↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑夢童話~三人の木偶娘~  作者: 阿礼 泣素
PR
36/37

青き血汐と緑の沙漠‐④

言われるがままに進む二人、これがもしも罠だったらここでこの話は終了し、地球は緑の惑星となっていただろう。だが、晒菜達が進んだ先で見たものは……

「あなたが……」


玉座に鎮座する一人の人間がいた。それこそまさに紛れもない、GSS計画推進グループ、通称「緑威」のトップ大鋸婁火也であった。


「生きているのか?」


晒菜がふとそう言った。だが、その発言をしてしまうことに関しては無理もないと言わざるを得ない。


と言うのも、大鋸はすっかり緑化してしまっていたからだ。体の皮膚が完全に葉緑体を持つ葉っぱのように緑に染まってしまっていた。かつて雄山院長がそうなってしまっていたように、ピクリとも動かずにそこに居座っている大鋸。


突然背後のモニターが動いた。そしてそこから音声とともに字幕が映し出された。


「ようこそ、二人とも。私は大鋸婁火也だ。聞いているかもしれないが、雄山火口の友人だ。君達をここへ招いたのは、今から説明するGSS計画について賛同してもらうためだ」


「貴様の話などッ!」


三改木が反論したが、晒菜が止めた。


「いや、話を聞きましょう。もしもこの人に殺意があるならとっくに攻撃を仕掛けているはずです。なにか伝えたいことがあるんでしょう」


「理解してもらえて助かるよ、それじゃあ早速話をさせてもらうと、まず、君達は緑の人間について考えたことがあるかい?」


「緑の人間?」


「そうだ、緑の人間だ。葉っぱのように皮膚の中にクロロフィルを含んだ人間のことだ。今君達の目の前にいる人間のことだと思ってくれて構わない」


「その緑の人間がどうかしたんですか?」


「緑の人間になることで、人類にどんな利点があると思う? 答えはいくつかあるが、やはり一番大きいのは食事の必要がなくなるということだ。植物が細胞の中に葉緑素、つまりはクロロフィルを持っている理由は分かるかい? 葉緑素で太陽の光を吸収し、その物理的なエネルギーを生命活動に必要な化学的なエネルギーに変換するためだ。つまりは光合成って言うやつだ。そのおかげで植物は食事をする必要はない。だが、我々動物は植物のように太陽エネルギーを化学エネルギーに変換する能力はない、だから食事をして生きるためのエネルギーを補給している」


「食事をする必要がなくなる……」


「そうだ、今のように他の生物を殺して食べることをしなくてすむんだ。そうなれば、食料を原因とした争いがなくなり、餓死者なんてものはこの世からなくなる。飢えることがなくなれば醜い争いをすることなく、人間の精神は今より高次なものへと変貌することとなるだろう。また、食料の生産のために使用していた施設や土地が不要となることで人々の居住空間が広がるということにも繋がってくる。どうだ、人類が緑の人間になるだけで、こんなにも素晴らしいことになるんだ。GSS計画がいかに最高の計画かどうか理解してもらえただろうか?」


「…………」


晒菜の正義がぐらぐらと音を立てて揺らぎ出した。この話を聞くと、一体どこに問題点があるのだろうと思えてくる。今まで何のために戦ってきたんだ、俺の戦いは無意味だったんじゃないか、もしかして、自分こそが人類の敵であり、悪役であったのではないか、なんていう後ろ向きな思考が晒菜の頭の中をぐるぐると回りだした。


それに真っ先に抗ったのが三改木だった。


「詭弁だ! 貴様は詭弁を弄しているにすぎない! そんなに素晴らしい計画なら何故雄山院長は反対したんだ! わざわざ私のような人造人間まで作り出して! その理由がきっとあるはずだ! きっと!」


「雄山院長はおそらく緑化による緑人化の影響について危惧していたんだろう。君達も町で緑の巨人が暴れているのを見たことだろう。あれは、もとは我々と同じ人間だ、人類が緑化するにはある程度の適応能力が求められる。だが遺伝子的にその適応能力がないものもいる。その適応能力がないものはユーグレナに浸食されてしまい、あのような醜い姿になってしまうということだ。だがそれが起こるケースは稀だ、気にするほどのことでもない」


まさかあれが同じ人間だったなんて……


晒菜にさらに絶望が襲いかかってきた。自分が今までやってきたことに対しての自信がどんどんなくなってきた。


「本当にそれだけか? 私にはそれだけが理由だとは思えない……」


「君はどうしても納得してくれないようだね、だけど、隣の彼は私の計画に賛同してくれたようだ」


「…………」


「まさか、そんな升麻君! そんなことないだろう!」


晒菜は必死に考えていた、これまでのことを。


色々あった……そして色々考えた……


一呼吸おいて、目を閉じたまま晒菜は静かに言った。


「僕が間違っていました、大鋸さん。僕はあなたのおかげで本当のことに気がつくことが出来ました」


「な、何を言っているんだ升麻君!」


「僕は小さいころからずっと病院で過ごしてきました。そのせいか、ずっと昔に外の世界について考えることをやめました。そうやって過ごしているうちに突如現れたのが、このユーグレナと呼ばれる緑の物質です。僕はこのおかげで、外の世界に出てみたい! という欲求が生まれました。このおかげで僕は変わったんです。僕はあなたのおかげで植物から動物になれたってことです。


たしかに大鋸さんの言うとおり人類が皆緑化して植物人間となれば世界の食料問題は解決され、争いもなくなるでしょう。しかし、そうやって生きてゆくためには太陽の光にあたってさえいれば良いということになります。そうなれば次第に人間は活動を停止し、植物のように体を動かさない方向に変わってゆくことでしょう。


大鋸さん、それが人間のあるべき姿と言えるんでしょうか? それが正しい進化だと言えるんでしょうか? 答えはもちろんノーです。僕は今まで植物のように病室に根っこをはやしたまんま一歩も動こうとしませんでした。


だけどやっぱりそれじゃあダメなんです。人間は植物とは違う。考えることが出来る。だから、人間は考え続けないといけないんです。生命活動を維持しているだけでは本当に生きているなんて言えないんです!


だから僕は一生このままでいい!


人類皆が緑になっても、僕は普通の人間であり続けたい。


そう強く思うんです」


「――僕たちは植物じゃない、人間なんです!」


晒菜は意気揚々と言い放った。



次回は9月1日(金)7時更新です☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。