第82話 急がば回って来い
美津田から語られたルールの補足は以下の通りである。
1、携帯端末の使用は一切禁止する。このルールを遵守するため、選手全員は各引率者に携帯電話を預けること。
2、一人に対し、500円を支給する。班全員で物品を購入しようと、各自で使用しようとも自由とする。しかし、自転車等移動手段に関連する物品の購入は禁止する。交通券の購入はもちろん不可。尚、昼食費もこれに含まれる。
3、進行ルートに関する助言は、一切引率者から受けられない。
4、班の一員が学校に到着したとしても、全員が到着するまではその班の到着とは認めない。尚、引率者のみの遅れの場合は例外とする。
5、怪我等のトラブルが起きたとしても、それが班全体程の人数や、大規模な重傷で無い限り中断はしない。
6、ギブアップは存在しない。
7、以上のルールを破るか、もしくは違反を強要した場合、最悪の処罰は退部とする。
「以上だ。ルールは各引率者がレジュメにして用意してくれてるから、よく見とけ。そんじゃ、頑張れよ。・・・あ!忘れてた!1位にはマネージャーのフルコースディナーが待ってるらしいからな。」
そこまで言うと、美津田は電話を切った。
この瞬間より、各班ごとの討論が開始される。
A班、[メンバー、3年生,木村,中林、二年生,五条、1年生,長井,森野、引率者,美津田]
「引率の監督に道も聞けないのに、学校まで戻るなんて、ど・・・どうする?木村?」
「まぁ・・・とりあえずここが何処で、どう進めば戻れるかを調べないとな。」
「そ・・・そうだな!」
中林は自信が無さそうだが、知能派の木村がいた事に深く安堵していた。
B班、[メンバー、3年生,久保,望月明那、二年生,片部,綾篠,柿崎、1年生,高井、引率者、滝沢]
久保は甚く動揺しているが、望月は黙って考え込んでいる。
「おい、何か言えよ。望月!」「・・・。」
「だから!何か言えってぇの!」
「・・・・・・った!」
「はぁ?」
「・・・わかった!」「・・・何がだよ?」
「わかったんだよ!このルールの意味が!」「いみ?」
「そう!何でこんなに細かいルールが一杯なのか考え込んでたんだ。」「それで?」
「こんなにルールが細かいってことは、逆に言えばこのルール【さえ】守ればいい訳だ!」
「??????」
「意味わかんねぇ?」「さっぱり。」
「つまりな、このルールの【抜け道】を考えてみればいい訳よ。」「ぬけみち?」
「そ!例えば、引率者にルートのヒントは聞いちゃいけないだろ?」「そうだな。」
「でも、引率者以外からなら聞いてもいいってことじゃん!」「?????」
木村の次に知的な望月の話に、メンバーで一番偏差値の低い久保は、噛み砕いた表現でもついていけなかった。
C班、[メンバー、3年生、大下,竹下、2年生,坂田,小鳥遊,松田、1年生,園崎,鈴木、引率者、望月薫]
この班は、開始から5分間、全く動きを見せていなかった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・おい、竹下。」
「なんだよ、大下。」
「どうしたらいいんだろうな?」
「何回聞くんだよ、それ。」
「だって、開始して5分だぞ。何とかしないと・・・。」
「わかってるよ。・・・お前ら、良い案無いか?」
竹下の質問に、後輩たちは一言も喋らない。今回のショックの大きさと、それ以上に数分間も名案を出せない先輩二人の頼りなさを感じて意気消沈している。
「うーん・・・困ったなぁ。・・・あれ?・・・坂田は何処いった?」
「え?」
「坂田が見当たらないぞ。」
C班6人が周囲を見渡すと、坂田は遠くの方へと歩いていた。
「あいつ!闇雲に歩くつもりか!?体力の無駄だろ!!」
竹下が急いで坂田を追いかけようとする。しかし、坂田が誰かと会話していることに気付いて、大声を張り上げるのを止めた。
坂田は農作業中の老人と話していたのだ。
「それで、国巻高校へはどっちへ向かったらいいんでしょう?」
「おめーさ、ほんとに国巻まで歩くんだっぺ?こっからだとものすっげぇ遠いべや。」
「そーなんですか。困ったなぁ。じゃあ、コンビニってここら辺に有ります?」
「あんなぁ、ここら辺のコンビニっつったら車で20分かかっちまうどぉ。」
「え!そんなに!!?じゃ、【〇〇】売ってる所って無いですか?」
「え?・・・んだば佐伯さん家の雑貨屋ならあるかもしんねーな。」
「本当ですか!それ、何処に有ります!?」
坂田は老人から情報を聞き出すと、深くお辞儀をして班のもとに戻ってきた。
「坂田!お前一人で何やってんだよ!」
「え?・・・すいません。道を聞いてました。」
「何の道だよ!」
「ここの先の信号を右に曲がってまっすぐ行くと、雑貨屋さんが有るんですって。」
「雑貨屋?」
「はい、さっきのおじいちゃんが教えてくれました。」
「・・・てか、よく聞こうって思ったな。」
「だって、俺らだ道を聞いちゃいけないのは、望月さんのお兄さんだけでしょ?ルールとしては。」
「・・・あ、そっか。で、何で雑貨屋の道なんか聞いたんだよ。」
「そこなら【地図】売ってるらしいんですよ。」
「地図!?なんで??」
「だって、地図を買っちゃいけないってルールは無いでしょ?」
「た・・・確かに。」
同刻、マネージャーの南部と若宮は夕食の買い出しをしていた。
「本当にみんな戻ってこれるのかなぁ?」
「わかんないけど、僕は美津田監督の発想の凄さにビックリしたよね。」
「遠くに行かせて学校に戻らせるって発想が?」
「違うよ。その理由がだよ。」
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二日前、マネージャー2人だけは今回の合宿の全貌を聞くことが出来た。
「・・・監督?何でこんなややこしいやり方するんです?」
「ややこしいとはどういう意味だ?」
「だって、そんなやり方しなくても、近所の山を登ったりしたら同じくらいの体力は付いてくるもんなんじゃ無いんです?」
「付くよ。」
「え!?」
「十分それで付くよ。」
「じゃあ・・・本当に何でこんなことをしなくちゃいけないんですか!?」
「だって、普通の走り込みなら、どこの高校の合宿でもやってるだろうが。」
「!!?そりゃ・・・そうですけど。」
「それに、こんなややこしいやり方にしたのは、アイツらの目標のためだ。」
「もくひょう?」
「アイツ等が掲げた強化すべきポイントは、体力じゃない。」
「?????」
「体力強化を伴う【メンタル】の強化だ。」
「そ・・・それは知ってますよ。それでも、わざわざこんな面倒なことをする理由になります?」
「南部、オリエンテーリングの起源って知ってるか?」
「え?」
オリエンテーリングは、スウェーデン軍によって生まれたと言われている。サバイバル性とチームワークを必要不可欠とするこのゲームは、初めは各小隊が目的地に到着するまでの時間を競うものだった。それが第二次大戦後にゲーム性を高めてカスタマイズされたものが、現在のオリエンテーリングやウォークラリーになったとも言われている。
「チームの連携や、協調性、そして閃きによって目的地にたどり着く。それがオリエンテーリングの醍醐味だ。」
「・・・はぁ。」
「今時、道に迷ったからって、簡単に人に道を訊ねることの出来る高校生が全国で何割程度のもんだろうな?」
「?」
「ケータイは便利だよ。だが、それによって壁も出来た。外側に見えない壁が。サッカーをどんなにやったって、恐らくその壁は崩せない。」
「・・・。」
「遠い所に行っても、地図を使ってみんなで話し合いながら協力して、目的地にたどり着こうなんて、今時の高校生には絶対発想出来ない。」
「・・・・・・。」
「走るだけ走って自分を痛めつけて、精神だの根性だのって内面を鍛えるだけじゃだめなんだ。」
「??」
「今の時代の高校生は、【外側】も鍛えなきゃならない。」
「!?」
「お前たち高校生は、少しずつ社会人に近づいている。社会に出たときに、少しでも人との繋がりを容易にすることが大切だし、部活にはその意義もある。だが、サッカーにひたすら打ち込んでるだけじゃ、ダメだ。サッカーの外側の世界に容易に入り込むことも大切なんだ。」
「何のためです?」
「【豊か】にするため。」
「何を?」
「【視野】と【感性】を。そしていつの日か、それはアイツらのサッカーにも還ってくるはずだ。」
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美津田との会話を思い出しながら、南部と若宮は野菜コーナーを物色している。
「みんな帰ってきたら、美味しいご飯が待ってるようにしてあげよう。」「そうだね。」
自分達に出来る最大限のことはそれだけしか無い。そう思いながら2人は野菜を手に取る。
しかし彼らもまた、こんなに誰かのために何かをしてあげようと感じることが久しぶりであることを、噛み締めていたのだった。




