第13話 パージ
ご覧いただきありがとうございます。本日は6話投稿予定です!
※本話はR15に調整しています。R18版はミッドナイトノベルズに掲載しています。
【R18】僕と彼女の猟奇的な日常 R18
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玄関の灯りを点けても部屋はまだ暗かった。
スマホの画面はもう消えている。
それでも瞼の奥には、数字だけが残っていた。
八十万から手数料が引かれ、残るのは五十五万。
ユイの靴はない。
それが妙に安心した。
悪い事してるみたいだ。
喉が渇いている。水を飲んでも満たされない。
腹の底がまだ熱い。
シャワーを浴びれば冷める?
そう思って服を脱ぎ捨てて浴室へ入った。
蛇口を捻るとぬるい水が背中を流れて床に落ちる。
茂は目を閉じた。
だが落ちない。数字も、匂いも、熱も。
身体だけが勝手に反応を続けている。
息が浅くなり、胸の奥が焼ける。
壁に片手をついた。視線を落とし、短く舌打ちする。
――収まらない。
濡れた手を伸ばす。
浴室に呼吸の音だけが増えていく。
シャワーの水音に紛らせるように、同じ動きを繰り返す。
湯気が視界を白く曇らせる。
自分の荒い息がやけに耳に届く。
シャワーの水音の中で、茂は浴室に立ったまま止まれなくなっていた。
不意に、洗面所の引き戸が開く音がした。
帰ってきた――
次の瞬間浴室の戸が躊躇なく開いた。
ユイがそこに立っていた。
覗き込むというより、ただ当たり前に開けただけのような顔。
茂は動きを止めようとしたが、身体が言うことを聞かない。
ユイを見たまま手が止まらない。
顔から火が出るような熱が上がる。
ユイは立ち尽くす茂の状況を見て、仕事終わりの少し疲れた目を細めた。
「………また?」
茂は何も言えない。返事の代わりに、喉がひくついた。
ユイは軽く笑った。嘲りではない、あまりに無機質で、日常的な笑いだ。
「――元気すぎ」
それから、面倒そうな素振りも見せず、まるで店での仕事をこなすような淡々とした口調で、こう続けた。
「手、止まんないなら――私がやろっか?」
声は軽かった。
茂は息を呑んだ。顔が熱くて、視線を上げられない。
「……ごめん」
やっと出たのは、情けないほどか細い謝罪だった。
「なにに?」
ユイは短く笑った。
彼女は茂の目の前で、シャツのボタンを上から順に外していく。薄い生地が床に落ち、湯気の向こうに白い肩が現れた。
続いてタイトなスカートのジッパーを下ろす。腰を揺らして布を脱ぎ捨てると、黒いレースだけが残る。
ユイはためらいなく最後の布も外した。
湯気の中に立つ彼女の肌を、シャワーのぬるい水が静かに伝う。白さが、さらに際立つ。
茂の横に立ち、視線が一度だけ絡む。
「………ほんとに、子どもみたい」
ユイは茂の頬に触れ、濡れた髪を払う。
そのまま肩から胸へ、ゆっくりとなぞった。
腹を過ぎ、指が止まる。
硬い。
力を込めているわけではないのに、逃げ場のない張り。
奥から伝わる体温。
「……熱い」
確かめるように、もう一度触れる。
「大丈夫」
ユイは背中から腕を回し、茂を抱き寄せた。
「こっち向いて。そんなに恥ずかしがらなくていいよ」
その言葉にたまらなくなる。
ユイの手は迷いなく動いた。全てを知り尽くしたように。
茂は壁に頭を預け、低く息を吐く。
駅前で引いたトリガの衝撃が、脳裏をかすめる。
肉を断ち、崩れ落ちた重み。
その残像と、今の柔らかな感触……
「……っ」
背が反り、肺の奥の空気が一気に抜けた。
身体に溜まっていた熱が、ようやく外へ逃げる。
快楽というより、過剰な熱の解放だった。
終わったあと、茂は力なく膝をつきかけたが、ユイがその肩を支えていた。
ユイは何も言わず、シャワーを弱めた。それから、背中を優しく撫でる。
「……よし。落ち着いた?」
茂は頷くことしかできなかった。身体を支配していたあの不気味な熱は、静かな余熱へと変わっていた。
ユイは浴室を出る間際、びしょ濡れになった髪をかき上げ、笑い混じりに言った。
「出てきたら、髪拭いてあげる。風邪ひくよ」




