93話 死ねない役割
会議から1ヶ月ほどが経った。
あれから俺は村には帰らず、ひたすらに情報収集と作戦会議の日々だった。
今回の戦線において、前線部隊はドラマルトの南にある荒野と、ジークバルトとドラマルトの境にある森林地帯に集結することになった。
そして、防衛部隊は各国周辺に集まり、それぞれ防衛を担うことになり、ソーザ奪還部隊も編成された。
俺はそのことを手紙にまとめ、ウェストンとドーラ師匠に送った。
その数日後のことである。
ほぼ同時刻に、ウェストンとドーラ師匠からそれぞれ伝達鳥が飛んできた。
ーレオリオス・パルト殿へー
戦線の業務、ご苦労である。
我は現在、忙しい身であり、そちらに出向くことができないことを謝罪させてもらう。
軍の配置に関しては滞りなく進行している。
おそらく、2500の戦力は確保できるはずだ。
直接的な援助ができず、申し訳なく思うが、我らは信じてあとを託す。
我らに勝利がもたらされることを願う。
ーウェストン国王 ウェン・トールー
ここで俺は衝撃を受けた。
…国王の名前って…「ウェン・トール」って言うんだ。
って違う。
そんな事を考えている場合じゃない。
俺は手紙を閉じ、もう一つの手紙に手を伸ばした。
ーレオリオスへー
連絡に感謝する。
お前が率先して動いてくれたおかげで、こちらもやりたかったことができた。
エイサールの戦力は限られているが、ウェストンの兵として、カオル、バオスが参加することになった。
ナナはジークハルトとドラマルトの境の森林に向かい、前線を張るそうだ。
俺は土地勘があるということで、ソーザ奪還部隊に加わることとなった。
さらに言うと、お前の教え子たちも一時的にドラマルトに戻り、戦線に加わるようだ。
戻る理由は聞かなかったが、「心配しなくていい」と言われた。
竜獣の動向も探っていたが、やはりもうすぐ動くようだ。
戦いのときは近い。
お互い、最善を尽くそう。
ードーラ・コンドルー
…そうか。
みんな各々で戦線に参加するようだ。
巻き込んでしまって申し訳ない気持ちもあるが、同時に心強い。
………。
…ん?
そういえばニナは?
特に語られていないようだが…
結界と治癒専門だから参加はしないのか?
まあ、大丈夫だろう。
「レオリオスせんせーい!!」
俺がドラマルト内で準備をしていると、遠くから声が聞こえてきた。
そちらを向くと、見慣れたメンバーがこちらに来ていた。
「は!?お前ら!?」
そこには、かつて俺が担当していた「影魔術研究会」のメンバーがいた。
モラやライナのような在校生はもちろん、村にいたエルとラーラもいた。
さらに驚いたのはその後ろだ。
彼らの後ろには、大勢の学生がいた。
「どうしたんだ!?こんな大人数で?」
そう聞くと、1期生メンバーが答えた。
「これより、『影魔術研究会』及び『影魔術研究会卒業生』、『影纏のレオリオス・パルト』の分隊に所属となります!」
「は!?」
それは、俺の想像もしていなかった言葉だった。
「影纏のレオリオス・パルト」の分隊。
ここでは省略して「レオリオス分隊」と呼ばせてもらおう。
「レオリオス分隊」は、総勢1000人の分隊であり、魔術師と剣術使いで構成されることになっている。
人選はレナードさんが担当するため、まだ俺には連絡が来ていない。
そんな中でのこの知らせである。
俺は驚いて固まってしまった。
「あれ?レオリオス先生?」
………。
………。
………。
しばらく考えて理解した。
おそらくこれは、戦力と連携力で構成されている。
連携力の面において、「影魔術研究会」なんていう選択肢は、これ以上にない最適解だ。
しかし、俺は改めて驚いた。
「人数…増えたな」
「はい!今年で総勢30人です!」
さ、30人!?
俺の時と比にならない人数になってやがる。
てか…それまとめられるってすごいな…
「それで…先生?」
俺が考えていると、モラが聞いてきた。
「所属の許可は?」
…断る理由は…無いと言えば嘘になる。
前線に持っていくのが申し訳ない。
もっと安全な任務についてほしい。
けど、それ以上に心強い。
「あぁ。許可する」
こうして、俺の分隊に「影魔術研究会」が加わった。
…誰か忘れてるな。
「そういえば…フェイは?」
「それが…どこにいるか分からなくて」
「あの人が一番の戦力なのに…」
「そっか〜。そう言ってもらえると、俺も鼻が高いよ〜!」
………。
………。
………。
「「「「「「フェイ!?」」」」」」
俺の疑問は、一瞬で砕かれた。
いないと思ったフェイは、俺達の背後にいたのであった。
「いや〜。まさかレナード様から呼び出されるとは!人生何があるかわからないな〜」
フェイは呑気にそう言った。
相変わらず、こいつはマイペースなのであった。
俺達はその後、今後の話し合いをするため、学校の影魔術研究会のラボに行った。
久しぶりに入るラボは、相変わらずの光景だった。
そして、席に座ろうとした時だった。
ヒュン!
閉まる寸前の扉から、なにかが入ってきた。
俺はその存在に気づき、即座に捕まえた。
「先生!?」
状況が分かっていない生徒は多少混乱したが、直ぐに落ち着いた。
俺に捕まえられたものの正体は…鳥だった。
「伝達鳥?」
ただの伝達鳥ではなかった。
それは、俺の見たことのある個体だった。
「俺の家の伝達鳥?」
俺は手紙を取り、中を見た。
そこには文が書かれていた。
送り主は…カーラだった。
ーレオへー
調子はどう?
まぁ、多分元気だよね。
こっちは復興が終わって落ち着いた所。
今は以前と変わらない生活に戻りつつあるよ。
と言っても、戦線が結成されたから、村守の人や魔術師は慌ただしくしてるけど…
私達は元気にやっています。
…
三枚折になっていた手紙の上段を読み終えた。
あっちは元気にしているらしい。
何よりのことだ。
しかし…なぜ今手紙なんかを…
俺は再び手紙を読み始めた
…
それで、今回手紙を書いたのには理由があるの。
あんたも知るべき…というか、あんたは知らなきゃいけないことだから。
内容としては、ニナのこと。
最近、ニナの体調が優れなかったの。
食欲も少なければ、体の調子も不安定。
魔術もまともに出せなくなったみたい。
さらに極めつけは、生理現象が起こらなかったこと。
「マズい」っていう気持ちと「この症状って…」という気持ちがあって、村の診療所に行ったの。
…
俺は手紙の中段を読み終えた。
「………」
俺は言葉が出なくなっていた。
「ニナが心配」という気持ちもあるのだが、そこではない。
俺は現実を受け止められていなかった。
「先生…この症状って…」
手紙を見ていたモラが声を漏らした。
…俺は後段を読み始めた。
…
診療所で症状を話して、診察をしてもらった。
そしたら「間違いなく『命体宿し』です」って言われた。
…
俺はここで読むのを止めた。
無表情に、ぽかんとした顔になった。
周りで手紙を見ていた1期生は、驚きと嬉しさで目を合わせあっていた。
命体宿し。
名前の通り、命を持った体を宿すこと…
つまり…妊娠である。
魔術がうまく出せなくなるのは、命体宿しになって1ヶ月の時に現れる魔術師特有の症状である。
…俺はこれ以上にない気持ちになった。
そして、これまでの思い出がフラッシュバックした。
出会ったときのこと。
魔術を教えたときのこと。
カナルとして授業をしたこと。
研究したこと。
再会したときのこと。
村での生活。
披露宴の時のこと。
………。
…せん…。
…せん…い。
「先生?」
俺は我に返った。
そして、ふと自分の顔に触れた。
顔は少し濡れていた。
泣いていたようだ。
「………」
嬉しさと衝撃で、俺は言葉が出なかった。
………。
「…ふぅぅぅ…」
俺は深呼吸をし、心を落ち着かせた。
俺は、手紙を再び読み始めることにした。
…
驚いて、レオだったら呆然とするのかな?
それとも、嬉しくて泣いたりするのかな?
まぁ、そんな事を気にしてもわからないか。
だから最後に一言だけ。
子供のために、ニナのために、絶対生きて。
生きて、顔を見せてあげて。
待ってる。
ーカーラ・パルトー
手紙を読み終え、俺は手紙をしまった。
「………」
「先生…」
「…大丈夫だ」
俺は深く息を吸った。
そして、頬を叩いた。
「うぇ!?」
俺の行動を見て、周りは驚いた。
「あ、ごめんごめん」
俺は覚悟を決めた。
そして誓った。
「なんとしても、生きて帰る」と。
「みんな。迷惑かけるかもだけど…」
俺が言いかけると、
「何いってんの!迷惑かけてくれよ」
モラがそう言って俺の背中を叩いた。
そして、全体に向かって言った。
「みんな!ニナのためだ!絶対生きて帰るぞ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
モラの掛け声とともに、全員が腕を上げて返事をした。
「ったく…お前ら…」
「なんだよ先生?文句でも?」
文句?
そんなの?
「ねぇよ!勝つぞ!!」
「「「「「「おう!!」」」」」」
こうして、俺達は戦いへと向かっていくのであった。




