もびりえ ふゅねれーる その8
<黒革のガン>………。
それを見て
――ショックを受けた後
――落ち着きながらも
(正確に表現するならば、<落ち着こうとしながらも>)
駆け寄る様に――
開いたばかりのコンクリートのトラップドア的<壁>を過ぎ……
"摂"氏は
――部屋に飛び込み
テーブルに近寄りました。
そして"蜘蛛宇宙人"の<ガン>を見下ろし、
掴み……
――ませんでした。
触れる事に、躊躇いを覚えたのです。
手入れが行き届いているのか、皺がある
――が、全体的に艶のある
[――味のある………]
ひかく。
[恰も野球選手が大切な道具にクリームを塗るかの様に
――そんな風にガンの所有者が手入れしている様子が見えなければ
ここでは<皺>と形容せずに、<罅割れ>としたでしょう……
――それは<直線>であり、あの、怠け者の所有品によく発生する、枝先が派生してその先に無限の可能性を暗示させる<樹形図>にはなっていませんでしたので………]
そして、"摂"氏の意識は
――すぐに
――他に
占められるのです。
<それ>と同じ色の<闇>が部屋に満ちている事
――空気と同じ様に、<籠っている>という事……。
それは、図書館のニオイと似ている
――事はありませんでした………。
<それ>は歯医者の
――処置室のニオイ
――でした。
暗い部屋の隅、幾筋かの光が壁から
――将に
漏れている
――かの様に
――まるで死んだ毛虫の様に
動かず
――直線で
同じ場所に
キラキラと
在り続けています。
[それらは幾つか在りますが
――部屋のモノすべてを
はっきり見せるには、役不足]
その時、"ドレ"は机の傍に立って
――何か、調べていました。
「窓を開けないのですか?」
と、"摂"氏が声を掛けると、
「開けた方がいい?」
と――横目。
テーブルランプの間接照明では、その顔から<印象>を捉える事が難しい様です。
「そうですね……」
と、"摂"氏
――そしてひとつ、咳。
すると、
「アイツがほとんど、塞いじゃったからね」
そして
――"ドレ"は調査
――らしき行為
を中断して――
さらに部屋の奥へ進みました。
その、遠ざかり、翳った後姿を確認してから、"摂"氏は気付くのです。
ライトとガンの乗った机は
――壁に
つまり
――窓に
面している事。
そして、窓には、カーテンが付されて無い事。
さらに窓が
――窓の形に
コンクリートで隙間無く
――平らに
――内側から
埋め立てられている事。
見回すと、それは唯一の例外ではありませんでした
――"摂"氏の立ち位置から見える全ての窓が、コンクリートで埋まっている様なのです。
窓それぞれに宛がわれたコンクリートとコンクリート
――その間
――"ジュネス"邸の<その他>と同じ素材が使われた壁
――それを覆う
――闇の中
部屋には色々が
――大きいモノから小さなモノまで
――壁に面して
――床に沿って
立ち並んでいる事が分かります。
それらは本棚の様であり……
「この部屋、窓はここしか開かないんだよね」
そして
――部屋の最奥で
"ドレ"は開けるのです
――カーテンを。
射し込む光
――それでも、部屋が急激に明るくなる事は、ありません。
しかし、光に由って部屋のモノ達の姿が、さらに明らかになります
――しかし依然として、<何がどれか>を具体的に解説するレベルにはありません。
[十分では無いだけです]
薄暗い中、離れて、"ドレ"の呻り声が微かに聞こえます
――それは独り言
――それは、何かに手間取っている様子。
そして……
――レバーを上げる様な、大きな音がしました。
開きます――振動する、窓ガラス
――その音
消える。
瞬時の間
――その後
"摂"師の側面を、吹き抜ける風。
そして"摂"氏の目の前
――不活性に宙を舞っていた
部屋の
埃
の動きが
――その速度が……
速まった
のが、確認出来ました。
"ドレ"は
――風に後押しされるかの様に……
「すたすたすた」
と、テーブルの傍へと戻ります。
テーブル
――その上にあるがままの
――黒革のガン
――その傍にある
機械。
それは、「コ」の形をしていました。
"ドレ"は、それに手を伸ばしました。
「プチ」
という音が、聞こえました。
続いて、紫のライトが、その機械の「コ」の内側に、淡く灯りました。
そして、"ドレ"は
――紫のライトの余分を下から受けた
不気味な顔を"摂"氏に
――まっすぐ
向けました。
微笑みます。
「ホント馬鹿だと思わねぇ? これ、日焼けマシンなんだよ。
――くだらない」
そして、笑います
――部屋の空気と同じ程度に、乾いています
――渇いて聞こえます……。




