114話 深き縁 3
「…なん…で…?」
俺の目には、ゼイが写っていた。
その姿は若い女性であり、左目が赤く光っていた。
髪は茶色く、穏やかで、鋭い目をしている。
俺はその姿を見て、驚愕した。
それはその姿が、あの人と瓜二つだったからだ。
「母…さん…?」
「嘘…」
ニナも同じように感じていた。
ニナも俺達の家で生活をともにしたことがある。
そのニナが見ても、彼女は「カレラ」だった。
「…フッ…アハハハハ!!」
それを聞いたゼイは笑った。
大きな声で、周りに響き渡るような声で笑った。
そしてゆっくりと話し始める。
「私は…カレラ・パルトであり、カレラ・パルトではない」
そう言い放つ。
俺はあまりの情報量に、その言葉の意味を理解できなかった。
だが、それは次の言葉で理解した。
「私は、カレラ・パルトの分裂体だ」
その言葉を聞いた瞬間、俺はあることを思い出した。
それは、俺が終戦後、村に帰ってきた時のこと。
俺は魔術についての文献を調べている中で「バルトの禁術」についての本を見た。
そこには「生命分裂」について書かれていた。
この魔術は、対象の心身を2分化する。
精神諸共分裂させるため、分裂体同士が1人の自分になろうと殺し合ったり、片方の精神が崩壊したりなどの危険性があり、禁術とされている。
つまりゼイは、「生命分裂」により生まれたもう1人のカレラということなのか…
…わからない。
俺はまだ状況についていけていなかった。
だが、ゼイは淡々と語る。
「私は16歳の時、パルト家の分家に術をかけられた。当主の座が私に来たことへの怒りだろう」
ゼイの顔は笑っていた。
恐怖を感じるほどの、不敵な笑みだった。
「これにより、私は2人に別れた。そして、私には結界と治癒を除く魔術の才能と怒り、憎しみ、哀れみ、憎悪のような負の感情が、君の母にはその他の感情と魔術の才能が宿った」
そう言うと、今度は左目を指差す。
「その憎悪が形となったのかはわからないが、私の目にはこの『共鳴眼』が宿った。これを使い、一族を憎悪で支配し殺し合わせ、カレラ…君の母や国の人間の持っていた『パルト家に関する知識』と『記憶』を改ざんした。こうして、今にいたるのさ」
俺はゼイの話が終わったあと、ようやく正気に戻った。
そして、その現実を受け止めきれず、その場で悶絶した。
過呼吸となり、その場から動けなくなった。
「おや?あまりの情報量に混乱してしまったか。無理もないか。だって…」
ゼイはそう言うと、深呼吸をしてから声高々に言葉を放つ。
「君の母を殺したのが、君の母だったんだからね!!」
その言葉の後、俺の過呼吸は止まり、代わりに涙が流れた。
俺の感情はぐちゃぐちゃになり、崩壊しかけていた。
「…レオ!!」
だが、俺は再び正気に戻った。
俺の横には、ニナが立っていた。
「レオ!!しっかりして!!気持ちはわかる。けど!レオがここで壊れたら…もう…」
俺はその言葉を聞いて、沈黙する。
数秒の沈黙のあと、俺は自分の頬を叩き、ゼイを睨む。
そして、問いかける。
「一つ聞きたい…なぜ村を襲った?」
俺の問いかけに、ゼイはまたニヤける。
そして、言葉を放つ。
「私はこの世界に絶望した。私欲のために手段を選ばず、身勝手な理由で人を切り捨て、人の善意を簡単に踏みにじる世界に。だから襲った。世界を変えるために」
その言葉を、俺は理解できなかった。
「話が見えないな。理由はどこにある」
俺の問いかけに、ゼイは答える。
「理由になるさ。それは君が一番理解してるだろ?」
「何?」
俺がそう聞くと、ゼイは続ける。
「私は、君の母から才能を奪ったんだよ。魔力の性質である『魔力は同じ魔力に引きつけられる』という性質を使ってね」
俺はその言葉を聞いて、理解した。
つまり…それは…
「母さんを殺して…自分の魔力に変換する…分裂体だから…それが出来たって…ことか?…」
そして、それは俺の知りたくなかった事実があらわになった。
「お前が村を襲った目的は…俺じゃなく…」
「あぁ。…カレラの殺害だ」
その瞬間、俺の心は怒りに支配された。
そして、無意識に「影の領域」を展開した。
「レオ!?」
影からはブクブクと音をたてながら魔力が漏れ出した。
こんな現象は、今までの「影の領域」では無かった。
それはまるで、今の俺の感情そのものだった。
「…ハハッ、流石だね。話は終わったみたいだし…ここで…!?」
ゼイはその様子を見て、右手を前に出した。
しかし、それと同時に、ゼイの左腕が右腕を押さえつけた。
「「「…!!?」」」
ゼイを含め、その場にいた全員が驚いた。
俺はその光景を見て、怒りはすっ飛び、影の領域を閉じた。
その左腕の行動は、まるで俺を守っているようだった。
「…母さん……」
そう。
それは、カレラが俺を守っているように感じられた。
「…まさか…ここに来て意志が反応するなんて…今までなかったのに…」
そう言うと、ゼイは飛行魔術を発動し、空高くに登っていった。
「話は終わりだ…今回はここまでにさせてもらうよ」
そうして、ゼイは後ろを向く。
「君がもし私を追うなら…忘れられた地で再び会おう」
そう言って、ゼイはその場を去った。
「…っ!!待っ!?」
俺はゼイを追いかけようとした。
しかし、その瞬間に俺は膝から崩れ落ちた。
どうやら、さっきの「影の領域」で魔力を使い切ってしまったらしい。
「レオ!」
「…ッ!!クソォォォォ!!!」
俺はその場に膝をつき、叫んだ。
そして、俺は涙を流し、空を見上げた。
「…レオ……」
ニナはそんな俺を見て、何も言わなかった。
いや、きっと何も言えなかったのだろう。
「ごめん…ニナ…」
俺はそんなニナを見て、謝ることしか出来なかった。
真相と火種編 ー完ー
忘却されし大陸編に続く




