71話 家族の前で前世の味
村に帰ってきて1ヶ月が経った。
俺は今日、村の畑にいた。
というのもこの季節、エイサールでは麦の収穫が始まるのだ。
俺はその手伝いに来ていた。
「ありがとう!レオリオス!」
「いえいえ。修行の合間の休憩でやらせてもらってるだけなので!」
ここの麦は、この村最大の収入源だ。
収穫した麦をウェストンで販売し、それで生計を立てている。
さらに、最近は他国にも販売してるらしい。
麦はここらへんの地域でしか取れないため、とても重宝されているんだとか。
そして、俺にはもう1つの目的があった。
「すみません。麦の束1つ買ってもいいですか?」
「え?いいが…何に使うんだ?」
「ちょっと料理に」
ドラマルトでは別の穀物を代用して作ったが、俺が持っているのは麦…
これで日本の麺を作れるぞ!
家に帰って、俺は早速作業を始めた。
「何してるの?レオ?」
そこにやってきたのは、ニナだった。
「あぁ、麦が手に入ったんで、前世のもの作ろっかなって」
「…あ、そっか。バオスさん達は食べたことないんだもんね」
そう言うと、ニナは鍋を持ってきた。
「私も手伝っていい?」
「え?待ってていいんだぞ?」
「手伝いたいんだよ」
「…わかった。じゃあまず……」
こうして、俺とニナは料理にかかった。
「ちなみに…時間は空いてるんだよな?」
「うん!今は暇してたから大丈夫だよ〜」
俺は今、麺から作っている。
これは…かなり時間がかかりそうだ。
その日の夜。
俺は「今日の晩飯は俺が作るよ」と宣言し、盛り付けをした。
そして、みんなの前に持ってきた。
「はい。ラーメンです」
「「「らぁめん?」」」
…よし。
反応は学校と同じのようだ。
「これが、レオの前世の世界にあった料理なのか?」
「匂いが…すごい…」
出されたラーメンに、バオスとカーラは少し警戒しているようだ。
当然だ。
目の前にあるのは未知の食事。
その反応が自然なのだ。
ズズッ!
そんな事を考えていると、隣からスープを啜る音が聞こえた。
隣にいたのって…
「濃いが、悪くない味だ。こういったスープは初めて飲む」
音の主はドーラ師匠だった。
ドーラ師匠は臆することなくスープを飲んでいた。
「レオリオス。このモチモチのものはどう食べればいいんだ?」
「さ、さすがドーラ師匠…」
「ん?なにがだ?」
「い、いえ。なんでもありません」
そして俺は、全員にラーメンの食べ方を教えた。
「ふぅ!美味しかった〜」
食べ終わったあと、俺は食器類の片付けをしていた。
「ふう」と息を漏らしながら、カオルとルカは寝転がっていた。
満腹のようだ。
しかし美味かった。
学校のは別の穀物を代用して作っていたせいで、味が本来と違っていたが、今回はちゃんとラーメンだった。
やっぱり麦は重要なんだな…
味が格段に変わる。
「レオ?何してるの?」
そんな事を考えていると、ニナが話しかけてきた。
「あぁ、今は食器洗いしてた」
「私も手伝うよ」
そう言って、ニナは率先して皿拭きを始めた。
食器洗いはそれによってすぐ終わった。
「ニナ。一つ聞きたいんだけど」
「え?何?」
「ニナって、今後なにかしたいこととかあるのか?」
「え?」
実は密かに気になっていた。
元々ニナは人さらいから逃げてきてこの家に来た。
そして、それからもう10年以上が経っている。
ニナ自身、なにかしたいことがあってもおかしくない。
それは、もしかしたらここじゃできないことかもしれない。
付き合うって決めたからには、そういった要望も聞く必要があると思ったのだ。
「ん〜…今のところないかな。今は、ここに帰ってこれた余韻でいっぱいで…」
「そうか…」
どうやらニナは、まだそういったことは考えていないらしい。
俺はそれを聞いて、真意は定かではないが、気にしないようにした。
それがきっと、俺が取るべき選択だと思ったからだ。
「…さて。食器洗いも終わったし、寝る準備するか」
「そうだね。私も準備しよ」
そう言って、俺達は各々の部屋に戻った。
翌日。
俺は麦を使ってあるものを作っていた。
「お兄ちゃん。何この平たいの」
「ん?皮」
「か、皮?なんの動物の?」
「あ、いや。動物じゃなくて…食べ物の材料」
「あ、そうなんだ」
俺は今、餃子の皮を作っている。
昨日の夜、ふと思いつき、作ってみることにした。
「てことは、今日もお兄ちゃんがご飯作るの?」
「…まぁ…そうなるかな」
それを聞くと、カオルは走り去っていった。
…何の質問だったんだ?
「あれ?レオ、今日もなにか作るの?」
そんな事を考えていると、ニナが話しかけてきた。
「あぁ。ちょっと思いついた料理があってね」
「私も手伝っていい?」
「ありがとう。助かるよ」
そう言ってニナは俺の横に座った。
「それで…何をすればいい?」
「えっと…じゃあ、ちょっと見てて」
やることを探していたニナに、俺は餃子の作り方を見せた。
丸く切った皮の上にあらかじめ作っておいた具を乗せて、皮の右端をつまむ。
そして左手のひとさし指で皮のひだを寄せて、右手のひとさし指でとじる。
これを手慣れた手つきで繰り返した。
自分で言うのも何だが、この作業は前世で慣れていたため、うまくできた。
そして形を整えて、皿においた。
「この作業をしてほしいんだ」
「わかった!やってみる!」
そう言ってニナは作業を始めた。
「けどレオ。前世のレオは当然だったのかもしれないけどさ、こんなに料理できるなんてすごいね」
「まぁ…ね」
今までやってきた料理はさほど難しくない。
しかし、料理のレパートリーは多い方だ。
今まで出てきた前世の料理はだいたいできるし、なんだったら家で自己流でローストビーフやらパエリアなんかにもチャレンジしたことがある。
17歳でなぜここまでやっていたのかと言うと、実はわけがある。
それは中学の頃だ。
俺はいじめられて引きこもっていた時があった。
その暇な時間の大半は勉強とスマホだった。
そんなある日、親に頼んで料理をしてみたところ、料理にハマり、中学と高校は2日に1回料理をする生活をしていた。
長期休みの間なんかは、1日の食事全部を作ったり、半日かけて料理をしたこともあった。
その結果、様々な料理に挑戦し、それを覚え、今に至る。
「よし。あとは俺がやっておくよ、ニナは…」
「私もここで見てるよ」
「あ…そう?じゃあまぁ…いっか…」
夕暮れ時。
餃子の餡を包み終え、早速焼き始めた。
餡の味は、にんにくや生姜がなかったため、この世界のものを代用して作ったが、やはり味は少し変わってしまった。
が、それでも「餃子」と分かる味だったので、良しとした。
片栗粉がなかったため、小麦粉で羽を作った。
食感は若干片栗粉と違うが…まぁいいだろう。
そうこうしてる間に、餃子が焼き上がった。
俺は餃子を皿に乗せ、テーブルに持っていった。
「お!来たな」
「お兄ちゃん!待ってたよ!」
そこにはもう家族が勢揃いしていた。
「早いな…まだ配膳もしてないのに…」
「だって楽しみなんだもん」
「レオさん…今日は何を?」
どうやらみんな、俺の前世の料理が気になるらしい。
「…ハァ…じゃあまぁ…みんなで食べますか」
「うん!」
「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」
こうして食事を終えた後、俺は部屋に戻り魔術の研究を始めた。
ここ最近、色々ごたついていたため、そういった事ができなかったが、一昨日辺りからはそれができるようになったのだ。
俺はその日、ワードツリーに魔術の様々なワードをまとめていた。
こういうのをやると、ドラマルトの学校のことを思い出す。
………。
…あ。
「ジャイフに麦送るの…忘れてた」
俺はその日、学校にあるジャイフの食堂のメンバーに手紙を書き、持っていた小麦をドラマルトに送るのであった。




