↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/130

113話 憎悪の追憶 2

「…っ」


気絶してからどれくらい経ったかはわからない。

彼女は目覚めた。


「…え?」


目覚めると、彼女の手は天井から垂れる紐に縛られ、吊るされていた。

首筋には鈍い痛みが残り、意識もまだはっきりしていない。


「どういう…ことですか?…」


彼女はあたりを見渡した。

彼女の周りには暗闇が広がっている。

近くには薄っすらと机や椅子、工具などが見える。


その光景に、彼女は見覚えがあった。


「別邸の…地下室?」


それは、自身の一族が所有する別邸の一つの地下室だった。

そこはあまり使われていないからか、ほんのりとホコリ臭い。


カツッ…カツッ…


彼女が周囲を見渡していると、近くで足音が聞こえた。


カツッ…カツッ…


それも1つではなく、2つ、3つと聞こえた。

そして、彼女の前に3名の人物が現れた。

その3人を見て、彼女は目を見開く。



「…貴方がたが…なぜ…」



それは、一族の分家の者達だった。

彼らは鋭い眼光を向けながら、彼女の前に立つ。


「貴様が当主など認められるか」

「…ですが…それは…っ!?」


意識がはっきりしてきた彼女は、自分の前にいる人物に言葉を返そうとする。

すると、分家の者は彼女の顔を掴んで口を塞ぐ。


「黙れ!我らはこれまで当主に多くの貢献をしてきた!」

「それなのに、ただ才能がある小娘が次期当主など断じて許されない!」


分家の者達は言葉を続ける。


「そこで、考えた」


そう言うと、分家の者達は不敵な笑みを浮かべた。



「貴様の才能を半分にしてしまえば、もう貴様は脅威ではない」



「…!?」


そう言うと、分家の者の1人が本を開く。

それは、先日彼女が見ていた「バルトの禁術」と同じものだった。



「そこからゆっくり…お前を殺すとしよう」



そう言うと、分家の者達は彼女を囲み、詠唱を始める。



「・〜〜ー・ー〜…」



「い…いやだ…やめて…」



言葉とやろうとしていることを理解した彼女は、弱々しくそう言った。

だが、詠唱は止まることなく、続けられた。

彼女は、ただ泣くことしか出来なかった。



「「「生命分裂(ライファークローン)!!」」」



そして、バルトの禁術は発動された。



「「あぁぁぁぁぁぁ!!!」」



発動されると、彼女の声は徐々に二重になり、次の瞬間、眩い光が部屋を包んだ。

その光は神々しくも、どこか禍々しいものであり、おぞましい何かを感じられた。

光はその部屋を白い世界に変え、彼女は何も見えなくなった。






そして、光が消えると、そこには2人の瓜二つの女が倒れていた。


「…やった。成功だ!」

「これでこいつはもう凡人よ」


分家の者は歓声を上げた。

術は成功したのだ。

倒れていた2人は、先程まで吊るされていた彼女が分裂したものだ。


そして、分家の者は笑みを浮かべながら腰の剣を抜く。


「さて…ではこいつも殺すとしよう」

「当主と同じように…だな」


彼らの発言は、この一族の現状を物語る。

彼らはここに来る前に、当主とその息子たちを惨殺してきた。

それにより、本家は壊滅。

生き残りは彼女だけなのだ。

彼らの狙いは、当主の座の強奪だ。

そのためには、本家の存在は邪魔でしかなかったのだ。



「では…一太刀でおば!!?」



1人が彼女の片方を殺そうとした瞬間、そいつは不可解な声を上げた。



「どうし、あ…」



もう1人がそいつを見ると、そいつの首に穴が空いていた。

そして血を吹き出し、倒れた。



「はぁ!!?」



それを見た者は驚き、その場に倒れた。


「そんな…嘘ば!!?」


スパッ!


倒れこんだやつは、何かを言おうとした瞬間、何者かにより首を裂かれた。



「…なんだ…何が起きてる!!」



取り残された1人は周囲を見渡す。

そして、一点に視線が止まる。



先程まで倒れていたもう1人の彼女がいないのだ。



スパッ!!


それに気づいた瞬間、彼は首から血を吹き出し、殺された。


そしてそこには、もう1人の彼女が立っていた。


彼女の体は返り血で染まり、右手には氷でできた鋭利なものを持っている。

そして、片目は赤く輝いている。


彼女はそのまま、虚空を見つめる。

そしてその瞬間、彼女の脳内に凄まじい情報が流れ込む。


『これで我らの時代だ』


『金も奪えた。もう当主などに興味はない』


『所詮はお人好しで家族思いのやつから死んでいく』


『誠実に生きようとした哀れな人生よのう』


………。


その情報の正体を、彼女はすぐ理解した。

これは、分家の者の感情だ。

感情が何かを通して聞こえてくる。




それを聞いた瞬間、彼女の心には憎悪が芽生えた。




私欲で家族に手をかけた者への恨み。


身勝手な理由で全てを切り捨てる者への呆れ。


人の善意を踏みにじる者への怒り。



そして彼女は、表情一つ変えずに外に出た。






外に出ると、そこにはさらなる惨状があった。

一族の屋敷にて、分家は殺し合いを始めていた。

その情景に、彼女は驚いたものの、すぐに理解した。


『憎い』


『憎い』


『憎い』


『憎い』


『憎い』


『憎い』


彼女の脳内には「憎い」という感情が流れ込んできた。


ふと、近くにあった鏡を拾い、自分の顔を見た。

彼女の左目は赤く光っていた。

そしてこの瞬間、彼女は理解した。

自身の目に異能眼が発言したことを。

そしてそれは、かつて見た本の中にあった眼でもあった。


共鳴眼。

彼女の目に宿った異能眼。

周囲の人間と自身の思考、感覚を共鳴させる。

行動の支配もでき、多少の未来の可能性を見ることもできる。

さらに、共鳴した相手の記憶を改ざんすることもできる。


気づいたときには、分家の者は全滅していた。

どうやら、彼らは彼女の憎悪と共鳴し、無差別な殺し合いを始めたようだ。


彼女はその状況を見て何を思ったのか、地下室に戻った。






地下室に戻ると、彼女はもう1人の自分の前に立った。


「…あなたは…私?…それとも…他人?」


そう言って彼女はしゃがみ、もう1人の自分の額に指を当てる。

そして、こう念じる。


ーあなたの一族は、出家や戦争により血が途絶えた。

そして、あなたはその最後の生き残り。

末裔。

あなたには結界と治癒の才能があり、将来はきっと、治療関連の任につくだろうと思っている。

そして、幸せに暮らすー


このように念を飛ばし、彼女はもう1人の自分の記憶を改ざんした。

そして、もう1人の自分を抱えた彼女はその後、王宮へ行き、もう1人の自分を預け、王宮内にいた人の記憶を改ざんした。

そして彼女は、この国をひたすら周り、一族についての記憶を改ざんし続けた。

すべての国民の改ざんが終わると、彼女は国を出た。

そして、心で唱える。


私はもう…彼女じゃない。

憎悪に囚われた…ただの狂人だ。

私はもう…この世界を愛せない。

もう幸せだった頃の彼女では…




カレラ・パルトではないのだから…




そうして彼女は、姿をくらました。


これは、パルト家が滅びるまでの物語であり、実話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。