疾風怒濤、繰り返される戦い‐①
これを、自分が……
やはりそう考えるとわくわくせずにはいられなかった。
晒菜は切り傷のある方の手をしばらく不思議そうに見つめていた……
緑人が倒れてからしばらくたった後、疑似空間に新たな変化が起こった。
「な……」
緑人が出てきたときのように目の前の景色が歪みだす。目の前だけではない。この空間自体が歪みだした。晒菜は突然のこの現象に慌てふためく。
大草原だった景色が、一瞬のうちに真っ黒になった。空の青、草の緑、そんなもの最初からなかったと言わんばかりに一瞬のうちに世界は色を失った。
漆黒の闇が晒菜を包み、物音一つしない静寂となった。晒菜はもうもとの世界には戻れないのではないか、この空間に幽閉されてしまったのではないか、という不安に駆られた。
――だがその心配は無用だった。
視界が明るくなったかと思えば、そこに広がるのは郁郁青青と茂った木々だった。
「元の世界ではない……よな?」
外の世界も緑の世界だったこともあって、晒菜は現実との区別が出来なかった。
「!?」
晒菜は背後になにか気配を感じた。晒菜が振り向くとそこには…
「……木」
木と言っても周りにあるような木々とは比べ物にならないほど大きな木だ。
見あげてもてっぺんが見えない。何メートルあるんだろう……
それほどのスケールの大木が、そこにはそびえたっていた。凛として君臨する大樹、晒菜はこれをみて現実世界ではないことを確信した。
「はじめまして……」
いきなり声が聞こえた。というか話しかけられた。
――晒菜はそれを聞いて動揺を隠せなかった。
まさかこの木が話しかけてきたのだろうかと一瞬錯覚したものの、声は後ろから聞こえていた。
そして晒菜が動揺した理由はこのことによるのではない。というのもこの声が聞き覚えのあるものだったからである。晒菜はこの声の主を知っている……
振り向くと、やっぱりそこには晒菜の想像通りの人物が立っていた。晒菜はその人物の顔を見るなり泣き出してしまった……
――一寸木木呂子。
――晒菜が一番目に出会った少女。
――晒菜が救えなかった少女。
その唯一なる姿がそこにはあった……
「はじめまして!私は一寸木 木呂子。一寸法師の一寸に木曜日の木でますき。木呂子はまあ、多分今頭の中で想像してくれてるのであってると思うわよ。呼び方は一寸木さんでも木呂子さんでもどっちでもいいわ。とりあえずよろしくね。にしても、人に自己紹介するのなんて初めてだわ。テレビの中だけのことだと思ってたけど、こうして実際に自己紹介する日が来るなんてね……」
「ってなんで泣いてるの?」
晒菜が昔聞いたのと一言一句違わない自己紹介。それを聞いて晒菜はまたさらに涙を流した。目の前にいるのはまさしく一寸木であり、紛れもない一寸木木呂子という少女であった。
「ぼ……ぼくはっ……ひっく……っく……」
晒菜は顔をぐしゃぐしゃにしてまともに自己紹介が出来なかった。
まさかこんな形で会うことができるなんて……
まさかもう一度会えるなんて……
もう絶対に会えないと思っていた……
――だけど、目の前にはあの頃となにも変わらない一寸木木呂子がいる。
晒菜にはこのことが嬉しくて嬉しくてたまらなかった……
事情が全く分からない一寸木は、晒菜が落ち着くまでしばらく何も言わないで優しく見守っていた。
「一寸木さん、僕はあなたを……知ってるんです……」
ようやく話が出来るようになった晒菜はそのことを一番に話した。一寸木との思い出、一寸木と過ごした時のことを全て、詳らかに、事細かに、余すことなく、一寸木に伝えた。
――もちろん最後の最期まで。包み隠すことなく伝えた。
「ふーん、外の私はそんなことになってたわけね……そしてもう本当の私はこの世にはいないんだ……」
一寸木は悟ったような顔をしながら静かにそう言った。そして…
「そんな晒菜君には悪いんだけど、これからあなたはここで私、一寸木木呂子を、
――殺してもらうことになってるから」
一寸木は迷いなく、躊躇いなく、はっきりと…そう言った。晒菜には一瞬なにを言っているのか理解できなかったが、今ここにいる現状、この疑似空間にいるということを考えれば当然のことかもしれない。さっき緑人を倒したように、一寸木木呂子を打倒しない限り、先には進めないということなのだろう。
「一寸木さんを殺すなんて……」
「出来ないって?」
そう言って、一寸木は鋭く突き刺さるような冷徹な眼差しを晒菜に送った。
「晒菜君は何のために今ここにいるの? 現実の世界はすごいことになってるんでしょ人類緑化計画を阻止するために作られた私も死んじゃったわけだし、もう世界を救うのはあなたしかいないわけでしょ? 晒菜君がなんとかあしなきゃなんでしょ?
だから……」
「――甘ったれたこと言ってんじゃないわよ!」
一寸木が晒菜に飛びかかる。一寸木の一撃を正面からまともに受けた晒菜は錐揉み状になって見事に吹き飛ばされた。
「待ってください! 一寸木さッ!」
「――んッ!」
晒菜はさらに一寸木の追加攻撃をくらうこととなった。
「まだまだッ!」
一寸木は依然として攻撃の手を緩めることはない。晒菜はされるがまま、なされるがまま、一途に、愚直に、馬鹿正直に甚振られた。
「僕たちが……争い合うことは……ないはずです!」
ピタリと一寸木の攻撃の手が止まった。
「……晒菜君はここでずっと私と仲良くおしゃべりするつもりなの? 晒菜君はこの疑似空間でのんびり私と遊ぶつもりなの? まあ、正直なところ私はそれでもいいんだけどね。どうせ本当の私は死んじゃったわけだし……
でも、やっぱり私は今外で起こっていることを知っちゃったわけだしさ、今の私に出来る事ってなんだろなって考えた時にさ、やっぱり私にできるのは……
晒菜君……あなたを強くすることだと思う」
「晒菜君が外の世界で死なないように……晒菜君が世界を救えるように……勇者晒菜、ヒーロー升麻の踏み台になることだと思う。
……だから、
――どうか私の屍を越えて行け!」
再び、一寸木は晒菜に攻撃を仕掛ける。
「ぐッ……」
晒菜は一寸木の攻撃を受け止めていた。そして一寸木にいままでのお返しと言わんばかりにパンチをお見舞いした。
「――やるじゃない……」
一寸木が殴られた頬を気にしながらそう言った。
「一寸木さん、僕が間違ってました。僕がここにいる理由、それを考えたらこんなところで立ち止まるわけにはいきませんよね。ここから僕も全力でいかせてもらうことにします!」
そう言って晒菜は緑人の時にやったように手首を切って、自分の青い血をごくりと飲み込んだ。
「いきますよっ!」
「……!?」
勢いよく一寸木のもとへと飛びだしていった晒菜であったが、気がつくと先ほどと同じように吹っ飛ばされていた。晒菜には何が起こったのか分からない。
それもそのはず、たしかに晒菜は常人を超えた力を手に入れた。だが、今相手にしているのは常人ではなく人造人間である。
晒菜は自分が手にした力は常人以上人造人間未満だったということを痛感した。
「威勢のいいこと言うもんだからもうちょっとやるもんだと思ってたけど、期待はずれね。こんなんじゃ、必死に戦ったところで、必ず死ぬわ。
――だから今、死ね!」
次回は8月23日(水)7時更新です☆




