21.冒険者という生き方1
21.冒険者という生き方1
地下遺跡での一戦から数日たったその夜、レスティアは、今日も今日とて、塩と木の実でできたスープと干し肉を夕ご飯に野営場所で焚き火を囲んでリリーナと雑談していた。
スープを飲み終わって、夕ご飯も終わりに差し掛かったという時、リリーナに聞きたいと思っていたことがあることを思い出す。
それは、レスティアがずっと気になっていたことで、けれど今までのレスティアは、それを聞こうとしなかったのだ。
だって、それを聞いてしまったら、自分の中にある何かが揺らいでしまうような気がして怖かったから。
だけど、地下遺跡での一件を得た今のレスティアは、聞いてみたいとそう感じていた。
(本当は今でも怖いけど……)
深呼吸したレスティアは、自分なりに、勇気をだして口を開く。
「リリーナさん、あの、冒険者について教えてもらってもいいですか?」
まだスープを飲んでいるリヒトと瑠雨を横目にそう言ったレスティアの言葉は予想外だったのか、リリーナは驚いたような顔をする。
「レスティアちゃんは冒険者になりたいの?」
「いえ、違います。ちょっと気になっただけです」
それは、小さな嘘。
新しい一歩を踏み出すことを怖がる臆病な自分が発した言葉だった。
そう言っているものの、レスティアのその瞳から、冒険者への確かな憧れを感じ取ったリリーナは……
すこし気まずそうな表情をした後で口を開く。
「そうなのね。気になったのかもしれないけど、冒険者はあまりおすすめしないわ」
「え……」
「私が冒険者にならない方がいいって言ったのには理由があるの」
そう言ったリリーナは、まず前提から話してくれる。
冒険者っていうのは、冒険者協会の依頼で清算をたてる仕事で、人探し・薬草採取・家事代行みたいな危険じゃない仕事もあるけど、モンスター討伐とかの依頼の方がはるかに多くて、モンスター討伐みたいな危険なしごとにしても、そういう危険じゃない仕事にしろ、収入が安定しないそうだ。
「それに、冒険者になるってことはね、身分をなくすのと同じなのよ」
ありえないことを言ってる割に、リリーナのその顔は真剣で嘘を言ってるようには見えなかった。
「えっ……身分をなくす……??」
(身分をなくすって、冒険者になったらオーバンス家のレスティアじゃなくなるってこと?)
「やっぱり知らなかったのね。レスティアちゃん、住民票や住民税って、知ってる?」
「……知らないです」
彩乃時代の知識で、日本に似たようなものがあったことは知っているが、日本とこの世界では同じ名前をしていても違うかもしれないと思ったレスティアはそう答える。
「そうよね、レスティアちゃんはまだ十三歳、それなら知らなくて当然だと思うわ。普通は十五歳ぐらいの時に親から教えてもらうものだものね。だから、住民票や住民税から話すわね」
そう言ったリリーナは、それらについて教えてくれた。
この住民票は、この街に住んでいいという許可証なのと同時にその者の身分を証明するものなんだそうだ。
住民票がないと街に住めなかったり、買い物できなかったり、病院にかかれなかったり、その他にも様々な場所で詰む。
住民票というのはこの世界で生きていく上で必須のものなのだ。
そして、この住民票には住民税というものが発生し世帯主が家族の分だけお金を国などに払わなければいけないという金銭面の問題があり、この住民税は親や後見人が、子供の仕事が軌道にのるであろう二十歳まで住民税という名のついたお金を国に払うことが最低条件なんだそうだ。
(え……でも……)
この世界にも孤児院といものはあるが孤児院が面倒をみてくれるのは成人である十八までだ。
「ここまでは分かった?」
「はい」
「ええ。じゃあ、親を亡くしたりした孤児の住民票や住民税はどうなると思う?その子どもが成人した時の仕事は?」
思い当たったその疑問を抱えながらもそう頷いたレスティアの胸中を知ってか、リリーナはそう聞いてくる。
「……私もそれは思いました」
その疑問を口にしたレスティアを見たリリーナは、詳しくそれらについて教えてくれた。
「まず、孤児院にいる孤児は事実上、住民票を持っていないの。孤児院にいる孤児は特例で成人である十八までは住民票を持っていなくてもいいのよ」
「え……」
それにならって、孤児の場合、孤児院が十八まで面倒を見てくれるものの、それ以降の面倒は見ない。
それならば、子どもが成人する前に孤児院が養子の契約をして後見人になればいいのではという話もあるだろうが、そう簡単な話ではない。
一人の人を家族として責任を持ってむかえるという精神的な覚悟もいるが、その他にも養子の場合、住民票を獲得しなければいけない。
そして、住民票には二十歳まで住民税を世帯主が払わなければいけないというオプション付きだ。
子供が、一〜三人しかいない一般家庭ならともかく、二十人も三十人も孤児である子供がいるような孤児院で、孤児全員分の住民票を獲得したら、孤児員の財政がパンクしてしまうため、そんなことはできない。
そして、これらの前提を知った上で普通の子供と孤児の実態を並べていくと、ある事実が見えてくる。
後見人や保護者のいる孤児じゃない普通の子供ならば、後見人や保護者が住民票についてくる住民税を二十歳まで毎年払ってくれるため、最初からこの住民票を持っていて、成人したとしても〈二十歳からは自分で払います〉という申請だけで済むのだが……孤児の場合、後見人や保護者がいなくなって孤児院に入った時点で住民票は奪取される。
当たり前だ、成人まで住民票を払ってくれる保護者や後見人がいないのだから。
つまり、孤児は成人すると同時に住民票の獲得から始めなければいけない。
そして、住民票というものはとても高いのだ。




