112話 憎悪の追憶 1
これは、とある貴族の終わりの話。
その貴族はかつての人族世界の頂点「バルト家」の子孫であり、世界でも名を轟かせる貴族だった。
この一族は代々、魔術の才に恵まれ、家を継ぐ者もいれば、魔術師となる者、さらにはその実力が認められ、魔術師でありながら当主となる者もいた。
そんな貴族の本家に、とある娘がいた。
彼女もまた魔術の才に恵まれていた。
15歳でありながら、魔術は全て王級以上。
勉学も礼儀作法も完璧だった。
それだけならまだしも、彼女は皆が認める人格者であり、「誰にでも優しく接する娘」と言われ、一族内外関係なく好かれた。
本家の者は口々に「次の当主は彼女だ」と言っていた。
そんな彼女の趣味は魔術研究だった。
彼女の魔術愛は人一倍であり、多い時は1日中書斎と自室を行き来しながら魔術を調べた。
「ん〜…やっぱり混合魔術は組み合わせが大事みたいねぇ」
彼女は基本的な魔術から、高難度の魔術、複雑な魔術まで調べ、試し、研究した。
最近は混合魔術に興味があるようで、そればかりを調べている。
「お嬢様。旦那様がお呼びです」
「わかったわ。今行く」
この日、彼女は父に呼ばれ、当主の部屋へ向かう。
部屋には大きな机の上で腕を組む男がいる。
「来たか」
「はい。お呼びでしょうか?父上」
彼はこの貴族の現当主であり、彼女の父である。
父は娘に向けて、言葉を放つ。
「もうすぐ、お前は16となるな」
「はい。3日後に」
「その日に祝いをするのだが…」
父はそこで一呼吸おき、再び言葉を放つ。
「そこで、お前を次期当主として任命しようと思う」
「え!?」
父の言葉に、彼女は驚いた。
「兄様達は?」
「全員『お前が適任だ』ということだ」
「他の分家の皆様の合意は?」
「我が言うことは絶対だから、大丈夫だろう」
それを聞くと、彼女は納得した。
そして、彼女は深く礼をする。
「わかりました。その命、謹んで拝命します」
「うむ。期待しておるぞ」
そう言って、彼女は部屋を去る。
彼女はその後、自室に戻り本を漁る。
というのも、当主となれば仕事が増え、このような作業はできなくなる。
その前に、やれることはやっておこうと考えていた。
「…なにこれ?」
彼女が本を漁っていると、一つの本に目が止まった。
「『バルトの禁術』?」
その本は薄い本で、表紙にはそう書かれていた。
バルトの禁術。
かつて土地を統治していたバルト家が危険な魔術や悪用されやすい魔術、自身の命に関わる魔術を封印したもの。
封印後は、バルト家の消滅時に流出しないように、自身の分家にその禁術を伝え、保管させた。
バルト家の子孫であるこの貴族にも、その魔術はあった。
彼女はその本に興味が湧き、開く。
そこには数個の魔術とその効果、対価が記されている。
それを順番に読んでいく。
「…『魔力体。自身の身体を魔力に変換する。術者が死ぬ可能性あり』…なんか物騒な魔術ばかりね」
彼女はそれを見た瞬間、少し気持ち悪くなった。
しかし、それでも欲求には逆らえず、読み進めた。
「『転送結界。結界内の生物を、印付けられた場所に転送する。対価は術者の命』…避難用かしら?」
そんな感想を抱きつつ、彼女は読み進める。
「『生命分裂。対象の生物を分裂させる。対象は心身ともに2つに別れる』…どういうこと?」
彼女は不思議な気持ちになりながらも、次のページをめくろうとする。
「お嬢様。お食事の用意ができました」
すると、書斎にメイドがやってきた。
「え?もうそんな時間?わかったわ」
そう言うと、彼女は本を閉じ、書斎をあとにした。
食事を取ったあとは風呂に入り、自室に戻った。
彼女は右手で小さく魔術を出しながら、何かを考える。
(私が次期当主か…実感わかないな…)
そう思いながら、彼女は魔術をやめ、寝床につく。
そして、彼女の誕生日はやってくる。
その日は一族の多くのメンバーが集った。
そして、ある程度人が入った頃に、父が言葉を発する。
「え〜。今日は我が娘の16の祝によく集まってくれた。ここで、我から発表がある」
その発言に、会場の全員が視線を向ける。
「4年後、我が娘を当主とすることにした。まだまだ半端だと思うが、どうか支えてやってくれ」
そう言うと、会場は拍手に包まれた。
拍手の中、彼女の兄たちがよってくる。
「これから頼むぞ!」
「兄様…私なんかでいいんですか?」
「お前が適任だろ」
「そうだ。自分を低く見るな。それは、我らを侮辱するに等しいぞ」
そう言って、兄たちは彼女の背中を叩く。
「…わかりました。兄様達の期待に答えてみせます!」
「まぁ、それは4年後の話だがな」
「「「アハハハ!!」」」
こうして、この祝いの場は進行し、ゆっくりと終わっていった。
その日の夜。
彼女は祝の余韻に浸っていた。
彼女は今日で16歳となったわけだが、16歳はこの世の中で重要な意味を持つ。
成人を迎える。
それすなわち「一人前の人間になる」と認められたということ。
彼女はその現実と、これから何をするかで思いを膨らませていた。
パッ!
そんな事を考えていると、彼女が住む屋敷の灯りが全て消えた。
「え?何が?」
彼女は混乱した。
こんなことは、彼女が生きてきた中で一度もなかった。
ガチャッ!
すると、突如として彼女の部屋の扉が開く。
「え?兄様?」
彼女は兄が部屋に来たと思い、呼びかける。
しかし、反応はない。
ドスッ!!
その瞬間、部屋に鈍い音が響く。
その音の直後、彼女は地面に倒れた。
そして彼女は気絶した。




