120話 200年前の分裂
俺達は上陸後、「ドライン」という国の防衛を担う「ウェン・ゴール」という人物のもとへ招かれた。
警戒心を見せる俺達とは逆に、ウェンさんは興味と期待、希望の目を向けてきた。
そして、ウェンさんは俺達に対し、とある昔話を語りだした。
正直、なぜ初対面である俺達を信用し、話し始めたのかはわからない。
しかし、その話は、俺達の常識を覆すものだった。
………
これは約200年前。
カスラ戦線の開戦時の話。
この戦いは鬼族とドワーフ、心伝族の混血にして、大罪を犯したとして、大陸の中心国家「魔帝へブリック」を追放された魔族「カスラ」による「氷国ウィンズ」への襲撃から始まる。
「氷国ウィンズ」は現在の「忘却されし大陸」の北の出島の先にある国であり、氷山と雪に囲まれた国である。
主に心伝族と鬼族が暮らす場所である。
魔帝から追放されたカスラは、追放に対する恨みと、自身の実力を証明したい欲、世界征服の野心を抱き、それに向けて動き出した。
その最初のターゲットになったのが「氷国ウィンズ」であった。
人数としては1人対一国ということで、無謀な戦いにも見えた。
しかし、カスラの実力は凄まじく、鬼族特有の怪力、圧倒的な戦闘センス、見たものを一瞬で覚え、それを戦いに一瞬で取り入れる天才性が、「氷国ウィンズ」を滅ぼした。
それを受け、魔帝は大陸全体に応援要請を出した。
そして、大陸全体から戦力をかき集め、カスラを迎え討った。
しかし、カスラを止めることはできなかった。
カスラは巨大な魔術で魔帝の王都を一瞬で破壊した。
それにより、集められた戦力は指揮能力を失い、大陸全土に散っていった。
魔帝は壊滅し、カスラは魔帝へブリックに残った戦員を捕らえ、洗脳の魔術により操った。
魔帝の壊滅に伴い、忘却されし大陸の魔族文明も崩壊し、生き残った魔族は、当時発見されて間もなかったもう一つの大陸、人族が暮らしていた今の「三世界大陸」へと亡命した。
しかし、魔族文明から独立していた「竜族」。
そして、それと共存関係にあった「三眼族」だけは、大陸に留まった。
そんな中、竜族内では生存のためにカスラに従おうとする「竜獣」、それを否とする「竜人」の陣営に別れ、内戦が起きた。
内戦の後、「竜人」は「三世界大陸」に亡命し、「竜獣」は「忘却されし大陸」に残った。
しかし、分裂したのは「竜獣」と「竜人」という枠だけではなかった。
この当時、竜獣内でも、カスラに従い、戦争に参加しようとする「過激派」、戦争に参加せず、カスラからの支配を嫌う「穏健派」に分裂していた。
これを受け、竜人がいなくなったドライン内で、当時の国王が裁判のようなものを開き、双方の話し合いが行われた。
「現在優勢なのは圧倒的にカスラの方だ。この戦いで、正体不明の人族が味方に加わっただけの残党がカスラに勝つのはほぼ不可能だ。一族の生存のためにも、カスラに従うのが当然の判断だ!」
過激派の意見としては、こんな感じだった。
その一方、
「カスラのやろうとしていることは絶対に間違っている。ましてや、あっちの戦力は全員洗脳された兵だ。切り捨てられ、一族が滅ぶのも時間の問題となろう。一族の存続というのならば、絶対に従うのは間違っている!」
穏健派は、こう答えた。
「しかし、今カスラに歯向かえば間違いなく滅びる。そっちのほうがマズいだろ!」
「だが、こっちにもこっちの生活がある!今従って、生活に耐えられる保証などない!」
そういった意見が次々と飛び交い、裁判は波乱の場となった。
「沈まれ!!」
その空気を断ち切ったのは、国王だった。
そして、国王は答える。
「カスラのやっていることは間違っている。よって、我らは『穏健派』の考えのもと、カスラへの支配を否とする!」
「何だと!!」
国王の発言に対し、過激派は激怒した。
そして、待機していた過激派の集団を場に招き、反乱を起こした。
これにより、過激派は国王直属の部隊に捕らえられ、主力は処刑され、残りは国外追放となった。
そして、ドラインは鎖国状態となり、他国との交流の一切を断ち切った。
これを逆手に取り、過激派の残党は「三眼族」との貿易を独占し、取り込んだ。
そして、カスラの軍門に下り、「三世界大陸」に攻め入った。
「…これが、カスラ戦線における、竜獣の真実です」
ウェンさんは話を語り終えると、深呼吸をして、肩の力を抜いた。
その話を聞いた俺達は、あまりの情報量に何も言えずにいた。
特に、竜人であるドーラ師匠はこの話に対しかなりの衝撃を受けていた。
「…それが、竜族の過去か…」
しかし、さすがのドーラ師匠である。
ドーラ師匠は話の情報を瞬時に理解し、納得した。
その声からは、ドーラ師匠からずっと放たれていた警戒心は消えていて、少し柔らかい声色になっていた。
「…ならば、我らが敵対する理由はないな」
「信用して…くださるのですか?」
ドーラ師匠の反応を見て、ウェンさんは驚いたように聞いた。
それもそうだろう。
目の前にいるのは「竜獣は敵」と教わってきた者たちで、さらにドーラ師匠はそれを強く信じていた「竜人」なのだ。
「こんなに長い話が、作り話だったら驚きだ」
ドーラ師匠はウェンさんの問いかけに対し、若干の笑みを浮かべてそう答えた。
「それに…」
その言葉の後、ドーラ師匠は俺とナナ師匠の方を見た。
………。
…あ。
そういうことか。
「嘘をついては…いないと思います」
「多分大丈夫ですよドーラ」
どうやらドーラ師匠は、俺とナナ師匠に念話で聞けと訴えていたようだ。
「うむ。信用しよう」
「ありがとうございます」
その言葉を受け、ウェンさんは深く頭を下げた。
そうして、俺達に向き直った。
「遅れましたが、あなた達を歓迎します。どうぞ、ゆっくりしていってください」
こうして、俺達は無事、大陸の上陸に成功するのであった。
その3日後。
俺達はある程度の物資を国内で揃え、宿泊した。
そして今日。
俺達は出発することにした。
「行かれるんですね」
出発するために、俺達は国門まで来ていた。
そこにはアイさんとウェンさんが待っていた。
どうやら、見送りに来てくれたらしい。
「旅の方はどちらに?」
「ゾーランを経由して、シーランに向かおうと思っています」
アイさんの質問に対し、俺は素直に答えた。
「ゾーランですか…」
俺の言葉を聞くと、ウェンさんが言葉を放った。
「ゾーランは元々『大陸獣族』の国でした。獣族は生存意識が高い種族でしたので、もしかしたら生き残りがいるかも知れません」
ウェンさんはそう言う。
その言葉に対し、少し引っかかった。
大陸獣族?
獣族のことなんだろうか?
………。
…まずいいか。
「わかりました。ありがとうございます」
俺はその言葉の後、そこで買った馬車に荷物を詰めた。
「では、行きます」
「はい。お気をつけて」
「ご武運を」
こうして、俺達はドラインをあとにした。
「しかし、まさか竜獣内で分裂してたとわな…」
馬車の中で、リューがポツリと呟いた。
「こういったこともまだあるかもしれない。気を引き締めていこう」
それに対し、俺はそう言った。
この先何があるのか。
俺達は若干の期待と、警戒心を持ちながら、旅路を進むのであった。




