シュバルツバルト、森の中のそのまた奥の森‐①
「こ……これは……」
三改木に手を引かれ、晒菜がたどり着いた先に見たものは……
――パワードスーツ!?
「さあ、今すぐこれを!」
三改木が焦っているのが分かる。敵、つまりはGSS計画推進グループ「緑威」からの強襲と言うことだろう。晒菜はわけもわからずそのスーツを装着する。
「修業は中断だ。君がどの段階にまで進めたのかは分からない今、とりあえずこれを着てもらうほかない」
「分かりました」
きっとこんなのを着たらずいぶんと機動力に欠けると思われたが、このスーツ、見た目ほどの重さはないようで存外晒菜の体の一部と錯覚するくらいにフィットしていた。
「晒菜君、右手にあるこのボタンを押すことで、君の青い血を解放する、『碧血解放』という能力を自由に使うことができる。……だが、もちろん君の血には限度がある。限界を超えてしまうと君は死んでしまう……」
「――だから良くよく考えて使ってくれ。その訓練をずっとあの疑似空間内でしてもらったつもりだ」
死んでしまうといわれても、向こうの世界で死にすぎたせいかここでも死んだらリセットされるんじゃないかという愚かな錯覚をしていた晒菜であったが、この外の世界の非現実的な緑をみてここが現実なのだと、逆説的に理解する。
「さあ! おでましだ!」
三改木の声と同時に目の前には二人の少女が現れた。
「あらあら、鬼ごっこはもう終わり?観念しちゃったってことなのかな?」
「三改木森羅、借りを返しに来たわよ」
そこには晒菜と三改木の見覚えのある人物が立っていた。
「なぜだ……貴様達は死んだはず……」
三改木はわけが分からないといった風の形相である。
「残念でしたー」
「そう簡単には死なないのよ。だって私たち……」
二人は声を揃えて言った。
「「人造人間だもの」」
二人の少女、馬酔木翠菜と邊牟木霜葉はピンピンしていた。二目木林檎が殺したはずの馬酔木翠菜、三改木森羅が殺したはずの邊牟木霜葉、両名ともに何事もなかったかのように晒菜と三改木の前に立ちはだかった……
「しぶといやつらだ……晒菜君は下がっていろ。私一人で十分だ」
三改木は邊牟木と一度戦ったこともありまだ余裕があった。こいつならやれる、という慢心の気持ちがあった。
「なーにかっこつけてんのよ!」
目にもとまらぬ速さで邊牟木が三改木のところに到達する。人間業ではない、人外の人造人間の桁はずれの速さ。晒菜は横でその動きを目で追うことしか出来なかった。
「前回よりはやるようになったな」
三改木がそう言って強烈なパンチで応戦した。
「もしかして、それで全力なの?」
「それが全力なわけあるまい!」
挑発する邊牟木、三改木は戦いに集中しているせいか晒菜と離れてしまっていることに気が付いていないようだった。
「さあ、会うのは二回目ね! あの時みたいに一発KOなんて展開できればやめて欲しいわ」
「――さあ、私を楽しませてちょうだい!」
三改木が奮闘している隙を突いて馬酔木が晒菜の方へにじり寄ってきた。晒菜は最初こそ怖じ気づきはしたものの、直ぐに考えを改め、体勢を立て直した。
「林檎のかたきいいいいいい!!」
晒菜は早速パワードスーツのボタンに手を触れていた。
「行くぜ! 『碧血解放』!」
「――ッ!!」
激しい痛みが右手を襲う。それもそのはず、自分の右手を傷つけて血液を取り出しているのだ。痛くないはずがない。だが晒菜はこの程度で音をあげるわけにはいかない。晒菜はこの程度で負けるわけにはいかない。
だから晒菜はもう一度右手のボタンを押した。
「――ッ!!」
「さっきからなんでそんな深刻な顔をしてるのよ。私はまだなにもやってないわ……」
「――よ!?」
晒菜が馬酔木の頬に思い切りストレートを決めた。晒菜が以前馬酔木にやられた時のように、今度は晒菜が馬酔木を攻撃した。馬酔木の体は放物線を描くようにして見事に吹っ飛び、壁に激突した。
「いきなり顔面なんて容赦ないわね……」
何でもないですよと言わんばかりに毅然たる態度を示す馬酔木ではあったが右の頬が腫れてきていた。
「……死なないんですよね? 人造人間だから」
晒菜は敵にシニカルな物言いが出来るくらいの余裕があった。短時間の修行ではあったが成果が早速現れたようだ。
「そうよ、死ぬわけないじゃない、この私が!」
かくして二つ目の戦いが勃発した。馬酔木は晒菜、邊牟木は三改木、それぞれがそれぞれの因縁がある二人と戦うこととなった。この組み合わせがもしも変わってさえいれば、この後の展開は違っていたかもしれない……
「みぞろぎいいい!」
「ぐッ……」
邊牟木が三改木を圧倒していた。邊牟木は三改木との戦いで辛酸をなめる結果となったことで闘志を燃やし、再戦することを強く願っていた。あの時は瞬殺だったが今度はそうはいかせない、必ず三改木森羅はこの手で殺す。そう願い続けてきたのだ。
「ほらほら、どうしたの?こんなもんなの?」
邊牟木はどうしてこんなやつに殺されかけてしまったのだろうかと不思議になっていた。――弱い、あまりにも弱すぎる……
その不気味な違和感が邊牟木を終始悩ませ続けた。
「あの時の威勢はどうしたの!」
なぶられ続ける三改木の横で晒菜は馬酔木と近接戦闘を繰り広げていた。
「ふーん。ずいぶんと動きが変わったわね。いったい何のおまじないかしら?」
「俺だけにしか出来ない最高の能力だ!」
二回押してちょうど力が拮抗する程度にまで身体能力が向上した。ということは……あと一回で……
「――ッ!!」
力がみなぎって……
――こない!?
むしろ力が減退してしまった気がする……
次回は8月26日(土)7時更新です☆




