青き血汐と緑の沙漠‐①
森の中のそのまた奥の、シュバルツバルトと呼ばれるその場所へ、碧血少年、晒菜は全速力で駈け出していた……
――晒菜が眠りから覚める一時間前……
轟々と鳴り響く雨音を聞いた三改木は外の様子が気になってふと外に出た。そしてその時異変に気がついた。
「!?」
三改木は急いで晒菜を起こして敵地に向かわねば!そんな気持ちでいっぱいだった。予定を早めてでもやつらの基地に攻め込まねば!
そう強く意気込んでいた。だが結局のところそうしなかったのは、この雨と一緒に紛れてやってきた、一枚の短い書状であった。
内容は……
三改木森羅殿
シュバルツバルトで待つ。
必ず一人で来い。
樅木 別葉
どう考えても果たし状のそれであった。三改木は義理や人情そして形式や儀礼を重んじる侍のような気質の持ち主であった。だからたとえ敵といえどこのように言われてしまっては従うほかなかった。武士道に反することはしないという彼女の信条のもと、これに従うほかなかった。
と言っても正直なところ、先の戦闘で相手の頭蓋を刀で貫くなどというオーバーキルっぷりをみせている所からもわかるように、信条云々は彼女の気分に依存するとこともあるので、ここで一人で敵地に乗り込んだことに対してはやはり三改木の気が変わったということで説明がつくのかもしれない。
とりあえず、その三改木の心境の変化の考察はひとまず置いておいたとして、ここで重要なのは、結果として晒菜を置いたまま単騎で行ってしまったということである。ここでもし三改木がこれは罠だという考えに至りさえすれば、ここからの展開はありえなかったはずだしこれから起こりうる災難は回避できたはずである。
だが、三改木は行ってしまった――一人で、単身で、単騎で。
――そんなこんなでで最終決戦一回戦は晒菜達が非常に不利な状況で開幕されることとなった……
「やっと着いた……」
晒菜が着いたのは森の中のそのまた奥の森、シュバルツバルトである。森の奥に進むにつれて木の色がどんどん黒ずんでいくのが分かった。また、ただ見てくれが変わってゆくだけというわけでもなく、言葉ではうまく言い表せない不気味さが奥へ進むたびに増してきていた。
「森羅さん、一体どこに……」
「しょ……ま……ん……」
かすかな声が晒菜の耳に届いた。
「森羅さん! 森羅さんですよね! 今行きます!」
草をかき分けて晒菜がたどり着いたその先には三改木の姿があった。だがその姿はぼろぼろで、大きな木の幹に張り付けの状態にされていた。晒菜は三改木が何者かに負けたのだということを悟った。
「ぐっ……」
三改木は敵から受けたであろう傷が痛むのか、悲痛な面持ちだった。
「今そっちに……」
そう言って晒菜が三改木の方に向かおうとした瞬間、その時だった。
「また会ったわね……化け物!」
その手にはギラリと光る大きなハサミ、所属、その名は樅木別葉。
「あの時の……」
「あら、覚えててくれたの? なーんてお決まりのセリフを言うことはしたくはないんだけど、久しぶりね、化け物」
手に持っている大きなハサミをチョキチョキしながらにこりともせずに、樅木はそう言った。
「まさか、なにもかも私のシナリオ通りにいくなんてね。この女は一人でのこのこやってくるし、あなたもここにやってきた。もう願ったり叶ったりね」
「あの時はお世話になりました。そして、三改木さんがどうもお世話をかけました。このお返しは今からさせてもらいますね、樅木さん!」
「――碧血解放!」
精いっぱいの皮肉を言ってみる晒菜ではあったが、内心はおびえていた。三改木を凌駕したその力、恐れないわけにはいかなかった。
「さあ、愚者のパレードの始まりよ!」
樅木がそう言うと、周りの黒々とした木々がざわめきだした。そして、その葉っぱの一枚一枚にまるで意志があるかのように動き出し、あろうことかその葉っぱが晒菜の方に向かってきた。
「……ッ!?」
晒菜の体は切り刻まれた。正確には切り刻まれそうになった。幸い晒菜の装着していたパワードスーツのおかげで木の葉で木っ端みじんになることは避けられた。
「厄介な服のせいで効果が薄いわね」
樅木は調子を狂わされたと言わんばかりに不満な表情で顔を歪めたが、すぐに元に戻り言い放った。
「まあどうせ勝つのは私だし」
樅木にはこのフィールドで戦うことに絶対的な自信があるようだった。ここでなら自分が負けるわけがない。三改木だって手を煩うことなく難なく倒すことが出来たのだ、必ず勝つに決まっている。
――その自信こそがこの戦いの勝敗を決定的なものにしてしまった。
――その油断こそがこの戦いにおいて樅木を敗北へと導いてしまった。
樅木がここの葉っぱ全てを操ることに固執してしまう結果となったのを誰も咎めることは出来ない。誰だって使えるもの、なおかつ使いやすいものは使うに決まっている。普通ならばそれで良かった。
次回は8月29日(火)7時更新です☆




