3.冒険のはじまり
「……特にやりたいことはないから、お父様に任せた」
(あ、しまった……)
ここ最近、レスティアの頭を悩ませているあまり考えたくない事柄のため、つい素っ気なく返事をしてしまったものの、モニカは心を害した様子もなく、引き続きいつもと同じような調子で話しかけてくる。
「ふふ。レスティア様もついに研修始めなんですね。研修先でお友達とかできるといいですね」
「前から言ってるけど、私、そういうのには興味ないよ?研修だって、将来、仕事に就くために行くだけだし」
「ええ……幼少期、子供交流会を勧めた時も同じようなこと言って、家に引きこもってましたけど……私自身、故郷の友達にはしばらく会えてないんですが、会ったらきっと、いつもそうしてたみたいに楽しく会話できますし、レスティア様にもそういう気持ち知ってほしいです」
「…………」
モニカのその言葉には、さすがのレスティアも、言葉に詰まってしまう。
そういうものに憧れているのかと聞かれれば、きっと憧れてはいるんだろう。
それこそ、この世界に転生した直後は、彩乃時代、一度もできたことがなかった友達が欲しかった。
けれど、モニカに子供交流会を進められたその日、レスティアはどうしてもたった一歩を踏み出すことができなかったのだ。
友達という存在は、レスティアにとっては生まれて始めてのことで、いざ目の前にそれが用意されると怖じ気づいてしまって怖くなって……結局、彩乃時代のように屋敷に閉じこもって物語の世界に浸る道を選んだのだ。
(……だけど、今はまだちょっと無理だ。あまり、人と関わりたくない。私には物語さえあればいい。だって、物語は私を傷つけたりなんてしない。それに、私はずっとそうやってひとりで生きてきた。ずっとこのままだったとしても、これからだってきっと生きていける)
なぜ、人と関わることが、ここまで過剰に怖いのかは分からない。
思い出そうとしても霧にかかったように思い出せなくて……
だけど……〈人と関わるのが怖い〉
それだけは確かだった。
「モニカが、私のことを思って言ってくれてるのはわかるよ。でも、ごめん」
「……分かりました。しつこく同じことを言ってしまって、すいません」
レスティアのただならぬ様子を感じ取ったのか、モニカがそれ以上深入りしてくることはなくて、その日はいつも通り過ごして終わった。
それから二週間後、時間がたっても、あの日から抱えているモヤモヤが消えることはなかった。
(大丈夫。きっとこれで正解なはずだから……)
それに、研修決めについて聞かれた時、モニカに言われた言葉もレスティアがここ最近抱えている疑問に追従するように地味に尾を引いていて……いくら考えても良い方法が思いつかないので、庭に出て気晴らしでもすることにした。
(でも、使用人達に見つかると面倒くさいな)
レスティアは四歳の時に一人で屋敷の庭に出て頭を打って、数日間目覚めなかったことがある。
大きくなるにつれて治まり、ないに等しくなったとはいえ、時折、頭がズキズキするといったような後遺症が残るぐらいの大怪我だった。
頭を打ったせいか、それ以前の記憶やその付近の記憶は曖昧なので、人から話を聞いただけなものの、そのせいで、今でも家の使用人達はレスティアに過保護なのだ。
(裏口からこっそり出よう)
レスティアはそう決めるやいなや、お気に入りの上着を羽織って、お気に入りの物だけが入ったポシェットを持って、いつも使ってるメイドや執事達の目があまりない廊下を使って周りを注意深く見ながら裏口からでる。
家の者を伴わないで屋敷の中から庭へこっそり抜け出したい時に使っているものだ。
「よし!」
こっそりと屋敷の裏口を通り、庭に抜けだす。庭を歩きながら周りを見ていると、物を浮遊させて、運んでいる使用人が見える。
そう、この世界には魔法があるのだ。魔法には、光・闇の原素魔法、物理と呼ばれる魔法、風・水・土・炎の生まれ季節で出現する魔法、草・氷・岩・炎の派生魔法がある。
それから、無属性、これは魔法とは少し違うが一応、存在する魔法属性だ。
無属性に関しては、知ってる人はいるかもしれないが、少なくとも、レスティアはどういう魔法なのかを知らない。
レスティアが無属性について知ってることは、世間であまりよく思われてない魔法属性ということと、無属性を持っている人は総じて短命で十歳まで生きられないと言われていることぐらいだ。
無と光と闇は生まれ季節関係なく稀に出現し、光が回復魔法、闇が無効化魔法。
物理は物を運ぶなど、属性関係ない魔法で誰でも使うことができる。
派生魔法は、生まれ季節で出現する魔法から派生したものである。
それ以外は誕生季節によって変わり、春は風、夏は水、秋は土、冬は炎が確定で出現するらしく、確定出現の生まれ季節の属性の他に、生まれ季節以外の属性が一〜二個、出現することもあるらしい。
レスティアは秋生まれなため、生まれ季節で確定出現の土魔法と生まれ季節ではないものの水魔法を使うことができる。
それから属性ごとに魔法石というものがあり、それを買って使うことで自分に出現していない属性の魔法も使える。竈や蝋燭に火をつけたり、浮かばせて物を楽に運んだりと、日常的に人々は魔法を使っている。
一般的に知られている魔法がいくつもあり、魔法を使った後どうなるかを頭の中に具体的に思い描くことでそれらの魔法を使う。
さらに、詠唱と呼ばれるものもあり、それを使うと魔法が普通に使った時より強くなったりする。
レスティアは、一般的な魔法以外にも、やってみたらできたため、彩乃の時に読んでいた物語から持ってきた魔法に少しオリジナルを加え、独学で、オリジナル魔法を作ったりもしている。
一応、自分で作る、創作魔法といものも存在しているので、レスティアのオリジナル魔法は、それが妥当するだろう。
そして、この世界には動物が存在しない代わりにモンスターが存在している。
その辺の川に泳いでいる魚でさえ、モンスターなのだ。この世界のモンスターは、地球の動物のようなもので、お互いの生活圏が一線を超えて侵害されない限りは、相互共存していて、地球の動物と人の関係と同じような感じだ。
そんなことを考えながら、しばらく庭で魔法の練習をしていたレスティアは(そろそろ戻らないとモニカが心配するな〜)と思い、戻ることにする。
そうして、屋敷の裏口の扉へ歩いていた時だった、ふと下の方で何かが光った気がした。
(足元が光った……?)
「まっ、まぶしっ!?」
何の前触れもなかったにも関わらず、光は収まるどころかさらに眩しくなり、足元の陣のようなものが出現する。
一瞬の時、それが歪んだかと思うと、あり地獄みたいに足が絡み取られ、目を開けられなくなるほど眩しくなる。
「ちょっ、ちょっと待って!うわあぁぁ〜!?」
そのまま、レスティアの意識は遠い暗闇に落ちていってしまった。




