千山万水、青い血VS青い血‐③
「うぐぐ……動けな……」
「……ヴぃ」
緑人はまるで蟻を踏み潰すかのように、容赦なく、遠慮なく、忖度なく……
――晒菜を踏み潰した。
四回目以降はもう試行錯誤の繰り返しで、策をめぐらしなんとか上手く攻撃できないものかと考えては踏み潰され、考えては踏み潰されの連続だった。なにか遮蔽物の一つでもあれば、相手の目を盗んでの奇襲が出来るのだが、如何せん、ただの草原にそのようなものを求めるのはお門違いというものだ。
もう何回目なのか数えることはやめてしまったが、おそらく数百回は経過したであろう時に晒菜は初めて緑人の初撃をかわすことに成功した。今まではとにかく初撃でやられてそのまま踏み潰されるパターンが常習化していたが、ここでやっと新たなパターンが出来上がった。
相手の攻撃を極限まで引きつけて、一瞬の隙というか、相手の行動のわずかな間を感じ取り、それを利用して攻撃をよける。晒菜はその感覚をつかみかけた。
いつまでも永久ループなんてしてられるかよ……
とか考えているうちに、二撃目をお見舞いされて、
――グシャリ。
踏み潰されてしまった。
その後も何度も繰り返すうちに、初撃をかわせる回数が増してゆき、ついには完全にかわせるようになっていた。
よしっ!
「ぐはッ!」
しかし、ガッツポーズをしたのもつかの間、結局初撃をかわすことは出来ても、二撃目でやられてしまう。しかも初撃を完全にかわせるのは鉄刀をもっていない場合のときであって、かわしたところで丸腰の晒菜は反撃のすべを持たない。
これってほんとに進歩してるのかなあ、なんて考えると考えているうちにまた踏み潰される。
何度もやられていると物理的に踏み潰されるだけでなく、晒菜の心も精神的な面でも踏み潰されている感じがした。
緑人はリセット後、一定時間が経過したのちに必ず現れる。晒菜は初撃または二撃目で必ず殺される。
実際のところ晒菜の体はリセットされるが、晒菜の心はぶっ通しで戦っていた。体をあの巨躯に踏み潰される痛みは何度やっても慣れるものではない。
これは修行なんかではなく拷問なのではないか、そんな考えが晒菜の頭をよぎった。そしてそう考えてしまった晒菜は動くことができなくなってしまった。
何度も無防備なままやられる晒菜。その時ふと最初に緑人に会った時のことを思い出した。
そうだ、あの時は死んだふりをして……
何故今まで思い出さなかったのだろう、晒菜は自分を責めた。そして、晒菜はこの苦しい状況を打破するための活路を見だした事に胸が高鳴った。これから挽回劇が始まる。
そう意気込んだ晒菜は死んだふりをした。
――全力で死を演出した。
仰向けになって失敗した経験から、うつ伏せの姿勢で寝転がった。
これから策をゆっくりと……
「……ヴぃ」
緑人はまるで蟻を踏み潰すかのように、容赦なく、遠慮なく、忖度なく……
――晒菜を踏み潰した。
「なんでだよおおおおおおおお!」
晒菜は誰もいない草原で叫んだ。あの時は上手くいったはずだ。なにがいけなかったんだ。さすがに草原では擬死は無理だってことなのか……どうしてダメだったのか、その原因が分からない晒菜はその後も続けて擬死作戦を試したがことごとく踏み潰された。晒菜の策が水泡に帰して、完全に打ち砕かれた。
どうして通用しないんだ……
――答えは単純、「データにないから」
これは雄山火口が作り出したデータで作られている緑人である。擬死が通用するということを知っているのは晒菜と二目木だけだった……
そんなことを晒菜は知る由もない。
「畜生……」
そう呟いた晒菜はまたふと思い出した。二目木林檎が緑人を倒した時のことだった。そういやあいつは緑人をどうやって倒したのだろう……
俺ははっきりと見てなかったな……
俺にも超人的な能力があれば……
嘆いても仕方ないことだと分かってはいるものの、やはりチートじみたなにかさえあれば一発で倒せるんだろうなあ、なんて考えて晒菜は現実逃避した。
――グシャリ。
間断なく緑人による殺戮は繰り返される。
リセットされる晒菜。いったいこれで何度目だろう……
「そういや……これでどうにか……」
破れかぶれだった晒菜の目に留まったのは……
――鉄刀
そういやさっきからまったく使ってないな……
最初からこれは敵を倒すための道具だと決めつけていたが、案外そうでもないのかもしれない……
だけど、もちろん盾なんかには使えないし、囮に使うなんてのも無理そうだ……
ならば、考えられるのは……
――自傷行為。
敵を傷つけるのではなく、自分を傷つける。当然ジャパニーズハラキリなんかするつもりはない。せいぜいリストカットだ。それくらいで十分だろう。ただ、相手の目をくらませることさえできれば上等だ。
ものは試しだということで、実際に挑戦してみることにした。
「ヴオオオオオー!!」
いつものように緑人は雄叫びをあげる。そこに晒菜の青い血を、海の青にも空の青にも染まってしまいそうな、鮮やかな青い血を……
思いっきりぶっかけた。
「ってぇ……」
今までは打撃攻撃のみだったこともあり、切り傷の痛みは新鮮だった。
だが、努力空しく、勢いよく噴出した晒菜の青い血潮は緑人の目くらましの役割を果たすことはなかった。
ドゴン!
緑人の一撃が晒菜の後頭部に襲いかかり、晒菜は鈍い痛みを抱えたまま昇天した。
気がつくとまた晒菜はリセットされていた。
……さっきの緑人の一撃は今までで一番強かった気がしたけど、いったいどういうことなんだ。
今までのパターンで行くと一度吹き飛ばされて踏み潰されていたのだが、なぜか今回は一撃で意識を失った。
これは偶然なんだろうか……
「…………」
いやそうではない……きっとなにか……なにかあるはずだ……
「…………」
まさか……
晒菜は気がついた。さっきの緑人だけ違っていたことに……さっきの緑人は、晒菜の青い血を飲んでいた。というか晒菜が誤って緑人の口の中に入れていた。
おそらく考えられるのはそれだ!
――そうと分かれば……早速行動に移すのみだ。
晒菜は早速鉄刀を手にし、自分の手を切りそこから自分の血液を採取した。
そして、その毒々しい色の液体を口に含んだ。
「……ゴクッ」
するとどうだろう。体が熱くなってきた。この全能感、今何でも出来そうだ。
――力がみなぎってくる。
――血がたぎってくる。
――そして、心がほとばしる。
「ヴオオオオオー!!」
緑人が現れる。晒菜はいつものように緑人からの攻撃を避けようとした。
――その時だった。
次回は8月21日(月)7時更新です☆




