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ゾーンの向こう側  作者: ライターXT
応答編(インターハイ)
48/207

第47話   集まれ!じゃんけんぽん

「じゃんけんぽん!」


国巻のキャプテン5人がじゃんけんをしている。しかしこれは遊びや暇つぶしの為ではない。とても意味ある真剣勝負なのである。



「あいこでしょ!」

「あいこでしょ!」

「あいこでしょ・・・あ!」


勝負がついた。



「マジかぁ!」

大下が天を仰ぐ



「負けは負けだから、仕方ないだろ。」

そう言いながらも、久保は目が泳いでいた。

「やっぱさぁ、勝ったやつが行くことにしない?」

「男らしくないぞ。さっさと行けよ。」

木村の激にも覇気は無い。




国巻高校は惣社高校との激戦後、結局決勝戦で敗退となった。しかし県予選出場は決めている。


今日はその県予選抽選会の日である。



「じゃあ・・・行ってくるわ。」


残りのキャプテン達は満面の作り笑いを見せて、地区大会予選でくじ運の悪さを露呈つつも、じゃんけんによって代表に決まった大下を見送っていく。



「せめて・・・。」

「ん?なんだよ竹下。」

「せめて勝った奴が行くようにしたらよかったんじゃね?」

「今更言うなよ。・・・縁起の悪い。」

そう言いながらも、木村の冷や汗は止まる気配が無い。




授業中も気が気ではない選手達。休憩中にはケータイを使って抽選会のニュースを調べる姿が各学年で見受けられた。



「それにしても、優勝したらどんな景品もらえたんだろうな?」


「景品?」


「だって、優勝したら景品もらえるんじゃないの?」


「あのな・・・園崎、地区大会で優勝したってもらえるのはシード権だけなんだよ。」


「え!?マジで!!?」


「お前・・・、本当にサッカー知らないんだな。」


「当たり前じゃん!」

呆れ気味の鈴木をバッサリ切り捨てた園崎のコメントに、最早誰もツッコミが入れられない。



「おい!出たぞ!国巻!」

最新モデルのケータイを駆使して長井が速報を入手した。

「マジで!1回戦どこと?」

高井の興奮は最高潮に近かった。

「お・・・おぉ・・・。」


「なんだよ!」


「1回戦は城守高校とだわ。」


「よっしゃ!そんな強くないじゃん!」


「ただ・・・。」


「ただ?」


「2試合目が・・・。」





実は彼ら1年生とほぼ同じ時刻に2年生も3年生もケータイ速報を確認し、絶句してしまっていた。





学校に戻ってきた大下は、申し訳なさで一杯で顔を上げることが出来ずにいた。


彼は部室に入るなり、「本当にごめん!!」と頭を下げる。





国巻高校が県大会で戦う第2試合は、シード校の【桜台東】であった。



「久保先輩、本当に【県内2番手】なんですか?桜台東って。」


「何度も言わせんなよ園崎。花野江高校の【次に】強いのは桜台東なんだっつーの。」


あの天才高橋秀則擁する花野江高校の次に強い桜台東高校と、第2試合で対戦することになった国巻高校の選手達は、誰も上を向こうとしなかった。


しかし、監督の美津田はそんな素振りを見せない。


「1勝0敗だからな。」


「え?」


監督からの言葉に、選手達は何のことかわからず、『どういう意味か?』という気持ちを込めて顔を上げた。


「国巻の対桜台東戦の戦績、1勝0敗だから。」


それは事実であった。

国巻高校サッカー部は、創部した5年前に桜台東高校を撃破している。この結果によって、国巻は『奇跡のイレブン』と紙面を賑わせるようになったほどだ。

桜台東と、それ以降対戦したことは無かった。


「負けたこと無いから安心しろ。さて、南部。」

美津田は普段の無機質な表情のまま、データ収集専門のマネージャーの名を呼んだ。


「なんです?」


「桜台東で一番警戒すべき選手は誰だと思う?」


「少ししか調べてないですけど・・・やっぱり【出羽】くんですかね?」


「まぁ、そうなるわな。」


「出羽?どんな選手なんです?」サッカー素人の園崎は、すかさず質問した。


「【ディーバ】だよ。」冷めた口調で高井が答える。


「でぃーば?」


「出羽の愛称だよ。何でかそう言われてる。」


「ディーバって、歌姫ってことっしょ?」


「そう。まぁ、それだけ上手くて迫力もあるんだよ。女の子みたいな顔だしね。」


「高井、よく知ってるな。」

美津田が注目した。


「和製シャビって昔から言われてました。それにウチの市井第二中とあいつのチームでよく練習試合しましたもん。同い年ですしね。」


「1年生なの!?」


「そう。しかも知名度なら高橋より上だよ。」


「あの天才より!?マジかよ・・・。」

同年代の選手の中には、自分とは比べ物にならない存在感を持つ男たちが散在する現実を、サッカー1年目の園崎は痛感させられるしか出来なかった。



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