もびりえ ふゅねれーる その6
すべてが無動――
その中、
掛け時計の長針が微動して
――それに釣られ
"ドレ"は歩き出します
――"ジュネス"氏と"ジュネス"夫人の寝室
――へ繋がっている
――<応接間>
――へ繋がっている
ガラス戸
とは反対方向へ。
階段を上がったまま動かなかった"摂"氏は、ピボット――
背後
――つまり、"ジュネス"邸二階
――と一階を繋ぐ
――<階段>
――の為に開けられた
――モノがない
――空間
――を取り囲む手摺
――に沿って
迂回して
"ドレ"は二階を歩いています。
狭い
――と云っても
――ヒトが二人歩くには十分過ぎる程
の、その
――手摺と壁に挟まれた
通路を"摂"氏が
<<続こう>>
とすると路の途上
――その一角、
<機械>が見えました
――その脇を通る際、"ドレ"は身体を縦(半身)にしました。
[通路は、その<機械>と"ドレ"の横幅を足しても、お釣りがくるほどの大きさですが……]
コンビニエンスストアに置いてある、
<コピー機>
の様な、四角い機械でした
――しかし、上蓋は、ガラス張りになっています。
その機械の脇を、続いて"摂"氏が通る時
[――"摂"氏は身体を縦にはしません……]
ガラス製の蓋の下
規則的に
大量に
並べられた
<試験管>
が見えました。
しかし、すぐに視線を逸らします
――しかし、すべてに中身が無い事を確認するには十分な時間がありました。
立ち止まる"摂"氏
その前に
立ち止まる、"ドレ"
その背中が見えます。
その向こうに
壁。
コンクリートなのでしょう
――灰色で
――表面に傷ひとつない
――線ひとつ
――模様ひとつ
――気泡ひとつ
――入っていない
極めて<平ら>に近い壁。
その時、"摂"氏は違和感を得ました
――誰だって、そうなるでしょう
――統計を調べてないので、知りませんけど……。
["摂"氏自身は、上記"違和感"なる表現を認めなかったでしょうが、語彙が貧相ですので、他に何と言えばいいのかわからないのです……]
違和感の原因であるその壁は、
"ジュネス"邸全体のテイストに、
調和していないのです。
ニッポンには「和洋折衷」なる言葉があるそうで
――知りませんけど……
――どうもそれは、極めてポジティブな意味で使われているという事だと理解しています。
しかし、その<壁>は、恰も
――「和洋折衷」的に表現するならば
<畳の上に乗った、一脚のロココ調四本足の木製椅子(書き物机がセットになっていない)>
亦は
<コロニアル風の豪邸、その窓として嵌められた障子>
それらの様で
――同じ事を言い換えますが
その<壁>は、"ジュネス"邸全体のイメージに、フィットしていないのです。
<<素材(つまり、コンクリート)のせいだろうか?>>
"ジュネス"邸はところどころに現代的なテイストが混ざっている
――古典も勿論、同じ程度に混ざっています
建物なのですが――
<コンクリート>が理由ではなさそうです
――実際、"ジュネス"邸一階キッチンは、それに近い素材でした
――そして、色でした……
――あの暑い日にその場所へ行った時、"摂"氏は違和感を感じなかった筈です。
[他の事に違和感を感じていた為に、それを見逃していただけかもしれません
――知りません]
"摂"氏と"ドレ"の前に在るは、
単なる壁。
そうです――
それは、
装飾がすべてに施されている"ジュネス"邸のモノの中で
――<シンプル>すぎて、合っていないのです。
"ジュネス"邸の二階は、確かにシンプルです
――しかし、それは
<ヒトが生活する上で不必要な物が限りなく少ない>
という意味です
[――逆を云えば
<必要な物はある、という事>]
――その<壁>は、そういう意味では、シンプルではないのです。
その<壁>自体が生活する上で
不必要であり、
そしてコンクリートである
必要さえもない
<壁>。
世の中の
<不必要が固まって出来ている>
そんな壁。
<<この館の、他の場所に使用されている壁と素材を同じにすれば、問題無いだろうに……>>
そう考えた時、わかるのです――
<それ>は、
他と同じである事を拒否し
――いや、そうではないのでしょう
寧ろ
<拒絶>
している
そんな<壁>。
"ジュネス・ドレ"が、
「これは、トラップドアになっているんだ」
と、その<壁>を叩きます
――中指の背で……
――ノック
――どころか
――表面に音は付随しません
――反響もありません。
叩いても、何も起こりません。
「中は、シェルターにでも、なっているのですか?」
と"摂"氏が真面目な顔で尋ねると、
「そうかもね」
と
――振り返り
"ドレ"は笑いました
――快活に
――厭味無く。




