65話 帰還の前の戦線
ドラマルトを出発してから1週間が過ぎた。
俺はゆっくりと馬車を進めていた。
「お兄ちゃん。今って村に帰ってるんだよね」
そんな時、カオルにそう聞かれた。
これを聞くと言うことは、薄々気づいているらしい。
「帰ってるは帰ってるんだが…ちょっと寄り道だ」
「寄り道…どこに?」
「今向かってるのは竜族世界の界境だ」
「「え!?」」
話は出発の3日前に遡る。
俺はその日、ドーラ師匠から手紙を受け取った。
内容としては「竜獣が動き始めた。注意しろ」というものだった。
それを受け、俺はナナ師匠とニナと話し合いをした。
「注意したほうが良さそうですね」
「けど…それって下手したら巻き込まれたりしない?」
「…?何に?」
「竜獣達の移動に」
「「あ…」」
俺とナナ師匠は失念していた。
そうだ。
あいつらの目的はこっち側の世界にあるんだ。
だとしたら鉢合わせる可能性は高い。
ならどうするか…だ。
「…なら、偵察がてら行っちゃいますか?」
ナナ師匠がそう言った。
「「どこへ?」」
「竜族世界に」
………。
…え?
「なぜ敵地に突っ込むんですか!?」
「結構強引ですが、来る前に潰すんです。そうすれば旅は安全に済みます」
「その前に死にません?それ…」
「まあ、私達なら大丈夫でしょう」
ということで、今は竜族世界に向かっている。
方向としては帰路の真逆だ。
けどまあ、ドラマルトに一番近いところではあるので、さほど旅に影響はない。
けど、今やろうとしているのは戦いだ。
下手したら死ぬ。
慎重に行動しなくては…
そうこうしていると、界境に到着した。
そこには検問所的なものがあったのだが、誰もいなかった。
どうやら界境にいるやつも戦いに出払っているらしい。
俺達は慎重に界境を越えた。
すると、
「誰だ!」
奥から声がした。
よく見てみると、そこには何人かの人がいた。
全員高身長の武装した集団だ。
よく見ると、腕や顔の所々に鱗が見えた。
どうやら、彼らは竜人族のようだ。
「俺達は『ドーラ・コンドル』の知らせを聞き、ここに来た!怪しいものではない!」
「『ドーラ・コンドル』だと!?貴様。名を名乗れ!」
「『影纏のレオリオス・パルト』だ!」
その名前を聞いた竜人達は、手を上げてこちらに近づいてきた。
「すまない。警戒させてしまった。貴殿達は何故ここに?」
「帰路の最中、ドーラ師匠から事件のことを聞き、自身の安全確保を主な目的とし、竜獣達の状況確認に来た。何か力添えのできることがあれば、手助けいたします」
「何!それは心強い。ぜひお願いしたい!」
ここで遠慮しないということは、だいぶマズいようだな。
来て正解だった。
もしかしたら本当に帰還中に襲われてたかもしれない。
俺達は竜人達についていき、竜人の拠点に向かった。
俺達は竜人のキャンプについた。
状況は…悲惨なものだった。
キャンプはボロボロで、けが人も多数いた。
さらに、戦士はガリガリに痩せ、まさにギリギリの状況だった。
「これは…かなりひどいですね…」
「竜獣はこの界境を越えようとして、何度もここを襲撃してきていまして…結果がこれです。次来たら…」
「もう、もちませんね」
この状況…
誰が見ても分かる。
次また襲撃されれば、ここは全滅する。
どうにかしなければ…
そんな時だった。
カンカンカンカン…!!
キャンプ全体に鐘の音が響く。
「これは…」
すると、俺等を案内していた竜人の戦士が青ざめた。
「この音は?」
「…敵襲です」
…え?
「竜獣が…来ました」
そんなタイムリーなことある!?
俺は飛行魔術で空に飛び上がり、周囲を見た。
すると、そいつらがいた。
竜獣が飛んできていた。
それも少人数じゃない。
20体以上だ。
「ニナ!結界でキャンプを守れ!」
「え!?あ、うん!」
「ナナ師匠とカオルは俺と前線に!」
「了解です!」
「わかった!」
「ルカは援護!できるか?」
「私も学校で色々練習してきました!できます!」
「よし!じゃあ行くぞ!」
俺達は竜獣を迎え討つことにした。
俺とナナ師匠、カオル、ルカは竜獣の集団に向かって走った。
その動きに、奴らも気づいた。
「「「「「「ーー・ー・〜ーー」」」」」」
上から複数の詠唱が聞こえてくる。
あまりにも量が多すぎて、何の詠唱だかわからない。
「ルカ!下がって援護を開始しろ!」
「はい!」
俺はルカを配置した後、向かってくる竜獣に攻撃を放った。
「炎戒の龍!」
その魔術は竜獣に当たった。
が、そいつらは怯むことなくこちらに向かってきた。
「ダメージなし!?」
だが妙だった。
ダメージがないだけなら驚くだけで済む。
しかし、当たったやつの体の多数カ所で出血しているのだ。
ダメージはあるのだ。
じゃあ…
「なぜ痛がらない?」
俺は落下しながら考えた。
感覚が麻痺してる?
だとしてもなにか引っかかる。
なんというか…動きが単純すぎだ。
まるで…何かの指令のみをこなしているようだ。
「…おかしい」
それは、ナナ師匠も同じだった。
そんな中、1体の竜獣がこちらに槍を向けて突進してきた。
「…ッ!!」
キンッ!
俺はその攻撃を受け止めた。
俺はその竜獣の目を見た。
奴は…俺を見ていなかった。
「…まさか」
俺の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。
だが、そのためには検証が必要だ。
「試すか…」
俺は攻撃を受け止めていた竜獣の首をつかんだ。
そして、
「…ハッ!」
俺は自分の魔力を首に流した。
すると、何かを感じた。
それはまるで、その竜獣から何かエネルギーが抜けていった感覚に近かった。
「間違いない」
これをやったのには一つの理由があった。
それは、影魔術の特性だ。
影魔術と光魔術は基本、他の魔術と交わらない。
それは、魔力も同じだ。
光の性質と影の性質を帯びた魔力は、他の魔力と交わらない。
それを利用して、俺は敵の体内に影の魔力を送った。
送られた魔力は、体内で他魔力と拒絶反応を示し、自身の身体を攻撃する。
しかし、これにはもう1つ使い方がある。
もし、相手の体内に、別の魔力があったとしたら…
その魔力は拒絶反応を示した瞬間、持ち主に帰っていく。
先程感じた何かエネルギーが抜けていった感覚、それはつまり、他術師の魔力だったのだ。
それが意味することは1つ。
「こいつら…操られてる!?」
竜獣の軍団は、何者かに操られていたのだ。
「レオ!なにか分かりましたか!?」
ナナ師匠が聞いてきた。
「相手の体内に、本人以外の魔力が入っていました。おそらくこいつら…誰かに操られてます!」
「え!?」
「だから僕達の攻撃を痛がりもしないのか!」
「どうします!?」
さて…本題はそこだ。
それが分かったからって、こいつらが止まるわけじゃない。
なんとかして制圧しなければ…
これによって生まれる弱点はないのか…
考えろ…
………。
………。
…あ。
俺はあることを思い出した。
それは、影魔術研究会で研究していた、あのことだ。
ー影には常時魔力が宿っていて、我々は一つの影を通して、周辺すべての影とつながっている…ー
これだ!
これを使えば…
俺ならできる。
「ナナ師匠!カオル!ルカ!作戦だ!」
俺がそう叫ぶと、3人は俺の方を向いた。
「3人は、あいつらをできるだけ地面に近い位置に誘導してくれ!」
「何をするんですか!?」
遂にこの研究を実戦で使うときだ。
「敵の影を使って、槍を出して固定します!」
俺達はその後、作戦決行に移った。




