もびりえ ふゅねれーる その11
夜の匂いを
――実際にその鼻で
嗅ぐ前に、"摂"氏は立ち上がります
――ノートを持って。
そして、動き出します――
「それで、あなたは何もせず、わたしにやらせようと云うのですか?
――その、<何か>を探す事。
そしてわたしが作業を行っている間、あなたは寝ころんで、そして良い所
――自分にとって都合の<良い>所だけ取ろうとするのですか?」
「違う!
――そうじゃない」
"摂"氏は大学ノートを、<段ボール箱>へ戻しました。
そして
――下から
――上へ
――そして
"ドレ"を見つめました
――その顔を
――睨みつける様に。
「オレは読んだんだよ」
と、"ドレ"が呟きます。
「そうですか」
「オレは、それ」
――そして、<段ボール箱>を指します。
「――を読んでみたんだよ……」
「そうですか」
「オレには無理なんだよ」
「努力が足らないだけでしょう」
「お前それ読んでみろよ!
――<ラテン語>だけじゃないから
必要なのは、それだけじゃない!!
必要なのは――」
そして、"ドレ"は目を落とし
――指をひとつづつ、折ります。
人差し指まで折ってから
――人差し指をまた開き
――薬指を続いて開いて……
――顔を上げて
"摂"氏を、まっすぐ、見つめました。
「ああ、そうだ
――世の中には十ヶ国語を話せる奴はごろごろいるんだろう
――でも、言葉だけじゃないんだ
――言葉が理解できればいいってもんじゃない!!
――その言葉で書かれた<内容>を理解出来る<頭>が要るんだよ!!!
その頭が、オレには無いんだ」
「以前だったら――」
そして、"摂"氏は言葉を切り
――視線を落としました。
そして再び上げて
――微笑みました。
明らかに、作り笑いでした。
「以前だったら、喜んでやったでしょう
――跳びついていたでしょう。
たとえ難しくても
――死んでも
やったでしょう。
そして見つけたモノを
――それがどの様なモノでも
喜んで、あなたに差し上げたでしょう
――あなただけではなく、他のヒトにも。
でも」
そして――
「――多くのヒトは、<それ>が欲しくはないのですよね」
「どういう意味?」
そう、"ドレ"の口に、ついて出ると、
「幾人かは、
<素晴らしく>
<美しい>
モノがこの世に
――同じ人間の手によって
現れる位なら、現れない事を欲するのです」
「そんなことはない」
「そうでしょうか?
――わたしは目撃しました。
<共感>の力で、ヒトが<素晴らしく>
<発達した>モノを放っておき、
――腐らせて、
簡単で、
わかりやすく、
楽しい
――それらを尊敬するのを。
大したことの無いモノを、大したことがあると誰かが言って
それを耳にして、
――大したことがあると思い込んで
その傍で<人間の卓越>を、肘で脇に寄せて
――<それ>がバランスを崩し
崖から落ちるがままにさせるのを。
わたしは、何度も、見たのです。
その様な現象は、特別な事ではありません
――誰だって
――あなただって
――知っている事。
歴史的に、何度も繰り返されました
――そして、<いま>も繰り返されていますし
――これからも、そうなのでしょう。
そして、多くのヒトは改善をしないのです
――<したくない>のだから。
多くのヒトはいつの時代も、みんなで一緒に棒きれを拾って、マンモスを追いかけたいのですよね
――隣りの誰かに、新たに<石器>を作り出される位なら
――同じ人間に、新たに<弓矢>を発明される位なら
――自分たちと同じである<人間>に、新たに<火>を起こす知性を持たれる位なら、
棒きれを、そこら辺から拾うまま
――<無いまま>
で済ましたいのでしょう。
そして仲間を大切にしながら、
百人の仲間のうち、幾人かが結果的にマンモスに踏みつぶされる事になったって、どうでもいいのですよね……
――自分たちと同じ<人間>の内誰かに、マンモスによって発生する被害を食い止める<装置>を発明される位なら。
口では、
「百人みんなの為」
と言いながら、百人のひとりひとりを見つめてなどいないし、考えてもいないのです。
そして、悼みたいのです
――哀しみ、憐れみたいのでしょう
<感>じたいのでしょうね……」
「金か? お前は金が欲しいのか?」
"摂"氏は、初めて、"ドレ"を軽蔑しました。
顔に<それ>が浮いています
――だから、押し留めました。
「以前はね、<そんなの>どうでも良かったのです
――以前はね」




