22.冒険者という生き方2
22.冒険者という生き方2
「あれ……もしかして……」
レスティアが勘づいたことに気付いたのか、リリーナがうなずく。
「そのもしかしてよ。お金を稼がなきゃ生きてはいけない。冒険者っていうのは孤児や住む場所を失った人が生きていくと同時に住民票を獲得するための手段なの」
そう言ってリリーナは首元から金属のカードがついた紐のネックレスを取り出す。
「これは、冒険者の証明書。親や後見人がいる人なら住民票や家族とか自分の身分や立場を証明できるものはたくさんあるけど、何者でもない私達冒険者にとって身分や立場を証明できるものはこのカードたったひとつなの」
先日買い物をした村や、次の泊まる予定の村のように、ごく稀に、迷いの森が近隣にあるなどの、滞在する国や町、村側の特殊な事情がないかぎり、身分を証明する冒険者カードがなければ、宿に泊まることもできないし、お店でものを買うこともできない。
その他にも、冒険者は籍、普通の大人ならば肌身放さず持っている住民票を持たないので、ひとつの国や街に滞在できるのは、一ヶ月まで。
滞在してる側の国や街や村の事情という特殊な例外を除いて、怪我や病気といった特別な事情があったとしても冒険者の事情で滞在時間を一ヶ月以上伸ばすことはできない。
それ以上滞在する場合は高額のお金を払い住民票を買わなければいけないということ。
それにさっきリリーナが言ったように冒険者は基本的に依頼で生計をたてるので、モンスター討伐のような命をかけなきゃいけない仕事もあるし、危険じゃない仕事もあるがどちらにしろ収入が不安定でいつ生計をたてられなくなるか分からないこと。
つまり、身分や立場が不安定になるのだと教えてくれた。
尚、住民票を買えるほどのお金を貯めるのは、普通なら二年程かかるらしい。
そして、孤児は基本的にどの子もみんな、研修が始まる十三歳から孤児限定で通える冒険者学校で、冒険者をするための知識と、住民票を買った後につきたい職に関する研修を冒険者学校で、成人なのと同時に孤児院が面倒を見てくれる限度年齢であり冒険者という職につく年齢である十八歳までの六年間の間、学ぶそうだ。
尚、全体の三十%ぐらいの確率で、住民票を買えるほどお金が貯まっても住民票を買わずに冒険者を続けてる物好きもいるものの、基本的にはみんな、住民票が買えるほどお金が貯まる二十歳頃に住民票を買って冒険者を引退するそうだ。
「これでも一昔前よりは良くなったのよ。昔は、今より軽蔑されていたし、冒険者を支える器官である冒険者協会も存在しなくて今よりもっと冒険者の待遇も悪かったの。まあ、私達は、十二歳の時に冒険者になって、その時代を経験してないから、人から聞いて知っただけなんだけどね」
ならば、二人もその冒険者学校なるものを卒業したのだろうか?
(あれ……でも……)
レスティアの頭の中に浮かんだ疑問察したのか、どこか気まずそうな表情をしたリリーナが口を開く。
「……私達はちょっと特殊なルートというか、成人してるわけでもなければ冒険者学校を卒業してるわけでもないのに、冒険者をしているのだけど……ハイリスクになるから、みんなしないってだけで、一応、冒険者学校を卒業しなくても冒険者になれるから。まあでも、一般的に冒険者になるのは成人からが多いわ。レスティアちゃんは、まだ十三だし帰る場所があるなら冒険者にはならないほうがいいと思うわよ」
そう言ったリリーナの声色はどこか羨ましそうで……
そういえば、二人は十五歳だと言っていた。
一般的に冒険者になるのが成人からだというのなら、リリーナとリヒトには帰る場所がないのだろうか。
「私が言いったかったのはそれだけ。その覚悟があるなら冒険者になってもいいかもしれないけど……」
(覚悟……)
リリーナに冒険者について話を聞いたその日の夜、寝袋の中で、レスティアはその言葉を反芻していた。
レスティアは、冒険者に憧れている。
それも、レスティアになってすぐのちっちゃい頃にその職業を始めて知った頃からずっとだ。
でも、自分から動くことで期待することで傷つくのが怖くて、これでいいはずだって言い聞かせるように笑って、彩乃の時と同じように、自分の好きなものだけを集めた温かいものだけがある屋敷と物語の世界に閉じこもった。
そうして長年、目を逸らしてきたものの、カラクリ遺跡での一件を得てからというものの、冒険者に憧れているというその事実が、もう目をそらせないほどの確かな光を放っていて……
認めざるおえなくなったのだ。
だから、レスティアなりに精一杯の勇気を出してリリーナに聞いてみた。
けど、提示された事実はこれである。
モンスターに対する苦手意識は、地下遺跡での一戦で薄れたものの、今も尚、レスティアの頭を悩ませているリヒトのあの言葉とか、変な魔法陣でこの場所に飛ばされてからうまくいかないことばかりで……
そんなことを考えていたら、いつの間にか寝落ちていたらしく、レスティアの心情とは打って変わって爽やかな鳥のさえずりに目を覚ましたレスティアは引き続き考えことをしていた。
前世のレスティアの世界は物心がついた頃から病室と物語、それからネットや本で得られる外の世界の情報が全てで、ネットや本を読んでも分からないことは全て想像で担っていた。
レスティアになってからは、変な魔法陣で飛ばされるまでは、前世で出来なかった分も好きなように過ごしていたし、百%とまではいかなくてもお願いすれば周りの人達が出来る限り叶えてくれて、前世でやりたくてもできなかったことをさせてくれたし、できていた。
けれど、現実はそんなに甘くなかったらしい。
物の物価だってしらなかったし、外の世界があんなに危険に満ち溢れていて今まで知らないうちに守られていたことも、リリーナやリヒトのような十二歳で冒険者になる人もいる中で自分がどれだけ恵まれた環境にいたかも実感していなかったのだ。
迷いの森で迷っていた時も思ったがレスティアには現実が見えていなかったらしい。
「やっぱり、私には無理だ。お父様が取ってきてくれた安定した仕事についたほうがいい。きっとそれが正解なはずで……」
そんなレスティアの脳裏に思い浮かんだのは、リヒトのあの言葉と、地下遺跡での出来事を終えてから、レスティアの中に芽生えたある感情で……
(っ……でも……)
「レスティア」
そんなことを考えていると、どこからか声が聞こえてきて……声がした方に目を向けると瑠雨が心配そうにレスティアの方へ駆け寄ってきてる所だった。
「大丈夫か?」
どうやら、昨日から様子のおかしいレスティアを心配して様子を見に来てくれたらしい。
「なんかね、最近うまくいかないことばっかりで……どうやったらもっとうまくいくか分からなくて……」
「オレはむずかしいことは分からないけど、上手くいくかなんてやってみないとわかんないんじゃないか?」
レスティアは、瑠雨のその言葉にはっとする。
「えっ……」
そう言うと、焚き火で待ってるを歩いて行ってしまった。
確かに瑠雨の言う通り上手くいくかなんてやってみないと分からない。
けれど、レスティアはまだ、リヒトのあの言葉に対する解を持っていない。
このままでは、動こうにも動けなくて……
どうすれば良いのかは分かっているのだ。
リヒトのあの言葉に対する解を見つければ、冒険者の厳しい現実に対する答えも見つかるし、自ずと道も見えてくるのだ。
地下遺跡での一件を得てから、レスティアの胸の中に芽生えたある感情を育てていけばいい。
けれど、その一歩を踏み出すのは怖くて、あと少し、あと少しだけ勇気が必要だった。




