千山万水、青い血VS青い血‐②
「な……なんだ……」
「そんなの決まっているだろう?
――修行だ!」
扉から出てきたのは……
「こ、これは……」
――なんでもない、ただのフルフェイスのヘルメットだった。三改木はそれをつかみ上げ、それをそのまま晒菜に装着した。
「いってらっしゃい」
「い、いってきま……す?」
晒菜はたしかに地下室にいたはずだった。それがどうだろう。ヘルメットを通して見える景色は地下室とはかけ離れたものだった。
外の世界の人工的な緑の世界ではなく、テレビなんかで見るような、だだっ広い草原だった。
「こ、これは……」
あのヘルメットを装着しただけなのに、いったいどういうことかと思い三改木に事情を聞こうとした。つまりはヘルメットを脱いで三改木に話しかけようとした。
「あ、れ……?」
晒菜は自分の頭にヘルメットがないことに気がついた。そして、見渡せば正面だけでなく三六〇度草原であるということが分かった。
晒菜はこの広大な草原にただ立ち尽くすのみだった。
「晒菜君、君は私と同じようにこの疑似空間で戦闘訓練を行ってもらう。こうでもしなければ、やつらとまともに戦うことなんてできないだろうからな。
――力をつけるには、この方法が一番手っ取り早くて確実だろう」
そうやって三改木はリモコンのようなものを手に取り、慣れない手つきでそのボタンのいくつかに手を触れた。
「これを自分で使ったことはないからどうやれば良いのかはよく分からないのだが、間違った操作をしてしまったらその時はすまないが、諦めてくれ……」
三改木は、動かなくなった晒菜に向けてひとり言のようにいった。
「これが、修行なのか……」
晒菜はこの状況がいったいどういうことなのかをようやく飲み込めてきたところであった。
ガタッという音がしたかと思ったら、そこには鉄刀があった。
「これで戦えってことか……」
だが、辺りは一面大草原、晒菜以外に人の気配はない。
「なにも……ないよな」
何度見渡しても、一面緑の世界。特に変わった様子もない。
「……ん?」
突然、目の前の景色が歪み始めた。ザザザと不安定になったかと思ったら、その途端、
「ヴオオオオオー!!」
聞き覚えのある轟音が晒菜の耳をつんざいた。
晒菜の目の前に現れたのは、「恐怖」、「怒り」、「嫉妬」の全てを混ぜこぜにしたような禍々しい緑の巨人、
――「緑人」だった。
「まさかこんな形で再開を果たすなんてな。緑人ルートってのは意外にあったのかもしれない
――なっ!?」
緑人の剛腕が晒菜に襲いかかる。晒菜は攻撃をまともに食らって、二メートルちかく吹っ飛んでしまった。
「うぐぐ……動けな……」
「……ヴぃ」
緑人はまるで蟻を踏み潰すかのように、容赦なく、遠慮なく、忖度なく……
――晒菜を踏み潰した。
バキボキと自分の骨が折れる音が聞こえ、関節が本来ならありえないような方向に曲がったかと思うと、そのまま、晒菜は痛みのあまり気を失った。
「いってえ……」
晒菜は気がつくとまた、大草原に立っていた。
「まさか……リセットされたのか……」
まだ緑人にやられた痛みの感覚は残っていたが、実際はまったく痛くないし、体もピンピンしている。
「これは……やっぱりそういうことだな……」
あいつを自力で倒せるようになるまで続くってことなのか……
晒菜はゲームの中の主人公がどれほど不憫なのかを身をもって思い知った。
「いくら残機があるからって、こうやってやられるってのはあんまし良い気分じゃないよな……」
そう考えると、自分にも残機なるものが存在するのではないかということが気になった。
もし仮にそのようなものがあるのなら、何度も何度も臨死体験をする余裕はないということになる。
……って考えたところで、とりあえずはやつの相手をしないといけねーってことだ。
そうこう考えているうちに、先ほどと同じように目の前の景色が歪曲し始める。
「さあ、二ラウンド目だ」
今度は鉄刀をばっちり構えておくことで、初撃への対応は万全だった。
――はずだった。
「ヴオオオオオー!!」
「!?」
晒菜の体は鉄刀ごとまた二メートル近く吹き飛ばされてしまった。
「うぐぐ……動けな……」
「……ヴぃ」
緑人はまるで蟻を踏み潰すかのように、容赦なく、遠慮なく、忖度なく……
――晒菜を踏み潰した。
そこから先はまたさっきと同じ展開だ。変わったことと言えば、折れた鉄刀が自分の腹に刺さってしまい痛さましましだったことくらいだ。
これがあと何回続くんだろうなんてことを考えると気が遠くなったけれど、もう引き返す道もないわけだし、晒菜は観念した。
「うっし、三度目の正直だ!」
三度目は、一撃をくらう前にこちらから一撃を入れてやろうということで、後のことは考えずに緑人の懐に鉄刀を握りしめたまま突進した。
「貫けえええええ!」
なんて唸ってみたものの、結果は惨敗。刀のほうが折れてしまった。
「ヴオオオオオー!!」
晒菜の体はまた宙を舞った。
「うぐぐ……動けな……」
「……ヴぃ」
緑人はまるで蟻を踏み潰すかのように、容赦なく、遠慮なく、忖度なく……
――晒菜を踏み潰した。
次回は8月20日(日)7時更新です☆




