64話 出発の時
退任の儀から1週間が経過した。
あれから俺達はずっと旅立ちの準備をしていた。
ジルさんのご厚意により、出発まで学校の宿部屋に滞在することを許可してもらえた。
そして、今日は出発の日である。
しかし、その前に俺達は屋外にある運動場に立ち寄った。
「よしカオル!お前の2年間、見せてみろ!俺を驚かせてみろ!」
「任せてよ!お兄ちゃんをぎゃふんと言わせてあげる!」
旅立ち前に、俺はこれまでかまってこれなかったカオルの修行の成果を見ることにした。
以前最後に見たときは「絶賛体術練習中」という感じだった。
さて…どこまで伸びたかな?
「…うし!こい!」
そう言って俺は剣を構えた。
ただ、今回は木刀でも真剣でもない。
以前「影で物を作る」という魔術の研究を参考に編み出した「影の剣」だ。
殺傷能力はないように作ったが、硬さは真剣とほぼ同じ。
木刀でも良かったが…おそらく衝術で粉砕されるのでやめた。
「行くよ!」
そして、カオルは杖を手にし、こちらに向けた。
「………」
「………」
数秒間の沈黙のあと、カオルが動き出した。
「光襲の矢・点!」
いきなり特急か!?
俺はつかさずそれを受け流した。
「…!?」
受け流した直後、カオルは俺の懐に侵入していた。
おそらく「光進」で加速してきたのだろう。
「はっ!」
そしてカオルは俺に向かって平手を突き出した。
「マズっ…!?」
俺は咄嗟に剣をカオルと俺の間に入れた。
コ゚ーーン!
カオルの攻撃は、俺の剣から凄まじい音を鳴らした。
剣と平手の衝突とは思えない音だ。
俺はその反動で吹っ飛んだ。
「なるほど…!これがカオルの衝術か!」
俺は衝術を受けたことが何度かある。
すべてリューとの戦闘内でだが。
しかし、俺はそれで足が浮いたことはない。
リューが専門外というのもあるが、それでもこの威力の衝術はエグい。
「これは…かなり本気でやらないとな…」
俺は中に舞いながら、持っているものを杖に切り替えた。
「影の領域!」
俺は5体の分身を出した。
が、ここで思わぬ光景を目にした。
「五属の分身!」
カナルは火、水、土、光、影の5体の分身を出した。
「え!?分身!?」
「えへ。ちょっと消費魔力は多いけど、体術ベースならいける!」
…あ、そうか。
体術は魔力も剣力も使わないから、魔力消費が激しくても頭数増やすのが得策なのか。
だがまさか、カオルが分身を5体も出せるなんて知らなかった。
が、同じ動きしかできないようだ。
「行くよお兄ちゃん!」
「こい!」
するとカオルは一直線に俺の分身に向かっていった。
…なぜ分身?
俺がそう思っていると、それは起きた。
ボン!
「…ッ!?」
カオルの体術が分身に当たった瞬間、俺の体に痛みが走った。
「…何をした!?」
「見破れるかな?」
俺は模倣眼で攻撃を見た。
すると、分身に攻撃が当たった瞬間、分身から何かがとんできた。
…まさか!?
「俺の魔力になにか流してる!?」
「正確には、お兄ちゃんの魔力だよ!」
…え!?そういうこと!?
俺に返ってきた魔力の衝撃で痛いってこと!?
え!?どゆこと!?
「…考えてもしょうがないか!」
「次の奥義で最後!」
そしてカオルは、静止して構えた。
来る…
体術の奥義…
型の組み合わせ技が!
「柔衝混合!弐の型!」
そう言って、カオルは俺に突っ込んできた。
「界外剣!」
俺はカウンターを選んだ。
カンッ!
キンッ!
カカンッ!
音をたてて、俺とカオルの攻撃は衝突した。
そして、
「…あ」
カオルは最後の攻撃を外した。
いや、俺に避けられた。
スッ!
俺は素早くカオルの目の前に剣を構えた。
「勝負アリだな」
「え〜負けた〜」
いや…だいぶ危なかったぞ…
魔術まともに出せなかったし。
「よし。この調子で修行しなさい」
「え!はい!」
カオルは褒められて嬉しそうだ。
さて…
「そろそろ馬車に向かおう」
俺達は学校の校門に向かった。
「「「「「せんせ〜い!」」」」」
「レオリオスさん」
校門に着くと、そこには影魔術研究会の1期生とジルさんがいた。
「みんな…どうして?」
「最後くらい見送らせてよ!」
「先生、最後顔出すかと思ったら、なんか剣振ってるんだもん」
どうやら見送りに来たら、絶賛カオルとの稽古中だったらしい。
「レオリオスさん…出発なさるんですね」
「はい。ジルさんには、多くの迷惑をかけました。2年間、ありがとうございました」
「お礼を言うのはこちらです!特別講師の他にも、あなたには依頼やその他の業務でもお力を貸していただきました。本当にありがとうございます。そして…」
そう言って、ジルさんは深呼吸をした。
「ニナを…よろしくお願いします」
ジルさんの目には涙が浮かんでいた。
そりゃそうか。
9年間、親代わりとしての関係を築いていたんだ。
ジルさんの気持ちは、もう親のそれなんだ。
「ニナ…元気でね…!」
「うん!…今までありがとう!…ジルさん」
2人は抱き合い、別れを告げた。
「んじゃ…そろそろ行くかな」
そうして俺は、馬車に荷物を詰め始めた。
「先生!」
すると、ラーラに呼び止められた。
「なんだ?」
「最後に…みんなに魔術を見せてくれませんか?」
「え?魔術?」
俺は驚いた。
何をされるのか、何をしてほしいかなんて見当がつかなかったが…
まさか最後に「魔術を見せてくれ」だとは…
俺は全員の顔を見た。
1期生は全員、俺を見ている。
「…ハァ〜…しょうがない。最後だしな」
俺は荷物詰めを中断し、杖を構えた。
「影の領域!」
そして俺は分身を出した。
「最後の魔術だ!華やかに終わろう」
そう言った後、俺と分身は杖を空に向けた。
「「「「「「ハッ!」」」」」」
その瞬間、杖から魔術が飛んでゆく。
魔術は赤、青、茶、緑、黄、黒に輝く。
そして、空高く登り、衝突した。
ドーーン!
それは花火のようだった。
衝突した魔力は複数の色に輝き、散っていく。
俺はこれを何発も繰り返す。
夏祭りを思わせるほどに、何発も。
そして最後は…
「最大出力で!」
ドーーン!!
それは今日の中で一番大きなものになった。
花火を模倣した魔力の音が、ドラマルトに響き渡る。
「…よし、もう出ないとな」
そして俺は荷物詰めをし終え、馬車の操縦席についた。
「僕達は国門まで送っていきます」
「私はまだ作業があるので…ここで」
そう言って、ジルさんは校舎へと歩いていく。
「レオリオスさん、ニナ。今まで本当にありがとうございました」
こうして、俺達はジルさんと別れた。
そして、国門に向かうのだった。
「よし…お前らも、ここまでだな」
俺達は国門についた。
ここを出れば、この国とはお別れだ。
「先生…グスッ!」
気づくと、1期生は全員泣いていた。
それもかなりの大号泣だ。
「泣くなよ。言ったろ?今生の別れじゃないって。また会いに来る」
「うん!2人共…絶対また来てね!」
「あぁ!約束だ」
「絶対来るよ!」
「2人の関係に幸あれ…」
「おいフェイ…そこでこっそり何言ってんだ?」
そうしていると、門番に出国の報告に行っていたナナ師匠が帰ってきた。
「確認できました。いつでも出発して良いそうです」
「そうですか…じゃあ…」
そうして俺は馬車に再び乗った。
「お前達。しっかり研究と勉強を頑張るんだぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
そして俺は、改めて全員の顔を見る。
その目は希望に満ち溢れているように、俺は見えた。
「いい目だ…これなら、安心して旅ができそうだな」
俺はそれを確認した後、馬車を発進させた。
「じゃあ…元気でな!お前ら!」
「みんな元気でね〜!」
「「「「「ありがとう!レオリオス先生!ニナ!」」」」」
俺達の馬車に向かって、全員が手を振ってくれた。
俺達が見えなくなるまで。
ずっと…
………。
こうして、ドラマルトでの生活は終わり、俺達はエイサールへと向かう。
少し寄り道もするだろう。
けれどそれは着実に、ゆっくりと故郷に近づいていくだろう。
俺達はドラマルトでの生活の思い出を振り返りながら、馬車を進めるのであった。




