もびりえ ふゅねれーる その7
只、その笑顔は、すぐに翳りました
――"摂"氏の顔を見て、合わせたのか
――それとも死んだ親族を想ったのか
――将又
――陽が落ちたのか。
"摂"氏が窓外を見ようと――
「これはな……」
すると、"ジュネス・ドレ"は
――仁王立ちのまま
――上半身だけ動かして
手を遠く伸ばし
――クリストフル記号の様に
――<壁>の上、
ちょうど肩のライン
――その下の辺り
に、手を置き
指
――人差し指と中指と薬指
で、<壁>の一部を押しました(A)。
その時、"摂"氏は気付きます
――<そこ>には
――コンクリートだと思っていた<壁>の一部には
別の素材が使われている事。
遠目
――そして
<全体的>
に見ると分かりづらいのですが、そこは
硬いゴムの様な
しなやかな表面。
待てど壁は
「うん」
「すん」
とも、言いません……
――と、
"ドレ"は下ろしていた反対の手を、壁に向けました。
そして、壁の少し上の部分に置き、同じことをしました(B)。
最後に、手を再び下ろし……
同じ事をしました(C)。
ちょうど、<壁>を平面図(正方形)と考え
――x(横)軸とy(縦)軸が中心点"0"で交差していると考えた場合、
一番目の点Aは、x軸から考えると正だが、y軸から考えると負の位置
二番目の点Bは、y軸から考えると正だが、x軸に於ける負の位置
三番目の点Cは(x, y)両方とも負の位置
という様子でした。
そしてどれも、平面図を四分割するクロスのライン
その傍にありました。
その時!!
物音を(一瞬)立てて、
コンクリートの壁が
――外れる様に
――回転ドアの様に
傾斜しました
――それも、<少し>だけ。
壁の灰色と区別される
――黒い、縦の、直線。
ヒトがひとり入るのに、十分な大きさはありません。
"摂"氏は
<<次に何が起こるのか?>>
――"ドレ"を見やりました。
"ドレ"は隙間を
――目を細めて
見つめていました
――<<思い詰めている>>
"摂"氏は、次に何が起こるのか、見守ります。
すると、"ドレ"が
――足の位置を変え
両掌を
奥へ傾斜した壁の半面に付けました
そして――
押します
――踏ん張りながら。
「手伝いますか?」と背後から、"摂"氏。
「いいいい」
その発言の通り、必要ないのでしょう
――滑る様に、直線的<隙間>の面積は拡がって行きます。
ひろがれば、ひろがる程、
"摂"氏は確認します
――剥き出しになる
コンクリート壁の<厚さ>。
それは、表面から見るのと違って、極めて
<薄い>
モノでした。
薄い厚さが明らかになるのと比例して、拡がる隙間。
そして中の様子が見えてきます。
中は真っ暗ですが、
ぼんやり
と、モノの輪郭が見えてきます
――しかし、何がどれかはまだ具体的ではありません。
先ず見えるモノは、机
――その角
らしきモノ。
一人が通る事を容易とするまで<壁>を押した後、
"ドレ"はそのまま
――滑り込む様に
奥へ入り
――"摂"氏が続こうとすると、
クリック音がして
<テーブルランプ>が点きました。
そして"摂"氏は目撃するのです
――ランプシェード
[それは、ニッポンの和紙で出来ています]
その真下、
片手の、黒革のガン。
"摂"氏は息が詰まりました。
[この時になって初めて、"摂"氏は、"蜘蛛宇宙人"が本当に死んだのだ、と認識したという事です]
勿論、同級生である"ドレ"の発言を信じなかった訳ではありません
それでも、
「あのヒトは、死んだのだ……」
そう思ったのは
――そう実感できたのは
あの――
シェイクスピアの夏のソネットを隠していた
<手袋>を、
その目で見た時。
唾が口の中、大量に溜まっています
――飲み込む必要があり
"摂"氏はそうします。
「ごく」
――普通のヒトの様に。




