善と悪
目の前に浮かぶステータスの文字を見て、呆然とする。
すると、倒れていた近衛が近づいてきて背後から俺のステータスを覗き込むように見た。
「えっ!なにこれ!」
「…ステータス画面だ。さっきのを倒したらレベルが上がってこれを使えるようになった…らしい」
「さっきのって、このゾンビ?」
「あぁ、ゾンビかどうかは分からないけど…近衛は大丈夫か?気分とか、体調とか…」
「うん、気分は正直良くないけど大丈夫。助けてくれてありがとね」
にこりと笑ってお礼を言ってくる近衛。
こんな状況なのに、よく笑っていられるな。
側で倒れているゾンビ…いや、コイツは明らかにうちの学校の生徒だ。
制服もそうだが、この顔には見覚えがあった。
しかし、なぜこんな姿に?
何かに殺されてこのような姿になったとしたら、一体この学校にどれだけコイツと同じようなゾンビがいるのだろう。
「とにかく体育館に行ってみるか」
「雪乃たち大丈夫かな…」
心配そうに呟く近衛。
最悪、ギャル仲間たちもコイツと同じように…。
いや、よそう。
マイナスな考えは今は必要ない。
ステータスやスキルについても後で考えよう。
一刻も早く体育館に避難したい。
俺もだいぶ疲労が溜まっている…。
小さな息をフッと吐いてから、持っていた棒を握りしめて保健室を後にした。
*
同時刻、体育館にて。
「唐木!生徒達はどのくらいいる?」
「鳥山先生、70パーセント程が体育館に集まってます。残りはおそらく…」
悔しそうな表情で言葉を詰まらせるのは、生徒会副会長の唐木鉄平だ。
その顔を見て体育教師の鳥山海はなんとなく理解した。
残りの30パーセントは恐らく、あの化け物に襲われて亡くなったのだろう。
そして亡くなった生徒達は今、ゾンビとなって他の生徒を襲っている。
「あ、あの!」
「ん?」
鉄平に声をかけてきたのは、数人のギャルだった。
その中の茶髪の少女が瞳に涙を溜めながら鉄平の腕にしがみついた。
近衛色葉の幼馴染み、宮代雪乃だ。
「い、色葉は!近衛色葉はこの体育館にいますか!?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。今調べるよ」
鉄平は涙ぐむ雪乃をなだめると、ポケットに入れていたメモ帳を取り出した。
この体育館に逃げ込んだ生徒と教師の名前がズラリと並んでいる。
「近衛…近衛……ごめん、どうやら体育館には来てないみたいだ」
「そんなっ!そ、それじゃあ雲雀会長はいますか!?あの人なら色葉の居場所を…」
「残念だけど、会長もここにはいない」
鉄平はなにかを耐えるように真顔でそう告げた。
今まで生徒会長の隣には副会長の自分がいた。
いつも同じ場所で、同じ時間を過ごしてきた。
鉄平は己の行動を悔やんでいた。
あの時、下級生の喧嘩を仲裁に行くと教室を出て行った麗花をなぜ追いかけなかったのか。
悔やんでも悔やみきれない。
「色葉ぁ…うぅ…」
とめどなく溢れる涙を止めることなく、その場でへたり込む雪乃にギャル仲間達が慰めの言葉をかける。
もちろん皆悲しいのは事実だが、付き合いが圧倒的に長い雪乃が一番心にダメージを負っているのは間違いなかった。
そんな雪乃を見て、鉄平もまたうちから湧いてくる悔しさと悲しさで拳に力が入った。
「悲しいのは分かるけど、今はそう悲観してる場合じゃない。現状が最悪なのは間違いないけど、この状況をなんとかしなくちゃいけない。力を貸してくれ唐木」
「はい…会長がいない今、俺には代表として生徒をまとめ、守る義務があります。なんとしてでもこの状況を打開しましょう、先生!」
「あぁ、ありがとう唐木」
手を握り合う二人、互いにこれからのことを考えての行動だった。
しかし、必ずしも他人の為に動くのが人間ではない。
時には欺くことも必要なのだと、汚い大人は純粋な少年をいとも容易くダマしたのだ。
鳥山海の歪んだ笑みに気付く者は誰一人としていなかった。
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