103話 第二の前線 2
ロードが参戦した後、戦況は変わった。
私とロードは前衛と後衛にわかれ、ロードが2人を攻撃する中、私が援護をする。
一方、ボルトとランサーは持ち前のスピードと連携でロードに攻撃する。
ここで衝撃を受けたのは、ロードの速さだ。
ノーボックスの時から、彼が速いのは知っていた。
けれど、ロードは私の知るスピードよりも速く攻撃を繰り出している。
そしてそれは、2人のスピードを上回っていた。
「…クソッ!」
「なぜ当たらん!?」
2人は困惑していた。
それもそうだ。
ロードはこの戦いでまだ、剣術の奥義、それに準ずる大技を出していないのだ。
つまり、基礎動作や身のこなしの速さだけで2人を圧倒しているのだ。
そして、それによって生まれた隙を、私は見逃さない。
「炎投!!」
ロードの攻撃に怯んだ2人に向かって、私は魔術を放つ。
2人はこれにより、じわじわとダメージが蓄積していった。
「…ッ!!」
ロードの攻撃の中、ランサーは槍に力を込めて、ロードを弾き飛ばした。
そしてロードは、私の横で静止した。
戦況は私達の優勢に見える。
この調子なら…
「ナナ…」
そう考えていると、ロードは小さな声で私に声をかけた。
「なんですか?」
「なんか妙だ」
ロードはそう言った。
妙だ?
何だろうか。
「何がですか?」
「気づかないのか?ボルトの速さだよ」
「速さがどうかしたんですか?」
「さっきから上がり始めてる」
…え?
上がってる?
「上がってるんですか!?」
「あぁ。それも不自然なほどに急上昇してる」
私は気づいていなかった。
ロードが優勢に見えたあの戦いは、実は少し押されていたらしい。
ロードいわく、ランサーは大丈夫だけれど、ボルトはヤバいらしい。
「このままだと…負ける」
ロードはそう言って、私の方を向いた。
「だからナナ…『あれ』をやってくれ」
『あれ』?
『あれ』ってなんだ?
「『あれ』とは?」
「……魔渦災害」
その言葉に、私は目を見開いた。
「え!?あれやるんですか!?でもあれ、他の魔術の呪文詠唱じゃなくて、念願詠唱が必要で、かなり時間かかりますよ!?」
この世界には2つの詠唱が存在する。
一つは「呪文詠唱」。
これは、言語化されていない文字の羅列を詠唱することを言う。
※この作品で「ー・…〜ー〜」のようになっていたもの
もう一つが「念願詠唱」。
これは、言語として成り立つ文節の組み合わせにより作られた詩のようなものを読み上げる。
世間一般的には「呪文詠唱」が普通だが、時々「念願詠唱」も使われる。
「それでもいい。あれなら、速さ関係なくあいつらを仕留められる。だろ…?」
「…時間かかってもいいですか?」
「あぁ。頼む!」
私は少しため息をつきながら、敵に向き直る。
「どうやら、作戦会議は終わったようだな」
2人はこちらの様子をうかがっていた。
「じゃあ頼むぞ!ナナ!!」
そう言って、ロードは2人に駆け出していった。
「周花!!」
そして、ここで初めて、ロードは技を出した。
その速さは凄まじく、目では追えなかった。
「雷一閃・三!!」
「竜槍術・連撃!!」
その攻撃に対し、2人は素早い攻撃を仕掛ける。
その攻撃を見た瞬間、ふとボルトに目がいった。
そこで気づいた。
ボルトの雷のような光が増していたのだ。
そしてそれに気づいた瞬間、ボルトが速くなっている理由に気づいた。
もしかして…雷を蓄積している?
その考えに至ったのは、前に聞いたレオの前世のことだ。
なんでも、レオの前世には、電気を蓄積させる「蓄電」というものと、それを放出する「放電」というものがあったらしい。
何気ない会話ででてきたことだったので忘れていたが、つまりボルトは、それを利用しているのでは?と思った。
…けど、そんなの関係ない。
私は杖を構え、詠唱を始めた。
「聡明な風の民、空に残りし膨大なる風を、我が力に変えよ!…」
「…!?」
「…!?」
私の詠唱を聞き、ボルトとランサーはこちらを見た。
そして、鬼のような形相をして、ロードを無視してこちらに向かってきた。
それもそうだろう。
この「念願詠唱」が使われているのは、オリジナルかつ強力な魔術が多い。
だから、彼らは警戒して向かってくる。
キンッ!!
「行かせねぇよ!!」
だが、その行く手をロードが阻む。
「続けろ!!」
私はロードの指示に従い、詠唱を続ける。
「地を破壊する嵐は天に登り、命を壊し、混沌に落とす。水の神は巡り、崩壊せし地に命を育む…」
キンッ!!
キキンッ!!
辺りにはロードとボルト、ランサーの攻撃の音が響き続ける。
私は何も考えず、ただ唱える。
「偉大なる魔神グロスは、育まれた命を束ね、平和を築く。魔力は天に届き、渦を巻き、雷鳴を轟かせ、地に連なる…」
詠唱の中、杖には膨大な魔力が溜まっていく。
おそらく私の魔力の半分近くだろう。
私は詠唱を続ける。
「すべてを滅ぼす災害よ。我が力の一部として、あらゆる厄災を駆逐し、新たな生命を創生せよ!…」
そして、その言葉を聞いた瞬間、ロードはボルトとランサーを弾き、私の後ろに回ってきた。
「…魔渦災害!!」
その瞬間、私の杖から魔力が解き放たれた。
そして、ボルトとランサーをめがけて、4つの巨大な竜巻が迫っていった。
魔渦災害。
ナナ・L・コンドルの自作魔術にして、「念願詠唱」を取り入れた水・風・火の混合魔術。
巨大な竜巻を発生させて、相手をそれに巻き込み攻撃する広範囲魔術。
その威力は凄まじく、巻き込まれたものはバラバラになってしまうとされている。
2人は咄嗟に逃げようとした。
だが、どんなに素早く動いても、風による引力には逆らえなかった。
2人は身動きが取れなくなっていた。
「…クソッ!たかが魔族2人に…この五槍が…!?」
「クソォォォォォォ!!!」
2人は断末魔を残し、竜巻の中に消えていった。
そして、私の額にピトッっと一滴の赤い雫が飛んできた。
「…相変わらずの威力だな」
それを見て、ロードは少しひいていた。
「あなたがやれって言ったんですよね?」
「あぁ…けどやっぱ見慣れねぇや」
私は魔術を解除して、杖を収納魔術でしまった。
解除したところにはボルトとランサーの姿はなかった。
多分今頃は…
やめておこう。
私もあまり想像したくはない。
だから、あまりこれは使いたくない。
「ともあれ…だな」
「はい…終わりです!」
こうして、この地での戦いは、森を半壊させるという被害を出しながらも、私達の勝利で幕を閉じた。
おまけ話
この世界には電気の概念はあるが、それを利用する習慣はない。
以前の話で「学校のアナウンスシステム」が出てきたが、これは魔力を操って言葉を一定範囲に届ける特殊な魔術で成立しているため、私達の知る電子機器によるアナウンスとは少し違うそうだ。




