↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
再考編(合宿)
PR
84/207

第84話   本当に大切なもの

各班は食料や水分を補給し、山を一つ越えることが開始1時間半後には出来ていた。

それほど息は上がっていない。しかし、問題があった。

それは、地図の正確性。

いくら様々な路地を記していたとしても、地元民でない部員たちにとっては全てが未開の地であり、現在地の把握と目的地へのルートが的確かどうかに確かな自信が持てなかったのだ。地図のみでのゴールは不可能だったである。

それに気付たのが、各班共にこの時間。

しかし、その解決方法は容易に見つけ出すことが出来た。

それは序盤同様、人に道を聞くこと。

散開した部員たちが地図やメモ用紙を頼りに道を訊ねる姿を見ながら、引率者の滝沢や望月薫は感心していた。


「ぎこち無いのが減ってきたな。」


彼らは数日前の美津田との会話を思い出す。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「引率者の仕事の大体のはわかったんですけど・・・何故なんですか?みっつぁん。」

「何のことだ?滝沢。」

「何でこんな面倒臭いトレーニングをするんです?人に道を聞きながら進むなんて。」

「イマドキの連中には丁度いいんだよ。」

「いまどき?」

「そう。ネットだの何だので影でしか会話しない。直接会話する方法を避けるやり方で、フレンド申請した奴とだけ打ち解けて話すような今時の高校生には、このやり方が一番【解りやすい】。」

「何がです?」

「相手の気持ちだ。」

「???」

「人と会話する上で必要な要素と、ネットで書き込む要素には大きな違いが幾つもある。例えば、視線とか。」

「視線?」

「そう、視線。相手の目を見て、表情を見て話すことで、相手の考えや相手との距離がどれくらいかがよく解る。そういった当たり前だけど必要なことが、今の高校生には必要なんだ。現に、ちゃんと目を見て会話しあってるメンバーが、今現在でどれほどいるかと言うと・・・限られてるし、一部のメンバー間でしか見られない。」

「そりゃ・・・よくあることでしょ?」

「いや滝沢。本当にこの5年間で世界は変わったよ。当時はSNSって何?ってくらいだったのに、皆それが生活の一部になってしまっている。直接会った時よりも会ってない時の方が会話が多い奴もいるかも知れない。」

「そうですか。でも、それがそこまで問題です?」

「大いに問題になる。特にチームスポーツではな。」

「???」

「自分がパスをする瞬間に誰がどのようなことを考えているか、相手の考えを読み取って行動することの難しさはサッカー経験者なら誰だって解るはずだ。お前だってな。」

「もちろん。」

「そうだろ。ウチのチームもカウンターでのミスは減ってきたし、そのお陰で得点シーンも大分増えた。」

「なら、いいじゃないですか。」

「それだけじゃダメなんだ。」

「だけって・・・どういうことです?」

「決まり事は上手く出来てきたが、その決まり事も常に発揮できる訳じゃない。」

「???????」

「ウチは強豪の桜台東に勝った。僅差でも勝った。これからはウチをマークするチームも増えるだろう。今まで上手く決まってきた得点シーンも分析されて、阻止される回数も増えていくはずだ。そして、そうなった時にこのチームは・・・(もろ)い!」

「!!!!!!!」

「言われたことをただやるだけのチームには限界がある。決まり事がいかにしっかりしてても、結局サッカーをやるのは人間だ。機械じゃない。【ミスを絶対にしないチームは存在しない】。」

「それも・・・当たり前の事ですよ。」

「そうだな。だが・・・ミスへの対策は有る。お前ならわかるだろ?薫。」

「・・・カバーリングってことか?」

「そうだ。カバーリングだ。今の国巻の最大の弱点はそこなんだよ。」

「?????」

「あいつらは本当に非常事態でのカバーリングが下手なんだ。」

「ひじょうじたい?」

「そう。誰かがトラップやディフェンスをミスした時、今の国巻は仲間がそれを意識してないから、危険なシーンが本当に目立つ。味方のコンディションや精神状態に配慮した動きを誰も取ろうとしない。唯一それが出来ていたのは須賀だけだった。その須賀も怪我しちゃったしな。」

「それで?」

「全員にそれを体得してもらう。自然に。それの最大の近道は、相手の目を見て話すことだ。」

「ちょっと待て、美津田!」

「何だ?薫。」


「それってお前が部員達に、『相手の目を見て話すこと』って【強制的に指示】すればいいじゃないか。」


「薫、それは【最悪の選択肢】だよ。」


「え?」


「監督の言う通りにさせる。監督の言い付けを守ることが絶対。そんな発想、まるで俺たちが岡山監督にさせられたサッカーみたいじゃないか。」


「!!!!!!!!」


「俺はそんなさせ方絶対にしないぞ。例えムチャクチャ廻り道になったとしても、選手本人にその大切さを気付かせたい。言われたことをやるだけなんて、最悪の方法さ。」


「・・・・・・・・・。」


「日記が良い例だ。俺は練習や試合後に日記を記すことを義務付けてる。だが、例えサボったとしても、何のペナルティーも与えるつもりは無い。選手一人ひとりが書く事で何かに気付ける大切さを感じることが一番だからな。書かない奴に罰則を与えたら、気付くことじゃなくて、書く事が重要になってしまう。それは大きな間違いだ。」


「・・・・・・・・・。」


「幸い書くのをサボる奴は一人もいない。寧ろ1ヶ月だけのお試しで書かせるつもりだった3年生達は、日記の継続を俺にお願いしてきた。」


「そうなのか!」


「あぁ。日記によって少なからず自分と向き合うことが出来てきたんだよ。あいつらは。でも、それだけじゃダメだ。本当に向き合うべきはチームメイトとのはず。だが、今更真剣に向き合ってなんて、どうしたらいいか解らないはずだ。だから見知らぬ人と会話させて、見知らぬ人と会話するチームメイトの姿を見せて、あいつらに解らせる。相手のことを考える大切さを。」


力説する美津田の姿を見ながら、滝沢と望月薫は呆気にとられていた。一体どこからそんな発想が生まれてくるのか。それを必死に考えてみるが、簡単に推論は出せないでいる。


「メンタルなんて、言ってみれば気の持ちようなんだよ。死ぬ気で走り込んで死ぬ気で練習して、試合本番で必死に頑張ったって、上手くいくのは自分たちの流れの時だけだ。相手の流れに飲まれそうな時、飲まれている時に、仲間の事やチームの事を考えるチームが本当に強い。あいつらには本当に強いチームになって欲しいんだ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



順当にゴールへ進む各班の中で、C班に異常が発生する。

1年生のサッカー素人、園崎の動きが明らかに重くなっていた。


「大丈夫か?園崎。」

「すいません!気にしないでどんどん進んで行きましょう!」

「でも・・・その足。」

坂田は彼の足元を見つめた。

海で合宿するものと見越してスパイクとビーチサンダルしか携帯していなかった彼は、すでに二つ目の山をサンダルで越えようとしていた。足の親指と人差し指の間から血が滲んでいる。

それを確認した坂田は急いで3年生の竹下と大下に駆け寄る。


「先輩たち!お願いが有ります!」

「どうした?坂田。」

「ちょっと考えたんですけど・・・・・・・・・。」

「はぁ!?お前、それマジで言ってんの!?」

「オレが行きますから!!だからお願いします!!」

「でも・・・いいのかよ。」

「いいんです!だから、どうかお願いします!!!」


3年生2人は互いに顔を見合わせると、ゆっくりと首を縦に振った。

そして、班全員に「ちょっとここで休憩する。」と告げたのである。


「ここで、ですか!?もう少しで次の村に着きますよ。」

1年生の鈴木はどうしてだ?という表情で質問したが、3年生に

「いいんだ。ここで少し休憩しよう。」と抗議をバッサリ切り捨てられた。


すると、坂田が大声を出す。

「あ!!忘れ物した!!」

「どこにだよ!!?」松田が慌てて突っ込んだ。

「さっきの町に忘れ物したんだよ!すいません、先輩!ここで休憩してる間に取ってくるんで待ってて貰っていいですか!?」

「今登りきった山をまた越えることになるぞ?いいんだな。」

「構いません!待っててください!」

坂田はそこまで言うと、今来た道を再び戻っていく。

そのあとを、急いで松田が追いかけていった。

「何だ?松田。」

「方向音痴のお前がちゃんと目的地に着けるとは思えない。付き合ってやるよ。」

「お前が!!?」

「イチイチ声がうっさいなぁ。大体お前・・・演技が下手クソなんだよ。」

「え!!!?」

「ほら、図星だろ。」

普段仲の悪い坂田に松田が付いて行く異様な後ろ姿を、C班のメンバーは眺めていく。



30分も立たない内に、2人は戻ってくる。しかし、坂田の右手には見慣れぬ箱があったので、1年生はざわついた。


「何です?先輩、その箱?持ってなかったですよね?そんなの。」

「違うんだ。園崎、忘れ物は嘘なんだよ。」

「え!?」

「ほら、さっきの町に安いスーパーがあったの見たから買ってきたんだよ。」

「何をです?」

「ほらこれ、『スニーカー』。履きなよ。足、痛いんだろ?」

「!!!!!!!!!!!!!!」

これは30分前に3年生も了承していたことだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「先輩たち!俺たち、まだ所持金ソコソコ有りますよね?」

「ん?まぁ、7人もいるからな。地図やスポーツドリンク、おにぎりを買ったけど、まだ所持金は2000円以上有るよ。」


「その内の1000円、くれませんか?」


「はぁ!?お前、それマジで言ってんの!?」

「1000円あれば、園崎にスニーカー買ってやれると思うんですよ。あいつ、足が血だらけですから。」


「いや・・・1000円だぞ!?しかも、どこで靴買うってんだよ!!」


「次に着く村にあるかは分かりませんが、さっきの町には激安スーパーが有ったでしょ?」


「あぁ・・・。あったな。あそこでスポドリ一杯買ったし。」


「そう。あそこは衣料品も売ってたから靴もあるかもって今思ったんです。」


「いや・・・誰が買いに行くんだよ。」


「オレが行きますから!オレが買いに行ってる間に、皆さんは休んでていいですから、行かせて下さい!」


「でも・・・1000円も?」


「逆にこのまま園崎が歩けなくなるほど出血したら、不味いでしょ?みんなには忘れ物取りに行ってくるって言いますから、園崎に負担が負い目を感じないようにしますんで!オレが行きますから!!だからお願いします!!」


「まぁ・・・それも・・・そうだけど。でも・・・いいのかよ。」

「いいんです!だから、どうかお願いします!!!」」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


チームで一番下手糞で、普段サッカーでチームの足を引っ張って来たと自負出来る坂田にとって、園崎の気持ちは痛いほど解った。だからこその決断という名の優しさ。

坂田からスニーカーを受け取った園崎は、「すいません!!!本当にすいません!!!!」と言って頭を下げるが、坂田は「いいんだよ」とだけ言って、肩を叩いた。

スニーカーを履きながら、この1年生素人さサッカー部員は大粒の涙を流していく。


「忘れません!!この失敗(ミス)を一生忘れません!!!!二度と!!二度と軽い考えは起こしません!!!!誓います!!!!!」


涙を流しながらのグチャグチャな言葉を聞きながら、坂田は「いいんだよ」と言い続ける。

そんな坂田の肩を優しく叩いたのは、小鳥遊。

彼は無言で「よくやった」と、山を一つ往復した男に視線で伝えた。








『アガペー』という言葉が倫理学的観点にて存在する。

これは見返りを求めず、ただ相手の為に行動する奉仕の心。


それは宗教学的観点も相まって人間には実現不可能とも言われているが、この坂田の行動をアガペーでは無いと真っ向から否定できる人間がそうそういるだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。