もびりえ ふゅねれーる その10
「これ」
そして
――ディスプレイに乗せていた手を……
外し、
"ドレ"は蹲りました。
テーブルの下で
――何か
「ごそごそ」
――しています。
その間――[時間が掛かりそうなので……]
上の空だった"摂"氏は、パソコン
――その脇にある
――フロッピーディスクが並列するケース
――その脇にある
<奇妙なオブジェ>
を見つけ
――見入りました。
<壺>です
――土器の様な、小さな壺
――口に、糸で切り取った様な<シャープさ>を残す壺。
――テーブルの上、<宙に浮いた>壺。
壺の底から、太い、人間の、二本脚が生えているからです
――足にはちゃんと、爪先があります
――子供がする工作の、粘土細工の様です。
そしてそれは<仁王立ち>
――ではなく
足の裏と裏、前後に間隔をとって――
横から見ると、足の間に<三角形>の空間を作っています。
<<よくバランスが取れている……>>
壺の表面には、ニッポン語の<かな>で
「イイネ!」
と、記されています。
壺の中には一本のボールペンが
――斜めに
立ち、
その尻には
――消しゴムなのでしょう……
緑の<葉>の形をしたモノが付いています。
と、
「ごそごそ」
が終わり、
そして、パソコン用のテーブルの下から出てくる目的のモノは、
<段ボール箱>。
蓋が
――枝から芽吹く若葉の様に
開いていて…
――分岐点に
<大学>ノートが見えました
――そして一冊、地面に滑り落ちました。
「これ」
そして、"ドレ"は
――先に落ちた大学ノート
――その脇に
その段ボール箱を
「どす」
と置きました
――段ボールの中は、やっぱり<ノート>。
"摂"氏は
――"ドレ"と入れ替る様に
跪きます。
梃子の様に上体を起こした"ドレ"は
――腰に手を当てました。
"摂"氏は、床に落ちた方のノートを拾います
――表紙には、年と日付が(数字で)書いてあります。
開きます。
<ラテン語>です
――極めて<現代的>なアルファベットで
――それも、ブロック体で
――丁寧に
――わかりやすく
書かれています。
「ぺらぺら」
と捲り、"摂"氏は
「これが、わからないのですか?」
と、上目使い。
「あなたは、これ ["摂"氏はジェスチャーを付します] の内容が知りたいのですか?」
「オレが知りたいって云うか……」
と"ドレ"が、語尾を汚します
――視線が地面を彷徨います。
地面は、色の無いタイルで舗装されていました。
「お前が知りたいだろうと思った
というか……」
と、"ドレ"が補完したので
「どうしてわたしが?」
と"摂"氏は
――自分の顔を、人差し指で示します。
「知らねぇ――」
そして、視線を逸らしました
――宙へ。
それが泳いでいる間、"摂"氏は、<段ボール箱>の中を調べてみました。
上から下まで、大学ノートの山。
「これから、何がわかるというのですか?」
と一、二冊を捲りながら、"摂"氏が尋ねると
「だから――知らねぇって」
吐き捨てる様でした。
"摂"氏は、戸惑いました。
だから手を止めて、
「この程度のラテン語なら、辞書を引けば、あなたにだって……」
「オレが知りたいんじゃない!!」
――叫ぶかの様に、"ドレ"は大声を上げました。
"摂"氏は
ゆっくり
相手を見上げます。
「オレは、アイツなんか嫌いだ!
――キライなんだ!!
オレはアイツなんかどうでもいい…
――どうでもいいんだ!!!」
実際に、唾の粒が飛んでいる――
それが、見えました
――それは床に
――落ち……
「帰った方が良いですか?」
と、立ち上がる"摂"氏
しかし、
「そうじゃなくて――」
と、言葉で邪魔をされ
――結局、<立ち上がり>は完了せず、
中腰をキープする"摂"氏。
そして
――相手が言葉を継がない為、再び腰を落としました。
暫しの間を<沈黙>で埋めてから
"ドレ"は、
「アイツはずっと<何か>を調べていて
――アイツは<それ>を発表しようとしなかった……
――みんな、言ったんだよ……
『論文にすればいい!』
『学会でプレゼンテーションすればいい!!』
『それがダメなら、どこか別のところに発表すればいい!!!』
『この国が嫌なら、海外に行けばいい!!!!』
そう勧めた
――でも、アイツは何も言わなかった
――何もしなかった
――<発表>に関しては、な。
ウチの兄貴も言った
ウチの母親も言った
口を酸っぱくして言った
――でも、アイツは黙ったままだった。
全部、無視したんだよ!!
――ぜんぶ、むし、したんだよ!!!
そんでずっと
<何か>
をしていた――
<何か>をしていたんだ
――独りで。
オレはアイツが大嫌いだ!!
――いま考えても、アイツの態度にゃ腹が立つ
――ムカつく。
アイツなんか家族じゃねぇ!!!
でも――」
そして言葉を切りました
――そして、窓外に目をやります。
「でも、アイツが
――アイツが何かを残そうとしたのなら、
それの邪魔をしたいとは思わないんだ………」
外には、<夜の兆し>がありました。




