95話 槍と翼
竜獣の軍勢を相手にしながら、俺達はひたすらに相手の中心を目指して進んでいた。
その時のことだった。
『ーー・〜ー…〜・ー』
「!?」
俺の脳内に、突如として何かが引っかかった。
念話の感覚にも似ていたが、それは音とも声とも言えない、曖昧で不気味なものだった。
ズキンッ!
それを感じた直後、俺の頭には鈍い痛みが走り、段々と体に力が抜けていった。
その末、俺は脱力しきってしまい、うめき声を出しながら膝をついて座り込んでしまった。
「先生!?」
マズい。
ここは軍勢のど真ん中だ。
ここで俺が倒れれば、竜獣にリンチにされて終わりだ。
立て!
立て!
立て!
立て!
立て!!
しかし、予想外のことが起きた。
異変が起きたのは、俺だけではなかったのだ。
「先生…竜獣の動きが止まりました」
なんと、俺の周りにいた竜獣…いや、戦場にいた全ての竜獣が動きを止めたのだ。
そして、奴らは全員虚空を見つめ、何もしない。
まるで、何かの合図を待つかのように、微動だにしない。
そして、その光景を見た俺は、説明できない違和感を感じたのと同時に、不気味な既視感を感じた。
この事象自体は見たことはない。
しかし、症状一つ一つは、何か既視感を感じるものがあった。
「…ッ!」
俺は立ち上がった。
よろめきつつも、立ち上がった。
そして、剣を構えた。
「せ、先生?」
「…大丈夫だ。今の状況は?竜獣達はどうなってるんだ?」
「そ、それが…」
ラーラは俺に状況の説明を始めた。
説明を聞いていると、奴らはまるで廃人になったかのように固まり、切っても反応しないらしい。
俺は周囲を警戒しながら、一体の竜獣に近づき、目を見た。
奴らの目には空が写っていた。
雨が降り、暗くなった空を見ていた。
不気味なのは、そこから生気を感じられなかったことだ。
瞳孔は開いていないが、まるで死体のようだ。
そんな中、
「あぁぁぁぁぁ…」
一体の竜獣が動き始めた。
何だ?
急に臨戦態勢になったのか?
そう思っていると。
「…槍と翼の化身よ…」
そう呟きながら、竜獣は後ろへ後退していった。
すると、それに続くように他の竜獣も動き始め、後退していった。
「何かの準備ですか?」
「わからん。しかし、何かをやろうとしているのは確かだ」
「どうしますか?」
「…一旦臨戦態勢を保っておこう」
俺は全体に向かって指示を出そうとした。
その時だった。
ズドーーン!
俺達の後方、最後尾の分隊がいた方向から凄まじい音が聞こえた。
そして、複数の叫び声が聞こえた。
おそらく、最後尾にいた分隊のメンバーだろう。
「敵襲!敵襲!!」
そのうち、後ろから「敵襲」の掛け声が聞こえた。
いや。
掛け声ではなく伝達だ。
敵襲。
だが妙だ。
竜獣の軍勢は現在、奥の方へ集まっている。
あそこまで吹っ飛ばせるほどの戦力は集まっていないはずだ。
「…ッ」
俺は飛行魔術を使い、空中に上がった。
そこには、とんでもない光景が広がっていた。
「なんだ…これは…」
俺の目には、半径500メートルほどのクレーターができていた。
よく見ると、そのクレーターには所々に血痕が残っていた。
おそらく、そこにいた分隊のものだろう。
『先生!』
すると、ラーラから念話が飛んできた。
『状況は?』
『ベール分隊が壊滅!他分隊にも死傷者多数!』
俺はそれを聞いてかなり心にきた。
しかし、それをかき消す情報が入った。
『敵戦力は1名です』
………。
…は?
『1名だと?』
そう聞くと、ラーラは答えた。
『はい…信じられないかもしれませんが、1名に壊滅されました』
俺はそれを聞いて、これまで感じたことのない感情をいだいた。
恐怖に近いが、また違う。
絶望に近い。
が、同時に俺は思った
〜動かなければ…〜
『ラーラ。全分隊を一箇所に集めて竜獣の軍勢を迎え撃て』
『分かりました!先生は?』
『俺は現場に向かう』
『現場って…え!?まさかあのくぼみに!?』
『行くしかないだろう』
『…分かりました。何かあったらすぐ伝えてください』
俺はラーラに現場を任せ、クレーターに向かった。
俺がクレーターのもとに着くと、そこには1体の竜獣がいた。
「ほう…来たか」
その竜獣は他の竜獣と違い、言葉が通じるようだった。
「お前か。こんなことにしたのは」
「こんなこと?それはどういうことかな?」
お前にこいつ…かなり面倒くさいタイプだ。
「…俺はレオリオス・パルト。この前線の指揮をしている」
「なるほど、名乗るか」
「お前はなんだ?」
「俺ね…俺は竜獣王直属『双翼』が1人『右翼のロン・アイアンド』」
俺はその名前を聞いた途端、ドーラ師匠との話を思い出した。
それは、俺が旅から帰ってきた後、報告会が終わってからのことだ。
「竜獣には、7体の精鋭がいる」
「7体ですか?」
俺は報告会の後、ドーラ師匠と竜獣について話していた。
その時に出てきた内容だ。
「竜獣王の下には直属の戦士が2名いる。そいつらは『双翼』と呼ばれ、王以外で唯一の戦略決定権を持つ」
「なるほど」
「そして、その下にさらに5体、『五槍』と呼ばれる奴らがいる。奴らは双翼を除く戦士の中から選ばれた精鋭だ」
なるほど。
つまり…どういうことだ?
「そいつらと戦うとならば、集団戦は避けろ」
え?1人でやれと?
「どうしてですか?」
「奴らは実力や得意不得意は様々だが、共通して『魔力自爆』という技を持つ。それは、半径数百メートルを魔力の爆発で吹き飛ばす技だ。自爆に近いため多用はしないが、打たれたら大半の戦力を失うだろう」
「…分かりました。覚えておきます」
俺はこの状況や奴の発言を聞き、事の状況を理解した。
つまり、このクレーターの正体は「魔力自爆」だということだ。
そして、こいつがおそらくあの軍勢のリーダーだ。
王が出てくるとは考えづらいから、おそらくそうだろう。
「お前らの目的はなんだ!」
俺は相手に向かって、質問をぶつけた。
「統一」
「なぜ今攻めてきた!」
「王の意向など知らん」
やつは、ロンは淡々と答えた。
そして、構えを取り始めた。
「さぁ。話は終わりだ」
俺はその言葉を聞き、杖を出した。
「殺し合いといこうではないか」
俺の戦場は、こうして苛烈を極めるのであった。




