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緑夢童話~三人の木偶娘~  作者: 阿礼 泣素
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疾風怒濤、繰り返される戦い‐②

「威勢のいいこと言うもんだからもうちょっとやるもんだと思ってたけど、期待はずれね。こんなんじゃ、必死に戦ったところで、必ず死ぬわ。

――だから今、死ね!」


晒菜は一寸木の手で心臓を一突きされた。比喩表現でもなんでもなく一寸木の右の手で急所を貫かれた。無情にも晒菜は絶命した。


だが、晒菜はまだ生きている!


「……良かったぜ。また俺はリセットされたんだな」


この空間特有の事象に晒菜は救われた。そして、目の前には相も変わらず一寸木木呂子が佇んでいた。


「まったくどれだけ待たせるのよ。再構築って案外時間がかかるものなのね……次からは生殺しにするわ」


一寸木のその澄ました顔を見て、晒菜はまた己の血を口に含んだまま突進した。


「晒菜君は学習をするべきね。このままじゃ勝負にならないということに気が付くべきだわ」


赤子の手をひねるように晒菜を跳ね返す。晒菜の勢いが完全に喪失する。


「ぐッ……」


その後も何度も突貫したものの、晒菜は一寸木に攻撃することはおろか、触れることすら出来なかった。


「本当に私を殺す気でかかってきているの?」


素直な感想だった。実際に本気でかかってきているのか分からないような頼りない軽々しい攻撃だった。きっとこのままではきっと晒菜は直ぐにやられてしまうだろう。


そう考えた一寸木がとった行動は……


「……え!?」


「何をしてるんですか! 一寸木さん!」


晒菜は力いっぱい叫んだ。それもそのはず、一寸木は自らの腕を引きちぎった。ブチブチとなにかいろいろな筋の切れる音がする。あまりにも突拍子もないこの一寸木の行動をみて晒菜は純粋に戦慄した。


「どれもこれも晒菜君が悪いんだよ。晒菜君があまりにも弱いから……」


ハンデはこのくらいでいいかな?と言わんばかりの余裕の表情を晒菜に投げかける一寸木。晒菜は自分のプライドを踏みにじられたような思いでいっぱいだった。


「これで負けても言い訳は無しですからね!」


「いいわよ。負けないもの」


無表情で一寸木は言った。相当な自信だった。この自信を、この余裕を、どうにかしてやりたい……どうにかして一泡吹かせてやるんだ。という思いが晒菜を支配した。気分が高揚し、血の気が多くなってきている晒菜の動きは先ほどと見違えるものとなった。


「ふーん、やればできるじゃない」


それでもやはり一寸木は悠々とした態度である。どうにかしてこの一寸木を唸らせたい。どうにかして一寸木に認めてもらいたい。晒菜はその一心で一寸木に立ち向かった。


「相手を良く見て、相手の行動を先読みするのよ。そうやって先手を取り続けていれば引けをとることはないわ。防御に徹してしまえば、いずれ負ける。常に前を向いて、前進し続ける。これが重要なのよ」

晒菜の攻撃を避けながら、一寸木は語る。晒菜は無我夢中、がむしゃらに一寸木の喉元めがけてナイフを振るう。


刺してはかわされ刺してはかわされ、晒菜と一寸木はまるでじゃれている子猫のようだった。


それを晒菜と一寸木は延々と繰り返した


――このままじゃ埒が明かない。


そう考えた矢先、チャンスは巡ってきた。一寸木が晒菜に向けて拳を向けた時、ほんの一瞬、コンマゼロいくつかの世界。おそらく彼女の刹那的な油断だっただろう。だが、それを晒菜は見のがさなかった。


――ザクリ。


本当のことを言えば無音だったのだが、晒菜にははっきりと一寸木を突き刺した感覚とともにこの効果音が耳に聞こえた。一寸木に攻撃が通った、その揺るぎない事実だけがそこにはあった。


「ったく、晒菜君ったら……恩を仇で返すのね……」


「それは言ったって仕方ないじゃないですか……一寸木さんにこんなことをするなんて…一寸木さんに刃を向けないといけないなんて……僕は……僕は……」


晒菜の手は震えていた。だが、しっかりとその刃は一寸木の胸に突き刺さっていた。一寸木の服がじんわりと血で汚れていく……


「ごめんなさい、一寸木さん……ほんとうにごめんなさい……」


「何そんな顔してるのよ……この私を倒したのよ、自信を持ちなさい。あなたはこんなところでいつまでも足踏みしてちゃいけないの……」


一寸木はかすれた声で晒菜に伝えた。そして……


「私からのお願い……晒菜君……


――あなたは……私の分まで生きて!」


一寸木はそのまま晒菜の唇にキスをした。晒菜は初めてのことでびっくりしてそこから動くことが出来なかった。


晒菜はこらえきれずに泣き出してしまった。まさか遺言を二度も聞くことになるなんて……そして、また一寸木の死に立ち会わなければならないなんて……


「本当のことなら、あの時僕が……あの時一寸木さんを守るべきだったのに……」


後悔してもしきれない、やむにやまれぬ気持ちでいっぱいだった……




一寸木の死を悼む暇もなく、また目の前の景色が歪みだす。漆黒の世界が再び晒菜を襲う。


「またか……」


さっきまで木々が生い茂っていたはずなのに、気がつけば無機質な鉄壁ばかりになっていた。



次回は8月24日(木)7時更新です☆

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