18.約束の遺跡2
そちらの方が良いと思ったので、今回の過去編は一人称視点になっています。この18話が終わったら、また、三人称多元視点に戻ります。
初めてあやつと出会ったのは、我の能力で人が迷い込まないようにしていて、普通なら人は迷い込まないはずの森の奥深くだった。
森の入口に、十五歳そこらだと思われる一人の少年がボロボロになり倒れていた。
追い出しても良かったが、目覚めが悪いと思い、看病してしばらく置いてやったのだ。
目覚めた人間は我に感謝すると図々しくもしばらく匿ってくれないかとお願いしてきた。
理由を聞くと故郷の国が戦争に敗れて命からがら逃げてきたのだと。
ただの気まぐれだが、匿ってやることにした。
「なあ、あんたこんな所にずっとひとりで寂しくな いのか」
それからまもなくして、人間がそう聞いてきた。
「我は生まれた時からひとりだ。我々とは違い人間には家族というものがいると聞いたが、そう言うお主はどうなのだ」
そう我が聞くとその人間は、「……全員、いなくなったよ」と何とも言えない表情で言う。
何故かは分からないが触れてはいけない場所に触れてしまった気がして……
「なんというか、すまなかった」
「理由が分からないのに謝らなくていいさ。だけど、ありがとう」
我のその謝罪にそう返した人間は、またしても、我にはわからない表情をしていて……
そんな人間をじっと見ていると、首に美しい宝石のペンダントがあることに気づき、我がそれを見ていると、人間は困った顔をした。
「これが気になるのか?匿ってくれたお礼をしたい所だが、悪いな、大切なものなんだ」
そう言った人間はどこか寂しそうだった。
匿って数日たつと人間が紙のようなものを広げて何かをしていることに気づいて……
「人間、何をしているのだ」
広げられた数十枚の紙を覗き込むと、どの紙にも図案のようなものがびっしり書き込まれていた。
我が何をしているのか尋ねると、昔、読んでいた冒険物語に度々出てきたカラクリ遺跡や地下迷宮に憧れていて、いつか自分で作ってみたいのだと、これはそのための図案だと、目の前の人間はそう言った。
「……まだ、実際に作れたことはないんだけどな。後、俺は人間じゃなくてコウだ。そういえば、お前に名前はあるのか?」
我が頭を振るとコウがそれだと呼びにくいと名前というものをつけられて、その後の日々でも、嬉々としてカラクリや地下迷宮のことを話すので、段々、興味をそそられた我は、気まぐれで協力することにしたのだ。
「一緒に作ってくれるのか?だけど、お前たちって、本来は自由な生き物だろ。俺に付き合わなくてもいいぞ」
「ただの気まぐれだ。それにお前に協力するんじゃなくて、我が気になるから協力するだけだ。興味がなくなったら、離脱する」
「そうか。ありがとう」
それからひたすら設計図とにらめっこをする日々を過ごして……
その日、設計図が完成した我々はカラクリ遺跡第一号を作った。
出来は良く、その後もリーイヴェル大陸中を旅して、あちこちにカラクリ遺跡を作る日々を二人で過ごした。
けれど、十三を作っていた時だった。コウが怪我をしてしまい中断することになったのだ。
「ついに、ヤキが回ってきたか」
そう呟いたコウの方を見ると出会ったあの頃よりも、コウにはシワが増えヨボヨボになっていることに気付いて……
「どうやら、ここまでのようだな」
そう寂しそうにコウが言って、そして気づいたのだ。
我にとっては、たったの六十年だったけど、人間にとってはコウにとっては違うことに。
その日から、少しずつ、コウの体力は落ちていって……
いや、今までも隠していただけで体力は落ちていたのかもしれない。
「何、落ち込んでるんだ?」
そうコウが言った時にふと、昔、人間が、飲めば永遠に近い寿命が手に入るという泉がどこかにあるという噂をしていたことを思いだした。
ここまでかと寂しそうに言ったコウの様子を見るに、まだ、これからもカラクリ遺跡を作っていたいのだろうと思った我は、少し開けるとコウに言って、永遠の泉を探すことにした。
そして、あちこちを放浪しながら探したが、結局、見つけることはできなくて……
コウに少しで帰ると行った手前、そろそろ帰らなければと思った我は帰り時を急いだ。
そうして帰ってきた時だった。
コウがカラクリ遺跡の入口で待っている姿が視界に入って、それと同時にコウがとても怒っていることに気付いて……
「少し開けるって言って、なんで五年も音信不通なんだ!」
カラクリ遺跡をたつ前よりもヨボヨボになり、怒ったコウの姿を見て、自分がまた過ちを犯したことに気づいた我は謝罪した。
なぜ、こんな行動を取ったのか話すと、コウは初めて出会ったあの日と同じように何とも言えない表情をする。
「そうだったのか、ありがとう。でも、今度からはこんな危ないことしないでくれ」
その後も、日に日に活力がなくなっていくコウをただ、見ていることしかできず我は落ち込んでいた。
「……わしとお前の生きてる時間が大きく違っていただけだ。だから、大丈夫だ。それに我々のカラクリ遺跡作りは終わったんだ。もう付き合わなくて良いし、好きな場所に行ったらいい」
そんな我を見ていたコウがそう言ったものの、旅立とうと思う度、何故か離れがたくて……
当初の約束はカラクリ遺跡作りが終わるまでで、それさえも飽きたら離れても構わないとコウは言っていた。
我もそのつもりだった。それなのに何故……
そんな風に考えていると、コウがあるものを我の首にかけていることに気づく。
それは、あの日、コウが大切だと、そう言っていたペンダントで……
「何をしているのだ。大切なものでは無かったのか?」
そう我が聞くと、コウは少し寂しそうに笑った。
「まあ、確かにそうなんだが、この年齢には、少々若すぎるデザインだからな。このまま、腐っていくより、大切な友人に送ろうと思ったんだ。いらなかったら、捨ててもらって構わない」
けれど、そのペンダントの宝石には、あの日はなかった字が刻まれていて、コウに聞いたものの、答えてはくれなかった。
それから、しばらくたった時、コウはいきなり、故郷があった場所を見に行きたいと言い出した。
「道案内をしてくれるなら、カラクリ遺跡をリーイヴェル大陸中に作ってた時みたいに我が乗せて行こうか?」
そう我が言うと、珍しくコウは断る。
「それも楽しそうだが、お前には別のことを頼みたい。わしがここに帰ってくるまで、この遺跡を守っていて欲しい。とても大切な場所なんだ」
一緒に故郷に行きたかった気持ちはあるが、この遺跡はコウにとって大切な場所なんだろうと思い、我はそのコウの言葉に頷いた。
「分かった。その代わり、必ず帰ってくるのだぞ」
「ああ」
そう言ったコウの背中がどんどん小さくなっていく様子を我はカラクリ遺跡の入口から見ていて……
それが我とコウの一番新しい記憶だった。




