来たのか、
――将又数学的には合理的となる答えが出たのか、
跳びあがって、手近のカーテンを開けました。
"摂"氏が目を細めることは、ありませんでした
――振り返りましたから。
部屋の中は、地中海モチーフで統一されたままです。
"摂"氏の背後、一か所から射し込む光が、部屋の中から、<暗>を追い出したのでしょう
――それでも、四面の壁のうち、一面だけ異種となっている煉瓦の壁には未だ、へばりついている残党がいます
――負けず嫌いですね。
それでも、すべてのカーテンと窓を
「しゃ」
と猫の足音の様に開けると、徒労となるのです。
部屋に、時計はありません。
"摂"氏は、時計を持ち歩くタイプではありません。
しかし、
「午前中だろう」
と見当をつけました
――根拠も無く。
部屋は、電気をつけることで目撃した前の晩の<部屋>と異なる部分が
――ありません
――二枚の絵を並べて<まちがい探し>でも行うのなら話は別ですが、もう前晩の部屋の様子は、"摂"氏の心象にしかなく
――それも、もう、絶対性を失っています
――眠りは、それをそうさせるのに効果的なのでしょう
――少なくともその時、失いつつありました。
少なくともその時、部屋のテーマは、白のままでした。
部屋には、綿ゴミがありません。
塵ひとつ、
――ありました
――部屋の中、煙の様に、濛々(もうもう)とたっています
――光が入ることで、わかる事です。
"摂"氏はベッドを整えてから、
ほら、シーツの耳をマットレスの下に押し込んで
――パンデュミ(食パン)に行う様に、余分は斬り落とさなければ
「あら」
――ミデュパンは固く、緊張させて。
それを確かめてから、"摂"氏は、"ジュネス"邸の<離れ>であるその小屋を、
手ぶらで、
ブラブラブラ
出ました。
鍵はかけませんでした。




