72話 武と食の修行
村に帰ってきてから2ヶ月が経った。
エイサールは雨季を迎えていた。
外は1日中雨が降り、収穫が終わった麦畑に溜まっていく。
これは、エイサール特有の風景だ。
というのも、この世界にも春・夏・秋・冬は存在するのだが、雨季が来るのは大陸の南の海岸沿いの地域のみなのだ。
大陸の南半分では雨はあれど、頻度はとても少ない。
ましてや、北は山脈の影響で雨はない。
その頻度の低さから、ほとんどの国では「雨は災の前触れ」なんて言われる始末だ。
ただ、その理屈は南の海岸の国では通用しない。
夏の雨季があるからだ。
この雨季は、約2週間ほど続く。
その間、村人のほとんどは家の中で過ごす。
だが、俺らは少し違うのであった。
「お兄ちゃん…僕はこのまま何をすればいいの?」
その日、俺とカオル、そしてニナは外にいた。
「まあ、散歩だな。ある程度まで修行したら、このまま模擬戦をやるのもありなんだが…」
「そんなことしたら、カオルちゃん、頭が爆発しちゃうよ」
「散歩…か…結界張ったままなんでしょ?」
「そうだ」
俺達は雨を結界で防ぐ練習をしていた。
これはかつて、俺がニナを発見したときにやっていたことと同じだ。
「でもどうして結界?今の僕だったら流術を練習したほうがいいんじゃないかな?」
カオルがそう聞いてきた。
「たしかに大抵は流術で大丈夫だろう。けど、高火力の魔術となれば話は別だ。相性的にも、高火力の魔術が飛んできたら、まず間違いなく手が使えなくなる」
「あ、だから結界か…」
そう言ったあと、カオルは黙り込み、結界の練習を再開した。
「けど懐かしいな…この修行をやってたときにニナを見つけたんだよな」
「え!?そうだったの!?」
ニナはそれを聞いてかなり驚いた。
当たり前か。
ニナはあの時の状況をあまり知らないんだもんな。
「よし!走ってみるか!」
そう言って俺は走り出した。
「「え!?」」
2人は慌てて俺に続いて走り出した。
「「「ただいま〜」」」
「おかえりなさ…って、カオルさんだけずぶ濡れですね」
走ってみた結果、俺とニナは平気だったが、カオルは結界をうまく維持できなかった。
これは…もう少し練習させたほうがいいな。
「とりあえず2人共、風呂に入ってきな」
俺はニナとカオルにそう言って自室に戻った。
自室にて、俺はあるものを書いていた。
「レオさん。それはなんですか?」
書いていると、気になったルカが部屋に入ってきた。
「あぁ、お前にも見せておいたほうがいいな」
そう言って俺はルカに紙を見せた。
「これは…食材?」
「俺の前世の料理の”レシピ”…じゃ伝わらないか。作り方だ」
先日、俺はルカに「前世の料理を教える」と約束していた。
これはその準備である。
「けど…聞いたことのない食材があるみたいですが…」
「それは俺の前世にあった食材だ。これの代替品は用意しておく」
「わかりました!」
俺はそう言って、再びレシピ作りを始めた。
ルカはその後、俺がレシピを作る光景を見守っているのだった。
数日後。
俺は家の裏の崖にいた。
今日はカオルはいない…というわけではないが、木の下で俺の修行風景を見ている。
俺はと言うと、結界で雨をしのぎつつ、剣術の練習をしていた。
「お兄ちゃんってさ…なんていうか…ド真面目だよね」
カオルがそう呟いた。
「そうか?」
「だって僕、お兄ちゃんが修行してない姿なんて見たことないんだもん」
「…たしかに見たことありませんね」
カオルの隣りにいたナナ師匠もそう言った。
「レオって昔からそうよ」
「雨季の時なんてずっと外にいるやつだったな」
さらに、離れた場所でニナの結界の中にいたカーラとバオスもそう言った。
「クセみたいなものだからなぁ…真面目とはちょっと違う気がする」
…てか、
「てか、なんでみんな外にいるの?」
「「「「暇だから?」」」」
「えぇ〜…」
俺は軽くため息を付き、再び剣を振り始めた。
剣を振り続けること2時間。
「そろそろ昼か…」
俺は修行をやめ、家の中に入った。
そして、台所に向かった。
「ルカ〜?」
「なんですか?」
「やるよ〜」
そう言って俺はルカを台所に呼んだ。
今日はルカに料理を教える日であった。
「今日は何を作るんですか?」
「今日は…そうだな…」
俺は作ったレシピを眺めながら食材を確認した。
卵が…あるな。
野菜類もある。
肉も…余ってるな。
油はこの前、自作したし…
味付けは…大丈夫そうだな。
「よし。チャーハンでも作るか」
「ちゃぁはん?」
俺は早速、ルカに作り方の説明をした。
説明の合間に道具の準備をし、調理に取り掛かった。
「じゃあまずは食材を切ろう」
「はい!」
数分後。
俺はルカにあらかたの作業を任せてみた。
ルカは意外にも吸収が早く、料理を黙々とこなしていった。
そしていつの間にか、最後の炒める作業をしていた。
「あ、ルカ。ちょっとストップ」
「え?なにか失敗しました?」
「いや。そうじゃないんだけど…」
俺はルカの手を止めた後、チャーハンに少量の醤油を追加した。
「え?これって作り方にはなかったような…」
「あぁ、悪い。これ実は隠し味なんだ」
「隠し味…ですか?」
俺が今入れた醤油は、従来の醤油とは少し違ったものだ。
ニンニク風味の野菜や、その他諸々の追加と味になりそうな具材を少しずつ入れた調味料だ。
これを入れれば、味にはほとんど影響なく風味を足すことができる。
これを作ったのには、ちょっとした理由があった。
実はこの調味料、俺が前世で作ったものに近いものなのだ。
「作れないかな〜」と興味本位で作ったものなのである。
「よし。音的のもそろそろ完成だな。もう火を止めていいぞ」
それを聞いたルカは調理を終え、早速盛り付けを始めた。
調理時間は約8分。
少し時間はかかったが、説明を受けながらだから、まあ普通か。
俺はルカの盛り付けの完了を確認した後、家族を呼びに行った。
「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」
全員が集合した後、俺達は食事を始めた。
食べてみた所、想像以上に前世の味を再現できていた。
そして、肝心の周りの反応はと言うと…
「うまいな、これ」
「食べたことない味だわ…」
「ラーメンとかよりは薄いですが、いい味ですね」
というように、高評価だった。
「これ全部、ルカが作ったの?」
「うん。レオさんにも手伝ってもらったけど」
「すごいじゃん!これならもっといいものも作れそうだね」
褒められたルカは、まんざらでもないような顔をしていた。
褒められると、やっぱり人ってああいう顔になるんだな。
談笑をしながら食事をしていると、窓から光が入ってきた。
「ん?晴れた?」
俺は食事を終えた後、外に出た。
外には光が差し込んでいて、雨はやんでいた。
「雨季が終わりましたか」
ナナ師匠がそう呟いた。
「ここからは夏ですか…暑くなりそうですね…」
ナナ師匠は少し残念そうだった。
「師匠…冬は寒いって言って、夏は暑いって言ってたら、もう春と秋しか動けませんよ?」
「し!?仕方ないじゃないですか!気候が上下するの嫌いなんですもん!」
そう言うと、ナナ師匠は杖を持って歩き始めた。
「晴れたんだったらどうですかレオ?模擬戦でもしませんか?」
そう言ってナナ師匠は俺に杖を向けた。
「…いいですよ。やりましょう!」
そう言って俺は剣を構えて家の裏へと歩き始めた。
「え!?ちょ!?魔術じゃないんですか!?」
「もちろん魔術ですよ。でもせっかくなので…」
「そのせっかくとは一体、何を想定しているんですかぁ!?」
その後、俺達はドーラ師匠とカオルも交え、再び修行を始めるのであった。




