1.はじまりの予感
プロローグは、一人称視点でしたが、本編は三人称多元視点になっています。混乱がないように一応。
「「いいなぁ……一度でもいいからここから抜け出して、こんな冒険してみたいなぁ……」
見慣れた病室、お気に入りの本、どこか懐かしい景色。そうかここは……
「…………様」
(声……?)
「…………様」
(あれ?なんか急に眩しく……)
「レスティアお嬢様、朝ですよ!」
目を開けると見慣れた顔があった。
「モニカ、おはよう」
そうレスティアが言うと目の前の人物は元気いっぱいの笑顔であいさつしてくれた。
「はい。おはようございます!お支度してもよろしいですか?」
「ええ、お願い」
(ひさしぶりにあの頃の夢を見たな……)
胸下までの少し癖っ毛でゆるくウェーブしている金色の髪と深い群青色の瞳、それが今の私、レスティア・オーバンス。
服飾がメインの大手の商店を経営しているオーバンス家の娘、そして前世の桜坂彩乃という記憶を持った転生者だ。
家族は、父と早くに亡くなった母、研修先に住み込みしている年が三つ離れた兄。
この世界にいわゆる赤ちゃん転生をして、今日、十三歳の誕生日を迎える。
「お誕生日おめでとうございます!」
レスティアがそんなことを考えていると、モニカが嬉しそうな声でそう言う。
「こないだ、街に買い出しに行った時、レスティア様が気になるって熱く語っていた物語の本を見つけたんですけど、今度、一緒に買いに行きませんか?」
「行きたい!」
この会話からも分かるように、物語が好きというレスティアの好みは、あの頃から何一つ変わっていない。
「あと、レスティア様の素敵な深い群青色の瞳にあう服も見つけて、その店にも行ってみません?」
(うーん。服にはそんなに興味無いけど...)
「モニカが行きたいならいいよ」
そうして二人で雑談をしていると、二十分ほどでモニカは「できました!レスティア様!」と言って、レスティアの髪をいつもの髪型にする。
右側の髪を少しだけすくって途中まで編み込みして、残りのすくった髪をサイドで小さなお団子にし、それ以外の髪を下ろしたままにする、サイド編み込みとサイドお団子を融合したような髪型に整えて満足そうな顔を見せた。
レスティアのお世話係のモニカは、レスティアと同い年の息子と成人付近の娘が一人ずついて、自身も三十代後半だが、幼少期からずっとお世話係をしてくれている。
早くに母親を亡くし、髪に輝いている、生前、母が作ってくれたという髪飾り以外に母親との繋がりがないレスティアにとって、モニカは母親のような存在である。
「ありがとう、モニカ」
身支度が終わったので朝食を食べに一階のリビングに降りるも……「お父様は……」レスティアがそんなことを呟きながら、二人で食卓を囲むにはいささか広すぎる長机を見るも、そこには誰もいなかった。
(今日もいないか……誕生日なのにな……まあ、誕生日の日に一緒に食卓を囲んだことなんてほとんどないし、いつものことだからいいけど……)
そもそも、家族が三人揃って食卓を囲んだことなど片手で数えられるほどしかないのだ。
レスティアがそう思ってると、後ろでガチャっと扉を開ける音がした。
後ろを振り返ると、そこにいたのは、赤髪にレスティアのものより色素が薄い青色の瞳をした見覚えのある人物で、そう、珍しく父が姿を現したのだ。
(最後に顔見たのいつだっけ?四ヶ月ぐらい前な気がする……)
レスティアはそう思いながら、スカートの裾を持って頭を少し下げる。
「お父様、おはようございます」
レスティアのその声に父親は、一瞬だけこっちに顔を向けるも……
「あぁ。レスティアか。後で、私の執務室に来てくれ。話がある」
父は、その後すぐに話したいことはもう、終わったというように顔を逸らした。
(お誕生日おめでとうの言葉もないんだ……別に良いけど)
親や家族が自分に無関心なことなんて、彩乃の時だって、そうだったのだから、今さらだ。モニカがその分祝ってくれたし、別に構わない。
「わかりました」
その後、一緒に朝食を食べたけど、二人共一言も発っせず気まずい沈黙が流れていた。
(これは、さっさと朝ご飯食べ終わって部屋に引っ込んだ方がよさそうだな)
レスティアは、まわりに控えてるメイド達の気まずそうな雰囲気を見てそう思う。
「ごちそうさまでした。お父様、お先に失礼します」
そうして、部屋にもどったレスティアが、昔、メイドからもらった、植物学の本を読んでいると……
(この花は...へぇ...)
そこには、燃やすと体の感覚が鈍って、動きが遅くなる、軽い麻痺作用のある赤い煙がでると書かれている花が載っていた。尚、一時的なもので、後遺症などは一切残らないそうだ。
だが、入手難易度が非常に高く、めったに使えるものではないらしい。
(こんな薬草もあるんだ...面白い)
レスティアが本を読んでいると、コンコンと扉を叩く音がして……
「どうぞ」
レスティアがそう言うと、お父様付きの執事が顔を出した。
「レスィアお嬢様、旦那様が話したいと言っておられます。執務室に来ていただいてもいいでしょうか」
(あんまり、お父様と関わりたくないんだけどな……。このまま無視できると思ったのに。でも、わざわざ私を呼びにくるって言うことは大事なことだろうし……)
「わかりました。今、行きます」
そう返答したレスティアが、あまり気乗りしない気持ちで執務室に向かって歩いていると、反対から歩いてきた、父とそっくりの赤髪に、こちらは父と違う紫色の瞳をした見覚えのある人とすれ違う。
(お兄様……?珍しい……帰ってたんだ)
レスティアの兄であるコルハイムは三年前、研修先が決まってから、研修先に住み込みして、めったに帰ってこなくなった。
普段、屋敷などですれ違っても、お互い挨拶もしないので、レスティアがいつものように沈黙を貫いて歩き去ろうとした時だった。
「レスティア」
コルハイムがいきなり声をかけてきた。
「……?。何か用ですか?」
レスティアがそう言って、不思議そうな顔を向けるとお兄様は気まずそうな顔をした。
「その……いや……なんだ……」
その後、しばらく気まずい沈黙が続き、耐えられなくなったのかコルハイムの方が先に口を開く。
「……何でもない、呼び止めて悪かった。今日は、研修先決めの日だろう」
そういうやいなや、玄関の方へスタスタと足早に歩き去っていく。
どうやら、これから研修先の店に戻るようだ。
小脇に一冊、本らしき長方形のものを抱えているのを見るに、家に置き忘れた資料でも取りに来たのだろう。
(……?。まあ、いいや)
何の用で、呼び止めたのか気になったが、父親の所に向かわなきゃいけないため、足早に執務室に向かった。




