19.約束の遺跡3
「そうして、今に至る。それから、ずっと守っていたから、お主らはコウ以外で我が言葉を交わした唯一の人間だ」
語り終わったらしいモンスターは、話を終えながら、下の景色を見ていた。
「久しぶりに、あいつのことを思い出した。それに、外も随分変わったな、あの頃とは大違いだ」
モンスターは、懐かしそうに、でも、どこか寂しそうにそう言った。
「あの、今の話、この物語記録帳に書き留めたいんだけどいいかな?」
そうレスティアが聞くと好きにしろと言われる。
今の話を物語記録帳に書き留めようとは思っているが、誰かに話す予定はない、自分用だ。
コウという人が、モンスターの元を去った後に訪れたであろう一個目のカラクリ遺跡の石版に名前を記入しなかったのは、きっと、楽しんでくれたらそれでいい、名誉なんていらないと思っていたからだろうと思ったからだ。
「ねぇ、少し気になってたんだけど僕達が迷い込んだ遺跡が十三号?」
そうリヒトが聞くとモンスターがコクンと頷く。
モンスターの話いわく、あの遺跡のようなものはリーイヴェル大陸中に、あと、十二箇所あるらしく、いつしか冒険者達が度々、挑みにいく秘境になった。
「それは凄いけど、安全は大丈夫なのかしら?」
リリーナの言う通り、たしかに石のボールなど、命を脅かすような危険な仕掛けがたくさんあったが、他は大丈夫なのだろうか。
「十三号は未完成だからな。他の遺跡にも十三号と同じように危険な仕掛けはあるが、挑戦者たちの命が脅かされそうになったら、強制的に外に追い出される仕組みになっておるのだ」
レスティア達が迷い込んだ遺跡だけは未完成で、安全のための仕掛けが備わっていない、そしてだからこそ、封鎖していたそうだ。
そんな話を聞きながら、モンスターから聞いた話をノートに書き留めていると、レスティアは、ふとあることに思い当たる。
(そういえば、このモンスターの友人は、なんでいきなり故郷があった場所を見たいって、言ったんだろう?)
単純に考えれば、自分の死期を悟り最後に故郷だった場所をみたいと思ったのかもしれないが、このモンスターを連れていかなかったのが気になったのだ。
(もしかして、このモンスターに自分の最期の瞬間を見せないため?)
友人はこのモンスターが離れてもいいと言ったのに離れなかった時点で何かを悟ったのかもしれない。
そう考えると、モンスターに送ったペンダントに何が書かれているか気になってくる。
「あなたは、ペンダントに何が書かれているか気にならないの?」
「たしかに気になりはするが、読めぬのだ。それに我は守り続けるだけだ。あいつが帰ってくるまでな」
そう言ったモンスターの声はどこか寂しそうで……
(もしかしたら、モンスターはどこかでその友人がもういないことに気づいているのかもしれない……)
レスティアがそう思っていると、モンスターが、レスティア達の前にペンダントを置いてくれる。
そのペンダントを見ると、遺跡で見た時にはなかった文字が陽の光を浴びて金色に浮かび上がっていて……
だが、その文字をレスティア達は読むことが出来なくて。
リリーナいわく、旧時代の文字のため、レスティア達には読めないということだった。
レスティア達が分からず頭を抱えていると、モンスターは金色の文字に気づいたようで……
「むっ?なんだそれは……」
レスティア達が文字が読めないと言うと、昔、人間の友人に教えられた文字に近かったらしく、この金色の文字なら読めるかもしれないとモンスターが言うので、飛んでいるモンスターに見えるように石版を置く。
「これが、こうだから、こうで、open……?」
そうモンスターが言うと同時に金色の文字が空中に浮かびあがると、どこからか人の声が聞こえてきて……
「なにこれ!?」
驚いた四人の声が重なる。
〈この文字が浮かんだということは、あの遺跡から出たんだな。まずは、ずっと待っててくれたのに戻らなくてすまなかった。これは俺の個人的な意見だがお前に最期の瞬間を見せたくなかったんだ。長い時間を生きるモンスターであるお前が、ひとつの場所に縛られ続けるのが嫌だったんだ。それにお前も協力すると言ったあの日まで、すぐに離れるつもりだったんだろう。けれど、好きな場所に行けばいいと言ったあの日、お前はいかなかった。それで思ったんだ。俺が目の前で居なくなったら、今度こそお前は、ここから動かなくなる気がした。だから、お前を置いていった。どれだけ思っていても、記憶というのは、時間がたてばすり減っていくものだ。お前が約束の遺跡を出たときが頃合だと思って、故郷に伝わっている技術で、陽の光に照らされると、このメッセージが浮かび上がるようにペンダントに細工した。この場所に縛られて欲しくなかったからとはいえ、卑怯な手を使ってしまってすまなかった。お前と初めて会ったあの日、故郷は襲われるわ、家は燃やされるわ、大切な人達はいなくなるわでもう死んでもいいかなと思った。けれど、お前に拾われてもう一度、夢を目指して見よう思ったんだ。その後はすごく楽しかった。最悪だった俺の人生がお前に出会っただけで、楽しいものに変わった。離れようと思えばいつでも離れられたのに俺と一緒に歩んでくれてありがとう。この手紙を見る時、俺はおそらく、もうこの世に居ないだろう。俺にとって、この七十年と少しは夢みたいに楽しい日々だった。お前にとってもそうだったらいいな〉
フッ!
全ての音声が再生し終わったのか、金色の光は少しづつ小さくなり、ペンダントに刻まれた文字に変わる。
それはとても長文で、おそらく、昔、人間の友人に教えてもらったという、このモンスターにしか読めない旧時代の文字で今の音声を文字にして刻んだのだろう。
「そうか。やはりな……」
モンスターがどこか納得したようにそう呟いて……
「お主、何という表情をしておるのだ?他人のことだろう?」
モンスターに言われて、自分が泣きそうな表情をしていたことに気づく。
「すいません。なんか、話を聞いてたら……」
レスティアがそう言うと、モンスターは「もう過ぎたことだ」と言った。
その後、レスティア達は二日ほど、モンスターの背中で過ごしたのだが、モンスターは、人間の友人であるコウとリーイヴェル大陸中を旅して二人であちこちにカラクリ遺跡を作る日々の中で、二人で見てきた様々な景色についてレスティア達に話してくれた。
西洋の高所の空で数十年に一度しか見れない雲霧という特殊な現象は、朝焼け空に虹みたいな七色の光の粒がキラキラと出ては消えていくその光景があまりにも幻想的なこと……
南方で見れる夜の砂漠の静寂が醸し出す美しさ……
北方の雪国で見れる白銀景色とオーロラはこの世のものとは思えないほど綺麗な景色なこと……
東洋の方にはサクラという春に満開を見せる花があって、淡い薄桃色が空を舞う姿はとても見事なこと……
モンスターは他にもたくさんのことを話してくれた。
そのモンスターの話を聞いていたレスティアは、それは、どんなに綺麗な景色なのだろうなんて、ぼんやりと思う。
モンスターのその行動は、ただ背中に乗ってるだけのレスティア達が暇をしないようにだったのかもしれない。
けれど、その思い出話をしている時のモンスターは、大切に抱えてきた宝物にそっと触れるような優しい雰囲気で、レスティア達を暇させないのと同時にコウとの思い出を忘れないように自分に一句一句刻みつけて、言い聞かせているようにも見えた。




