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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
応答編(インターハイ)
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61/207

第61話   愚かなる正解

痛みと披露で全く動けない須賀が、ベンチメンバーに抱えられてピッチの外に出た。

この瞬間、残った国巻の10人は覚悟を決める。

「残り時間は残った自分たちだけで乗り切るしかない。」と。

まず木村が口を開いた。


「守り・・・きろう!」


「あぁ、絶対に。」

この久保の意見に全員が賛同した。

かつて勝利したことのある強豪桜台東から1点をもぎ取ったことで、後は時間を稼いで守りきることに専念することを皆が誓い合った。


ロスタイムまではあと2分もない。須賀が倒れていた時間を考慮しても、ロスタイムは3分程度だろうから、実質5分弱耐えればこの大一番を征することが出来る。堕ちた一発屋と名指しされてきた国巻は、死力を尽くして戦うことを覚悟したのだ。


だが、彼らの決意を上回る覇気を、桜台東は出していた。

「負けちゃいけない。この試合だけは負けちゃいけない。」と。

この日までのOBからや監督からの重圧は厳しく、かつて我が校の名声をぶち壊したライバル校からの許されざる敗北を防ぐため、残り時間に猛攻を仕掛けようと決める。天才の出羽も、同じ考えだった。


キックオフから試合が再開されると、フォワードの諸星がボールを貰うために最前線に走り込む。

彼に食らいついた木村にボールはカットされ、松田に渡ると、ゆっくりとドリブルを開始した。時間稼ぎのためである。


二人がチェックに来たので、松田は前線の久保にパスを出す。


この直前に久保は確認した。後半も35分を過ぎたので、ロスタイムは何分になったのかを。



「え?・・・7分?」


ボールを貰いながら久保は掲示板に記された数字を見て絶句した。

ロスタイムは予想の倍以上の時間である【7】と表示されていたからだ。

「7分も・・・時間稼げっての?」


久保はマークに来た2人の選手を警戒しながら再び掲示板の方を見る。

そこでは監督の美津田が猛抗議をしていた。


「本当に・・・7分なのかよ・・・。」


この瞬間、久保は味方の選手までもが驚く動きを見せる。


相手ゴールを確認すると、30メートル近くある距離から突然シュートを放ったのだ。



『馬鹿なことをしたかも知れない!でも、あんなに頑張った須賀に「最後までやりきった!」って報告したいんだ!!!!』

そう思いを込めたシュートはゴールポストの上をかすめていった。


味方の大半もが唖然とする最中、監督だけは

「よくやった!!!!!」

と叫んだ。


「美津田が・・・褒めた。」そう思ったのは久保を含めて全員である。


「それでいい!!こんな劣悪環境の中で、ただ逃げ切ろうなんて思うな!!堂々とサッカーしろ!!」


監督の言葉に選手たちは胸震えている。誰よりも久保はそうだった。

「そうだ!あと7分も守りきるのはきつい!攻めるんだ!!最後まで攻めるんだ!!」

自分のシュートという選択肢は正しかったと確信すると、ストライカーは須賀の分までボールを追いかけていった。



「いいんですか!!?あんな無茶なシュート打たせて!!!相手に攻撃権与えるようなもんでしょ!!!」マネージャーの南部に言われて美津田は、

「もちろん!!」と言い返した。


「え?」

「もちろん。愚かな選択だ。」

「じゃあ・・・なんで褒めたりしたんですか!無茶すぎるでしょ!」

「もちろん無茶だし愚かだよ。・・・だけどな。」

「だけど?」

「正解なんだよ。久保の選択は。」

「せいかい?」

「判定もロスタイムもこんなクソ偏った試合で、一番なっちゃいけない状況ってのは、どんなことだと思う?」

「なっちゃいけない・・・状況?」

「相手の雰囲気に飲まれることだ。」

「!」

「久保はその雰囲気を右足一本で振り払ったんだよ。だから正解なんだ。」

「愚かなのに・・・正解なんですか?」

「そうさ。サッカーはな、数学だけじゃ解けないんだよ。」

「・・・。」

三津田と南部が話をしている間に、桜台東の出羽にボールが渡る。


「え?・・・今何か・・・見えかけた。」


パスを出そうとした天才は、キックモーションをストップして目線を遠くに移してみる。


今まで人の動きを色で識別してきた【シナスタジア】の能力が、何故か相手ゴールマウスにも確認できた。


キーパー坂田の周りを、オレンジ色の光が包み込んでいたのだ。


一瞬これは先ほど須賀が放った赤いオーラに酷似したものかと考えたが、すぐさま結論を叩き出した。


「違う!キーパーのオーラじゃない!!これは・・・俺の射程範囲の色だ!!」


南部が解析した出羽の弱点・・・『パスレンジが短い』『ロングパスが苦手』というのは間違いではない。だが正解でも無かった。


出羽はロングボールが【嫌い】なのだ。理由は単純に精度の問題。完璧主義である彼は、ショートパスほどの精度を持たないロングパスを『完成度の妨げ』と考えており、できる限り打たないようにしてきた。しかし、視認できるオレンジ色の隅を狙って出羽は思いっきりシュートを放ってみた。


このギリギリまで追い込まれた現状が無ければしなかったであろうロングシュートという選択肢は、キーパーの頭上を超えてネットを揺らそうとしたが、寸前で坂田が掻き出して防ぐ。



必死にセーブして軽くタメ息をつく坂田に対し、大声で「ナイスセーブ!!!」と国巻応援席から聞こえてきた。


坂田は見た。小さな国巻応援席のド真ん中で大声を出して自分を褒めてくれる兄の姿を。


「兄貴・・・応援して・・・くれるの?」


彼はこの瞬間に、かつて日記の感想を読んだ時と同じ感覚が内側から湧いてくることに気付く。


「か・・・かちき・・・。」


「え?」

坂田が小さく呟いたので、同級生のディフェンダー綾篠は耳を傾けた。


「か・・・かち・・・勝ち切るぞ!!!!」



今度は大声で叫んだ守護神の言葉に、綾篠はすかさず

「オー!!!!!!」

と返事した。


それに続いたのは木村を始めとする守備陣。それはチーム全体に続いていく。


考えてみれば、これは坂田がキーパーになってから初めてチームを鼓舞する場面だった。


「ちゃんとかっこいいじゃん。裕也。」兄 坂田秋一はそう呟きながら、守護神である弟の横顔を嬉しそうに眺めていた。

次回、桜台東編クライマックス

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