第81話 ドキドキワクワク合宿!?出発編
明日から夏休み。
本日の厳しい練習が終了し、監督の下に選手たちが集まった。
「よーし、みんな集まったな。今から明日からの合宿について話をする。」
「やっと聞けるよ。」「まだ何にも聞かされて無かったからな。」3年生たちがブツブツと話し合っているのを気にもせず、美津田は淡々と語る。
「今日の夕方、お前たち全員の家に封筒が届くようにした。そこには、明日集合する時間と場所が記されている。必ず明日その時間にその場所に行くように。わかったな。」
美津田はそれだけ話すと、そそくさと帰り支度を始める。
あまりに不足する情報に選手たちは動揺しながらも、彼の常軌を逸したとも言える行動は今に始まったことではないと考え、誰も何の質問もすること無く各自家路についた。
3年生のストライカー久保は帰宅すると、確かに封筒が届いていた。
「明日の午前7時に、B駅の南口に行くこと。」
それだけ記載されていた。
「これだけかよ。」困惑しながらも、彼は早めの夕食を済ませるのだった。
翌朝午前7時前、久保が指定の場所に着くと、そこには意外な人物がいた。
「た・・・滝沢さん!?」
そこには久保の憧れの選手であり、国巻高校の伝説的OBである滝沢がいたのである。
「なんで滝沢さんがいるんですか!!?」
「ん?お!久保じゃん!待ってたぞ!よーし!これでみんな揃ったみたいだから早速出発しよう。はいこれ。切符。」
滝沢から切符を受け取りながら、久保は困惑する。
「あのー・・・滝沢さん・・・これ、どういうことですか?」
「何がだい?」
「いや・・・ツッコミ所が多すぎて・・・。」
行き先も告げられず切符だけ渡され、何故滝沢がいるのかを説明される事もなく、何より到着していた選手が全体の3分の1である6名しか集まっていないことで、久保は説明を求めるにも何から話してもらうか考え込んでいる。
「そっか、とりあえず困ってるだろうけど、電車がもう来ちゃうから乗っちゃおう。目的地に着いたらみっつぁんから話があるらしいから。」
「そう、ですか。」
その10分後、竹下や大下を始めとする7名は、C駅東口に集まっていた。
そんな彼らに「いやー!ギリギリになってゴメンゴメン!」と言いながら一人の青年が近づいてきた。
「あれ?この人・・・確か・・・。」
「久しぶりだね。弟の明那がいつも世話になってるみたいでありがとう。明那の兄の望月薫です。今日はよろしく!」
今年度国巻にとって2試合目となった大剛高校との練習試合で、望月を連れてきてくれた兄の薫が、そこにはいたのである。彼は美津田の高校時代の同僚でもあった。
「なんで望月のお兄さんが?」
「あ、詳しいことは目的地に着いたら美津田が教えてくれるそうだから、とりあえずここで待っててよ。今、切符買ってくるから。」
「いや・・・てかまだ半分も来てないんですけど。」
「いいんだよ。これで。」
「え???」
「俺は7人を連れてくるようにって言われたから。」
「???????」
さっぱり訳が分からないまま、竹下たちも電車に乗ることとなる。
竹下達が困惑した30分後、A駅の西口では木村と中林を始めとする6名が美津田の引率によりやはり目的地不明の場所に連れて行かれるのだった。
しばし電車に揺られると、理不尽な美津田に今まで振り回され馴れた選手たちは、緊張感が溶けてきたようで話が弾むようになる。
「どこで合宿やるんでしょうね?」
「まともに合宿なんてやったこと無いからなぁ。」
「本当ですか?竹下先輩!」
「うん。去年は大嶺のマネージメント力が酷すぎて合宿組めなかったし、その前は監督がいなかったし。」
「え!?監督がいなかった!!?」
「あ、園崎とかは知らないか。2年前は監督居なかったんだよ。国巻。」
「なんでです!?」
「いや、初代の監督だった岡山が突然大剛からのオファーを受けて辞めただろ?そのあと中々後任が決まらなくてな。まだ創部して年月浅いクセに成績は残してたから誰も監督やりたがらなくてな。」
「マジですか!?」
「そ。」竹下の説明に驚く1年生園崎の問いに、大下は短くも冷たく答えた。
「じゃあ今年はどんな所で合宿するんでしょうね!俺、海だって決め打ちして来たから!見てくださいよ!ビーチサンダル履いて来ちゃいました!」
「お前・・・これで山だったらどうするんだよ。」
「え?だってC駅からなら海沿いの駅が多いでしょ?」
「海の反対側は山だらけだろうが!」
「あ・・・そっか・・・。」
「マジでサンダルとスパイクだけで来たのか!?」
「はい・・・。どうしよぉ・・・。」
サッカー素人の園崎の計算出来ない頭脳に、先輩たちはタメ息をつくことしか出来なかった。
その頃、久保は一緒に電車に乗っていた望月明那に質問していた。
「どこで合宿すると思う?」
「いや・・・全くわかんねぇよ。滝沢さんも行き先はまだ言えないって言うしさ。」
「マジでかよ。それにしても・・・どこでやると思う?望月。」
「美津田って意外と顔広そうだから、どこかの民宿とか抑えてるかもな。」
「仲居さんが美人だったらいいなぁ。」
「ん?仲居さん?」
「そう。あとは若女将とか。」
「・・・久保さぁ。」
「なんだよ?」
「仲居さんがいるのは旅館だぞ。」
「え??」
「民宿には居ねぇよ。」
「マジで!!?」
1年生であろうと、3年生であろうと、愚かなことを考える者は存在するようである。
長い間電車に揺られると、美津田は木村たちに告げた。
「お前ら準備しろ。次の駅で降りるぞ。」
うたた寝をしていた少年たちは大急ぎで準備をするが、窓の外に広がる光景が今まで来たことない田園風景ばかりが広がっていることに、些か動揺している。
「【犬○先駅】?・・・何処だ?ここ。」
降りた選手たちは初めて聞く駅名と風景に立ち尽くす。
同じ頃、望月薫が引率する班も、滝沢が引率する班も、目的地の駅に着いていた。
しかしどうも様子がおかしい。
改札口を出ても、他の班と合流出来ない。
むしろ、下車したのも到着した駅の前にも、自分たち6,7名の選手と引率者だけで、人っ子一人見当たらない。
久保はつぶやいた。「何処だよ・・・この【君○駅】って・・・。」
同刻、竹下は望月薫に訊ねる。「どこです?この【○○橋駅】って。」
すると、滝沢の携帯電話を操作する。同時刻に望月薫もスマートフォンに触れた。
2人は同時に電話をする。
「着きましたよ。みっつぁん。」
「着いたぞ。美津田。」
2人は電波の向こう側にいる美津田に話しかけていく。
「おぉ!繋がった繋がった!!3人同時通話アプリなんて一生使わないだろうって思ってたけど、役に立つもんだな!!」
美津田は珍しくテンション高く話をする。
「じゃあお前ら二人とも、電話をスピーカーモードに切り替えてくれ。」
指示された通りに引率者2人はスピーカー機能を利用する。
「よー!お前ら、ちゃんと目的地に着いたみたいだな!ご苦労さん!!」
「ごくろうさんっていうか・・・監督・・・。」
「ん?その声は久保か?もっとデカい声で言え!上手く聞き取れない!」
「いや!監督!『着いた』って、他のメンバーは何処にいるんですか!?ここの駅にいないですよ!」
「そりゃそうだよ。」
「え???」
「3班全て、目的地が【全然違う駅】だからな。」
「はいぃ!!!!!!??????」
これには久保どころか全員が雄叫びをあげた。
「なんでですか!!?もしかして!選手の課題の項目ごとに違う場所で合宿するんですか!!?」
「今喋ってるのは、誰の声だ?」
「どうも!小鳥遊です!!」
「小鳥遊・・・ウチにそんな予算があると思うか?公立だぞ。国巻は。」
「え??そりゃ・・・そうですけど。」
しびれを切らした園崎は、割って入って美津田に質問した。
「じゃあ監督!!!どこで合宿するって言うんですか!!?」
「決まってんだろ。んなもん。」
「え???」
「学校でやるに決まってんだろうが。」
「えぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「よーし!!!全員がビックリした所で合宿1日目のルールを説明する!今から各班は、夜7時までに国巻高校に戻ってこい!班のメンバー全員で!!一切の交通機関の使用は禁止する!!自分たちの足で帰ってくるんだ!!大丈夫!全班大体50キロ弱の距離だから、マラソン選手なら3時間くらいで戻ってこれる!!ただし!7時までに戻って来れなかったら晩メシは抜きだからな!!!」
その後の追加ルールを聞く余裕のある者は少なすぎた。
あまりに思わせぶりで、余りに過酷な合宿初日に、選手の多くは膝を地面に突いて項垂れたからである。
ドキドキワクワクの予定・・・今の所は御座いません。ご了承ください。




