疾風怒濤、繰り返される戦い‐③
「またか……」
さっきまで木々が生い茂っていたはずなのに、気がつけば無機質な鉄壁ばかりになっていた。
「升麻じゃないですか! こんなところで何やってるんですか?」
晒菜の名前を呼び捨てで呼ぶ人間はこの世で一人しかいない。いや、一人しかいなかった……
――二目木林檎。
――晒菜が二番目に出会った少女。
――晒菜が救えなかった少女。
その無二なる姿がそこにはあった……
「ここはもしかして天国なのか? さっきから懐かしい顔ぶれが次から次へと……」
一寸木だけではなく、二目木ももうこの世には存在しない。木っ端微塵に跡形なく消え去ってしまったはずである。
「天国……ですか。確かにそうかもしれませんね。ここは疑似戦闘空間、雄山院長が升麻のためにつくったものです。晒菜がGSS計画推進グループ、『緑威』に対抗出来るような力を手にするためのものです。晒菜はここで戦うことで最初よりも幾分か戦闘スキルが向上しているはずですよ。そして何故私が升麻のことを知っているかと言うと、一度この午時花病院に帰ってきたときにアップデートをしていたからです。だからここにいる私は升麻と一緒に過ごした思い出があるってことです」
丁寧にこの空間について説明してくれる二目木。説明ならもっと早くにして欲しかったものだが……
「とにもかくにも、ここまで来たってことは一寸木木呂子を殺してきたってことですね……」
二目木はきまりの悪そうな面持ちだった。それに対して、晒菜は黙って頷いた。
「やっぱりですか……まあ、ここにたどり着いたってことはそういうことですからね……
もう気づいてるかもですが、升麻には青い血がある。升麻にはその血があるんです。その血を自分の体内に吸収することで、身体能力が飛躍的にアップする、『碧血解放』と呼ばれる能力があるんです」
「碧血解放……」
自分にそんな能力があったなんて……晒菜は何度かその能力を実際に使っていたわけだが今改めて聞かされるとなんだか嘘のようで信じることは出来なかった。
「逆にいえば、升麻にはそれしかありません。私みたいにロケットパンチがあるってわけではないんです。ちょこっとだけ体が強くなるってだけのことです」
「だからその能力を最大限に発揮できるようにここで特訓しないとってわけですよ。
――分かりましたか? 升麻」
二目木は晒菜にそう告げた。晒菜はそのことについては重々承知していた。このままじゃいけない、なんとしてでも力を……晒菜は焦っていた。
「林檎! 早速始めよう!」
晒菜は手にした刃を林檎の喉元めがけて突き出した。晒菜にもう迷いはなかった。これはただのデータ、本当の林檎ではない。そう、これは偽物……
「わわあ、いきなり何するんですか! 少し見ないうちに、ずいぶん血気盛んになりましたね! 刺すときは自分からって親から習わなかったんですか?」
「ならっとらんぐはッ!」
ひらりと晒菜の攻撃を回避した二目木は晒菜にカウンターパンチを入れた。
「まあまあ、焦る気持ちは分かりますけどもうちょっと私の話を聞いてくださいよ。人の話を聞かない男の子はモテませんよ」
やはり素の状態の晒菜と二目木では歴然とした力の差があった。だから晒菜は大人しく二目木の話に耳を傾けることにした。
「升麻はまずこの能力の限界を知るべきなんです。この能力は自分の血を削って繰り出す技です。そして、削った血の分だけ自分の力になる。なので、自分の血の量がいったいどのくらいあるのか、そして自分がどのくらい血を失えば死んでしまうのか、そのことについてしっかりと学ぶべきなんです。それを晒菜は知っていますか? 自分の限界量を知っていますか?」
そんなこと考えたこともなかった……正直少しの血であれだけ身体能力が上がっていたから気がつかなかったが、どうやら二目木によれば、あの青い血は飲めば飲むほどより多くの力を引き出せるらしい……でも、人間の血の量ってのは体重の何分の一だっけ……そのうちのいくら失ったらやばいんだっけ……
考え込む晒菜に構うことなく二目木は言った。
「まあ、堅い話は嫌いなのでテキトーに調べちゃいましょう」
――ザクリ。
晒菜が一寸木を突き刺した時のように二目木が晒菜を突き刺した。
ああ、一寸木さんもこんなに痛かったんだなあ……
晒菜はつくづくそう感じた。胸を抉られる痛み、刺される側になって分かるこの痛み。こんなにも痛かったんだ……
それを体全身で感じながら、晒菜は自分の胸からドバドバと湧き出る血液をしみじみと眺めていた。
意識が薄れていく。
ああ、これで死ぬんだ……出血が致死量に達するんだ……
バタリと晒菜が倒れるか倒れないかと言うところで、二目木が叫んだ。
「しょうま! これが限界ですよ!
」
プツリと晒菜の意識はそこで完全に途切れた……
「……ってわかるか!」
何事もなかったかのようにリセットされた晒菜は二目木との再開早々に突っ込みを入れた。
「え? じゃあもう一回いっときますか?」
――グサリ。
「そう気楽に殺すなああああ!!」
晒菜の胸が再び大洪水になった。足もとに血だまりが出来るくらいに出血している。なんてことだ、回復早々またリセットかよ……
「ここです!」
二目木はそう言って晒菜の胸にピタリと手を当てた。するとどうだろう。晒菜の傷口がきれいさっぱりなくなっている。
「そういや林檎はそうやって俺の傷をふさいでくれるんだったな……」
これはおそらく雄山院長が二目木に与えた特殊能力なのだろう。そのことが今になってようやく分かった。
「そうです、私はか弱いヒーラーです。戦いの最中では後ろから仲間の支援をすることしかできない儚い存在なんですよ……防御が低くて格闘値も皆無、前に出てしまったが最期、敵キャラにフルボッコの可哀そうな存在なんですよおお……」
二目木はそう言って全力でか弱い乙女アピールをしてきた。
「っていってもあの緑人を一突きだったじゃないか……」
「えー? そんなことあるわけないじゃないですかあ。私はそんなことできないですよおお……」
しらばっくれてやがる……二目木のこのめんどくささも疑似空間だろうと健在だった。
「まあ、なんにせよ晒菜はここまで出血しても平気なんですよ。分かりましたか?」
分かりましたかと言われても正直なんとなくでしかなかった。結局は詳しくは分からなかったわけだし、やはり感覚に頼るところが大きくなりそうだ。
「もしかして、これで俺は晴れてこの空間での修業を終えたってことか?」
本当のことを言えばこれは願望だった。正直なところ、まさか本当に修行が終わるなんて思ってなかった。これで終わってくれればいいなあなんて思っていただけ。どうせまた、このいやな殺し合いゲームを始めないといけないんだろうなあ、林檎と死闘を繰り広げることになるなんてまっぴらだけどやっぱり避けては通れないんだろうなあ。……なんて思ってた。
――だが、結果は晒菜の予想に反した。そして、結果は願望通りの展開となった。
ここでこの疑似空間での修業は終了した。まあ、終了と言っても強制終了だ。断絶といってもいい。空間が歪むという動作を挟むこともなく、まるでテレビの電源を切ったときのように瞬く間に世界が黒で満たされた。
「りんごッ!」
晒菜の声が二目木に届くことはなかった。なぜなら、気がついた時にはもう晒菜は現実の世界に生還していたからだ。
「晒菜君! 敵襲だ!」
おそらく三改木によってヘルメットを無理やり脱がされたのだろう。だから向こうの世界の断絶が起こってこちらに強制送還されたわけだ。
「さあ、こっちだ!」
三改木は晒菜の手を引っ張った。晒菜には何が何だか分からなかった。突然戻って、突然敵が来た。晒菜は即座にこの現実世界への適応を強いられた。
「こ……これは……」
三改木に手を引かれ、晒菜がたどり着いた先に見たものは……
――パワードスーツ!?
次回は8月25日(木)7時更新です☆




