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影を纏う転生者 〜平凡な高校生の異世界人生録〜  作者: 仮想猫
影纏の術師編 〜ドラマルト〜
67/80

63話 願い

事件から3ヶ月。


「…よし」


俺は目覚めた後、食事をし、歯を磨き、剣を磨き、杖の整備をし、いつもの服装に身を包んだ。

そして、その服の胸に花をつける。

外を見ると、雪解け直後の地面に花が色づき始めていた。

この世界には桜はないけれど、春が近づいていることが理解できた。


「レオ。ニナが呼んでいます」


外を眺めていると、ナナ師匠に声をかけられた。

俺はそれに従い、ニナのもとへ向かった。


「ニナさん?早く準備しないと、お兄ちゃん来ちゃいますよ?」

「だって…これはいつもつけないんだもん…!」


部屋に向かうと、そこにはニナとカオルがいた。


「この学校ってバッチがあったんですね」

「私も全然つけたことなかった…」


ニナを見ると、ニナは見慣れない衣装に身を包んでいた。

白いYシャツらしきものの上に、黒っぽい生地に赤いラインの入ったローブを着込んでいた。

そして胸には、俺とおそろいの花をつけていた。

それは、俺の前世に存在した「スイートピー」という花によく似ていた。






今日はニナの卒業式だ。

今日でニナの学校生活が終わる。

それは同時に、カナルという人物の終わりも指す。

今日はニナにとって最も重要な日だろう。

さらに、この卒業式が終われば、次は俺だ。

俺も今日をもって特別講師を退職する。

これが終われば、俺達はこの国を去ることになる。

今日が、俺達にとっての節目なのだ。


「さて…行くか」


「うん!」


俺とニナは学校の中央の広場に向かった。

2週間前に、1期生でバンドをした場所だ。

そこには多くの卒業生と在校生がいて、講師も揃っていた。

「よう!影纏!」

眺めている俺に話しかけてきたやつがいた。

話しかけてきたのはリューだった。


「俺達ももう引退だな」


「あぁ…けど、今日の主役は俺らじゃない。そうだろ?」


そうだ。

俺達は主役ではない。

主役はニナ達…卒業生だ。


「なあリュー」

「どうした?」


「教え子が巣立つ時…俺達はどんな顔すればいいと思う?」


俺は正直悩んでいた。

ニナもそうではあるが、今日を持って、俺が講義していた生徒の多くが旅立つ。

それは嬉しいものだが、同時に寂しさもある。

こういう時…先生たちはどうやって見送ってたのだろうか…


「堂々としてればいいんじゃないか?」


俺の質問に対し、リューはそういった。


「たしかに俺達の内心は複雑だ。これを喜ぶか、はたまた名残惜しむか…けど、俺らがすべきなのは『最後までそのままの俺達であること』だと思っている。だから、俺のやることはいつもと変わらない。ただ笑顔で『じゃあな!』って見送るだけだ」


…なるほど。

その通りだと思った。

普通でいいんだ。

それがきっと、卒業生が見たい姿なんだ。

俺はそう、心で思った。






「…あなたの卒業を認めます」


あのあと、卒業式は何も問題なく始まった。

ジルさんは珍しく堅苦しい言葉を並べ、生徒に言葉を送る。

卒業生の中には笑っている者もいれば、泣いている者もいた。


「最後に、在校生から、歌をお送りいたします」


そして、在校生は歌を歌い、会場を締める。


「これをもちまして、卒業式を終了します。退任の儀は、お昼をはさみ3時間後に執り行います。在校生、卒業生は定時までにここに戻るようにお願いします」


そして卒業式は閉式した。

俺は司会の言葉を聞いた後、ラボに向かった。


「「「「「あ!!」」」」」


「え?」


ラボに行くと、そこにはニナ以外の影魔術研究会の生徒が勢揃いしていた。


「なんでここに…」

「せ、先生はゴメンだけど、影魔術の実験室に行ってて!」

「え!?なんで!?」

「いいから!!」


そう言ってあいつらは、俺をラボから追い出した。


「…なんで?」


今はラボに入れない…

俺は仕方なく実験室に向かった。


「「「「「「先生!」」」」」」


そこには、さっき式を終えたばかりの卒業生がいた。

それも大勢だ。

お前ら…なんでここに?」

「最後の挨拶に来たんですよ!」


そうか…そんなことまでしてくれるのか…

俺泣いちゃうぜ?


「「レオリオス先生!」」


そんな事を考えていると、前に2人の生徒が出てきた。

それは、セキとシン・レースの2人だった。

2人は俺の就任前後になんだかんだ関わった2人だ。

あれからも付き合いがあり、よく勉強を教えていたのだ。


「先生のおかげで、自分を見つめ直せました」


「先生には感謝しかありません!」


「「ありがとうございました」」


そうか…2人ともこんなに大きく…


「あれ?先生もしかして泣いてる?」

「ん〜確かに泣きそうではあるな」


「「「「「「そこは否定しろよ!」」」」」」


俺はその後、卒業生と思い出話をしながら時間を過ごした。






「それでは、これより退任の儀を始めます」


そして、俺らの退任式が始まった。


「今年の退任は3名です。1人ずつ紹介していきます」


そうして、退任者の紹介が始まった。


「まずは、『七変化のネネ』殿です。彼女には5年間、講師として務めていただきました。本日をもって、講師の職を辞することとなりました」


今日の退任者は講師と特別講師、あわせて3人だ。

残り2人は…もう分かっている。


「続いて、『逆手のリュー・ダリウス』殿です。彼には2年間、特別講師として務めていただきました。本日より、『剣術指南役』として、世界を回るそうです」


「え?」


リューが剣術指南役!?

聞いてないぞそんなこと。


「いつからなってたんだ?」

「事件直前だよ。俺もそういうのに興味が湧いたんだ」


そうか…

リューがドーラ師匠と同じく剣術指南役か…

複雑ではあるが…素直に嬉しい。


「そうか…ならいつか、俺の村にも来てくれよ」

「おうよ!…って、そっちってノーボックスのドーラさん居るんじゃなかったか?」

「あの人、少し忙しくしてるみたいなんだよ。だからさ…」

「なるほど…ならいいぞ」


話はずれるが、実はこの2年間、ドーラ師匠とは度々連絡を取っていた。

最後に取ったのは去年だが、「人族世界を定期的に回って竜獣の動向を探ってる」と言っていた。

相当忙しいようだ。


話を戻そう。


「最後に、『影纏のレオリオス・パルト』殿です。彼にも2年間、特別講師として務めていただきました。本日の儀式が終わった後、故郷に戻り活動するそうです」


そして、全員の紹介が終わった。


「ここで、退任者から言葉を頂戴します」


まあ、これは前世でもあったな。

こういう時、どうするべきか…

堅苦しく話すのか?

歌でも歌うか?

悩んでいると、


「次にリュー先生、お願いします」


リューの番が来た。


「え〜皆さん。俺の堅苦しい言葉なんて、キャラに合ってないと思う人が多いと思います。なので一言だけ…」


そしてリューは深呼吸をし、こう言った。



「自分が一番したいことを考え、見つけ、研究し、貫け!それが俺の残す、最後の言葉です!」



パチパチパチパチ…!


会場は拍手に包まれた。

場にあってないかもしれない。

けれどそれはリューらしい、短いけれど、心に響く言葉だった。


「最後にレオリオス先生、お願いします」


そして、俺の番が来た。

さて…何を話そう…


「え〜まず最初に、卒業生の皆さん。ご卒業おめでとうございます。皆さんの今後を、心から期待しています」


違う。

これを言いたいわけじゃない。


「次に在校生の皆さん。これからも研究に励んでいったください」


違う。

別にそういう事を言いたいわけじゃない。


「……ッ!」


パシンッ!


俺は自分の両頬を叩いた。

その瞬間、全員が驚いたのが分かった。

すまんな…驚かせて…。

そして俺は気持ちを切り替えて、言葉を発した。


「俺がこの学校に勤めた2年間は、俺に多くのことを教えてくれ、多くの出会いを生み、多くの経験をさせてくれました」


俺は考えながら、言葉を絞り出していた。

が、それはいつしか無意識になり、心のままを話していた。


「俺はこの学校が好きです。俺はここの生徒が好きです。だからこそ、別れは悲しいけど、笑って終わりたい」


俺はそのまま言葉を続けた。



「だから、今ここに再会を、そして、みんなの今後の未来を願い、別れたいと思います!みんな!この2年間、本当にありがとう!」



パチパチパチパチ…!


会場は再び拍手に包まれた。

その拍手は俺の心に深く刺さった。

こうして、俺は満足しながら式を終えた。

唯一の不満は、俺の言葉に対して一番に泣いていたのがリューだったことくらいだ。






「レオ…みんなからなにか聞いてる?」

「いや…何も…」


式を終えた俺達は、突然ラボに呼び出された。

さっきは入るなと言っておいて、今度はなんだ?

俺とニナはラボの中に入った。


「「「「「「先生!ニナ!卒業おめでとう!」」」」」」


中ではサークルのみんなが待っていた。


「どうしたんだ?そんなに準備して?」


中はさっきのラボからは想像のつかないほどの装飾で飾られていた。


「送別会だよ!まあ…2人とも時間がないから…短時間だけど」


こいつら…そんなの計画してたのか…

俺はふとニナの方を向いた。

ニナは…もう号泣寸前だった。

目には涙がたまり、口をモゴモゴさせていた。


「さて!ニナが泣く前に、さっさとプレゼント渡しちゃお!」


そう言うと、1期生が前に出てきた。

手にはそれぞれ、ラッピングされた物や花束を抱えていた。


「改めて、卒業おめでとう!」

「2人と過ごした時間は、本っ当に楽しかった!」

「これからも、頑張ってください」

「またいつでも来てな!」

「最後にみんなからも、せーの!」


「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」


ラーラの掛け声とともに、この場にいた全員が、俺とニナに向かってそう言った。


「…くっ!」


俺はもう耐えきれず、泣いてしまった。


「あ!先生が泣いた!」

「よし!目的達成だな!」


「お前らよぉ…これで泣かないはおかしいだろぉ〜」


「「「「「「アハハハ」」」」」」


俺とニナの涙を見て、みんなは笑った。

決して馬鹿にしているわけじゃない。

これが、彼ら全員での、最後の思い出作りなのだろう。

俺もこれは、絶対に忘れない。

そう思った。

こうして、俺とニナの学校生活は幕を閉じた。

名残惜しさを胸に、俺達は故郷に帰るのだ。


おまけ話

あのあと、部屋に帰ったのだが、泣き腫らした俺とニナの目を見て、ナナ師匠は腰を抜かした。

カナルはあまりの顔の変化に笑い、ルカは俺達の体調を心配するのであった。


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