第48話 そして彼はいなくなった
今回、前後半での温度差が半端無いです。
部室で選手たちが桜台東の話をしている最中、女性マネージャーの若宮はヒゲ面の男に呼び止められていた。
「あの、すいません。若宮志保さんでしょうか?」
「なんです?突然。」
素直さがウリの若宮は、包み隠さず不快感を顔に表しながら男を睨みつけた。
「すいませんねぇ。どうもはじめまして。私、〇〇日報の本村と言います。」
「え?新聞の?」
「はい。」
「なんです?私なんかに。」
「いえ、今回あなたが【1位】に選ばれたので、インタビューをさせていただきたいと思いましてね。学校と監督さんからは一昨日了解を得たんですが・・・。」
「あれのことか。」
一昨日、美津田から『何日後かに、お前に客が来る。』とだけ言われていた若宮は、この時点でやっと合点がいった。しかし、インタビューの内容は聞いてない。
「あの・・・【1位】って・・・なんのです?」
「ご存知無いんですか?【美人マネージャーランキング】ですよ。」
「はい!?」
「県内4紙合同企画の県予選出場校美人マネージャーランキングで、あなたはダントツのトップなんですよ。」
「うっそ!」
「ほら、これ。」
そこには惣社戦後に数名のカメラマンに撮影をお願いされて撮った若宮を含めた、3名の写真が掲載されていた。
「3位、古橋倫子」
「2位、古寺美紀」
「1位、若宮志保」
「マジで!?」
実は、これは10年近く続いている人気企画だった。
「是非とも感想を伺いたいんですよね!」
「感想ですか?」
「えぇ。」
「そうですねぇ。この時ちょうど女の子の日だったから、顔がむくんでてあんまりよくないかなぁ。」
「はい!?」
「え?感想でしょ?」
「いや・・・写真じゃなくて・・・1位になったことの感想なんですけど・・・。」
若宮はその後もズボラな発言を繰り返し、結局本村はインタビューをお蔵入りせざるを得ないと気付いて悲しげに去っていってしまった。
「アタシが1位ねぇ・・・これってもしかして・・・ドッキリかなんかじゃないの?」
女神の目覚めはまだ時期尚早のようである。
ミーティングを終えて、大下は木村といつものように帰ろうとするが、足取りは重い。
「クジなんだから、凹んだって仕方ないだろ!」
「そう・・・だけどさ。」
木村からそう言われた所で、大下のボルテージが上がることは無かった。
見るに耐えないチームメイトの表情を変えようと、突然木村は意外な提案をする。
「じゃあ・・・大下。オレの秘密教えてやるから・・・その代わり元気出せ!」
「木村の秘密?」
「そう!秘密!」
「何だよ。」
「オレって時々いつもと違う道で帰るだろ?」
「うん。途中で分かれる時あるな。」
「どこ行ってるか教えてやるよ。」
「え?」
「ついてこい。」
その後一言も話さないで自転車を走らせていく木村についていった大下は、古い建物の前に到着した。
「これって・・・。」
「驚いた?」
「なんで・・・【教会】なんだよ?」
「サッカーの師匠がいるんだよ。オレの。」
「は!?」
教会の中に入った木村は、神父に軽く挨拶をしてから大下を紹介する。
「この人が師匠?」
木村に小さく耳打ちした大下に、神父は笑いながら言った。
「ははは。違うよ。木村君の先生はこの教会の裏にいるんだよ。」
そして二人の高校生を、神父は案内していく。
「おい・・・これって・・・。」大下は案内された先に到着すると、言葉を失ってしまう。
「ここに師匠がいる。」
「だって、ここ。」
「だから秘密だったんだよ。」
そこは【墓地】だった。
大きく広い共同墓地の一角に、木村は大下を連れて行く。
[Leo Ponzio]
たどり着いた墓標にはそう記されていた。
「レオ・ポンシオ。オレの師匠だ。」
「・・・え。」
「Jリーグでもプレーした人なんだぜ。この人の兄貴もJリーガーだったんだ。」
「そう・・・なんだ。」
「俺が小さい頃、偶然近所に住んでてさ。もう選手は引退してたけど、よくサッカーの相手してくれてさ。でも絶対手加減しないんだよ!この人から毎日ボールを取ろうとして必死に走り回ったなぁ。すげぇテクだったんだぞ!当時この人からボール奪う方法考えながら遊んでたら、今じゃ国巻のセンターバックにもなれたってな訳よ。」
「なんで・・・亡くなったの?」
「死んだんじゃない。消されたんだ。」
「え?」
「ある日突然いなくなった。」
「どうしてだよ?」
「噂でしか聞いたことないから、詳しくは知らない。引退してから借金が嵩んだからっていうのが最大の説かな?他にも色々あるよ。とにかく、突然いなくなった。お兄さんと一緒に。だからここに遺体は無いんだよ。この墓は神父さんが善意で作ってくれたんだ。」
「そう・・・だったんだ。」
木村の高校生離れした守備スキルの根幹は、一人のプロ選手によって培ったもの。
初めて知った親友の過去に、雨が降り始めた墓地の中、大下は上を向く所か余計に動揺するしか無かった。
そしてそれは、この墓地にやってきたもう一人の訪問者によって爆発寸前になる。
「来てたのか・・・木村。」
訪れたのは、なんと美津田だった。




