第47話 集まれ!じゃんけんぽん
「じゃんけんぽん!」
国巻のキャプテン5人がじゃんけんをしている。しかしこれは遊びや暇つぶしの為ではない。とても意味ある真剣勝負なのである。
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ!」
「あいこでしょ・・・あ!」
勝負がついた。
「マジかぁ!」
大下が天を仰ぐ
「負けは負けだから、仕方ないだろ。」
そう言いながらも、久保は目が泳いでいた。
「やっぱさぁ、勝ったやつが行くことにしない?」
「男らしくないぞ。さっさと行けよ。」
木村の激にも覇気は無い。
国巻高校は惣社高校との激戦後、結局決勝戦で敗退となった。しかし県予選出場は決めている。
今日はその県予選抽選会の日である。
「じゃあ・・・行ってくるわ。」
残りのキャプテン達は満面の作り笑いを見せて、地区大会予選でくじ運の悪さを露呈つつも、じゃんけんによって代表に決まった大下を見送っていく。
「せめて・・・。」
「ん?なんだよ竹下。」
「せめて勝った奴が行くようにしたらよかったんじゃね?」
「今更言うなよ。・・・縁起の悪い。」
そう言いながらも、木村の冷や汗は止まる気配が無い。
授業中も気が気ではない選手達。休憩中にはケータイを使って抽選会のニュースを調べる姿が各学年で見受けられた。
「それにしても、優勝したらどんな景品もらえたんだろうな?」
「景品?」
「だって、優勝したら景品もらえるんじゃないの?」
「あのな・・・園崎、地区大会で優勝したってもらえるのはシード権だけなんだよ。」
「え!?マジで!!?」
「お前・・・、本当にサッカー知らないんだな。」
「当たり前じゃん!」
呆れ気味の鈴木をバッサリ切り捨てた園崎のコメントに、最早誰もツッコミが入れられない。
「おい!出たぞ!国巻!」
最新モデルのケータイを駆使して長井が速報を入手した。
「マジで!1回戦どこと?」
高井の興奮は最高潮に近かった。
「お・・・おぉ・・・。」
「なんだよ!」
「1回戦は城守高校とだわ。」
「よっしゃ!そんな強くないじゃん!」
「ただ・・・。」
「ただ?」
「2試合目が・・・。」
実は彼ら1年生とほぼ同じ時刻に2年生も3年生もケータイ速報を確認し、絶句してしまっていた。
学校に戻ってきた大下は、申し訳なさで一杯で顔を上げることが出来ずにいた。
彼は部室に入るなり、「本当にごめん!!」と頭を下げる。
国巻高校が県大会で戦う第2試合は、シード校の【桜台東】であった。
「久保先輩、本当に【県内2番手】なんですか?桜台東って。」
「何度も言わせんなよ園崎。花野江高校の【次に】強いのは桜台東なんだっつーの。」
あの天才高橋秀則擁する花野江高校の次に強い桜台東高校と、第2試合で対戦することになった国巻高校の選手達は、誰も上を向こうとしなかった。
しかし、監督の美津田はそんな素振りを見せない。
「1勝0敗だからな。」
「え?」
監督からの言葉に、選手達は何のことかわからず、『どういう意味か?』という気持ちを込めて顔を上げた。
「国巻の対桜台東戦の戦績、1勝0敗だから。」
それは事実であった。
国巻高校サッカー部は、創部した5年前に桜台東高校を撃破している。この結果によって、国巻は『奇跡のイレブン』と紙面を賑わせるようになったほどだ。
桜台東と、それ以降対戦したことは無かった。
「負けたこと無いから安心しろ。さて、南部。」
美津田は普段の無機質な表情のまま、データ収集専門のマネージャーの名を呼んだ。
「なんです?」
「桜台東で一番警戒すべき選手は誰だと思う?」
「少ししか調べてないですけど・・・やっぱり【出羽】くんですかね?」
「まぁ、そうなるわな。」
「出羽?どんな選手なんです?」サッカー素人の園崎は、すかさず質問した。
「【ディーバ】だよ。」冷めた口調で高井が答える。
「でぃーば?」
「出羽の愛称だよ。何でかそう言われてる。」
「ディーバって、歌姫ってことっしょ?」
「そう。まぁ、それだけ上手くて迫力もあるんだよ。女の子みたいな顔だしね。」
「高井、よく知ってるな。」
美津田が注目した。
「和製シャビって昔から言われてました。それにウチの市井第二中とあいつのチームでよく練習試合しましたもん。同い年ですしね。」
「1年生なの!?」
「そう。しかも知名度なら高橋より上だよ。」
「あの天才より!?マジかよ・・・。」
同年代の選手の中には、自分とは比べ物にならない存在感を持つ男たちが散在する現実を、サッカー1年目の園崎は痛感させられるしか出来なかった。




