16.遺跡守
カパッ!
「ちょ、ちょっと待って、今度はどこに……」
床がいきなり空き、レスティアは空中に投げ出されてしまって……そのまま地面に突撃する。
「いたっ……!ここは……?」
レスティアが周りを見ると何もなく、霧が充満している大広間のような場所だった。
「広間……?」
罠や仕掛けがないか、念入りに見ながら歩いていると、反対の霧の中に人影のようなものが見えてくる。「誰……!?」
注意深く見ていると人影がやがて鮮明になり、見慣れた姿が見える。
「レスティアちゃん!よかった……」
リリーナが心の底から安心したような声でそう言う。
「リリーナさん!」
どうやら、リリーナ、リヒト、瑠雨の三人もレスティアと同じように落ちてきたらしい。
合流することができたので、四人この空間を探索していると……
コォォォォオ!!
突如、獰猛類のけたたましい威嚇のようなものが前方で聞こえ、一気に周りの空気が張り詰めて、リリーナとリヒトが険しい表情をした。
「構えて……!」
嫌な予感がしながらも、おそるおそる目を向けると赤い宝石をたくさん翼に纏った、天井に届くほど大きな鷹のようなモンスターの赤い瞳がこちらをみすえていた。「ひっ……」
(どうしよう……足が震えて……動けない……)
「レスティアちゃんはそこにいて」
固まって立ちすくんでしまったレスティアを横目に、三人が武器を構えて、モンスターに突っ込んでいくが、モンスターは小石が当たったような素振りを見せるだけでビクともしない。
(効いてない……!?)
モンスターが今度はこっちの番だというように、顔を上に向けて、口の上で炎の玉のようなものを作る。
次の瞬間、炎の玉が弾丸のように押し寄せ、レスティア達は壁に叩きつけられる。
「たッ……」
体中に締め付けるような痛みが走り、特に攻撃を受けた箇所が真っ赤になっていて、火傷のようになっていた。
(ッ……熱湯に体を突っ込んだみたい……)
壁から床に叩きつけられて座り込んでいるレスティアの隣で倒れていた三人がよろめきながら立ち上がる。
「なんなんだよ……あいつ……」
瑠雨が震えた声でそう言う。目の前のモンスターとレスティア達との実力差は明確だ。
「これはさすがに……」
そう言ったリヒトの手は震えていた。
やられるかやるしかないと、三人は必死に攻撃を畳み掛けているが、明らかに劣勢だ。
でも、レスティアの体はモンスターに対する恐怖で震えて動けなくて……
(どうしよう……どうすればいい……?でも、戦闘なんてしたことない私が行ったところで何も変わらない……むしろ足手まといになるかも……やっぱり、隅っこで邪魔にならないように大人しくしてた方が……)
そんなことを延々と考えていたレスティアの頭を、ふいにかすめたのはあの日のリヒトの言葉で……
『……僕、君みたいなのが一番嫌い。自分から行動を起こそうとしなければ、確固たる意思も持たず、これでいいはずだって言い聞かせるみたいに、何かを諦めるみいな顔して周りに流されるままヘラヘラ笑ってる。見ててイライラする』
(っ……でも……)
「レスティアちゃん……!」
ドンッ!
そんな中、レスティアは、突如、いきなり聞こえた声と共に突き飛ばされて……
「へっ?」
いきなりだったため受け身を取れなくて、レスティアを突き飛ばした勢いで、操縦主の手から離れた弓と共に、レスティアは座り込む。
レスティアは何が起きたか分からず、突き飛ばされた方向を見ると周りを大きな赤い鉱石に囲まれ、三人は身動きがとれなくなっていた。
(もしかして、私をかばってくれた……?)
大きな鉱石にいきなり周りを囲まれ、三人は目の前が見えず攻撃しようにも、できなくなっているようだ。
この状況でモンスターに攻撃できるのはレスティアだけで……
(私を庇ったせいで、みんなが動けなくなった……どうしよう……どうすればいい……?ううん、本当に分かってる……でも……)
心は怖いと悲鳴を上げているし、足も震えて立ちあがれなくて……
コォォォォ!
「何!?」
突如聞こえたその音に、レスティアが音の聞こえた方を見ると、モンスターが宝石に囲まれ目の前が見えなくなっている、みんなに向かって今にも攻撃を放とうとしていたのだ。
「……!」
もし、あれに当たったら、みんなはひとたまりもないであろう。
(本当は今すぐにでも逃げだしたい……だけど、みんなはこんな私を助けてくれた人で……ここで、何もできなかったら、私、自分で自分のこと、許せなくなっちゃう……)
それは、なけなしの勇気だった。
……正直レスティアとしては、すごく怖い……
何とか立ち上がったものの、手と体は恐怖なのか何なのか分からないもので震えてるし、今すぐにでもこの場から逃げ去りたくて……
「こっちだよ!」
逃げ出した方がいいとヒリつく舌を叱咤して、それでも、必死に紡いだその言葉は我ながら情けないくらい震えていて……
されど、それは目の前のモンスターには届いた。
その言葉を発したレスティアは、この状況ならモンスターの視線を逸らすのが先だと判断し、自分のそばに転がっていたリリーナの弓を拾うと同時に、床に転がっていた石をモンスターに向かって投げる。
レスティアのその声に反応したモンスターは、投げられた石が当たると同時に、ぎょろりとした赤い瞳をこちらに向ける。
モンスターの獲物を目の前にした肉食獣のような瞳がレスティアを捉えると同時に三人に打とうとしていた攻撃をレスティアに放とうとしてきて……
「ひっ……」
その瞬間、レスティアの頭に、迷いの森のモンスターが生き物だったものを捕食していた光景が鮮明にフラッシュバックする。
「……!」
(やっぱりだめ……どうして動けないの……動いてよ……!このままでは全滅してしまう……心では分かっているのに……)
その時だった。
レスティアは、リリーナが話してくれた民話を思い出して……
(そうだ……必要なのは少しの勇気!)
レスティアは弓など扱ったことがないし、そもそもがリリーナの見様見真似だ。
それに、レスティアが失敗したら仲良くお陀仏で……
(とにかくモンスターのどこかしらに当たればそれでいい。指が震えて矢がすべる……足も弓を放てるほど踏ん張れない……怖い……それでも!モンスターをしっかり見据えて、矢を構える……ただそれだけ!)
「すぅ……はぁ……」
(大丈夫……きっとできる!)
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
レスティアの渾身の矢は真っ直ぐにモンスターへ向かっていって……
(やった……?)
恐る恐るモンスターの方を向いたレスティアの視界に入ってきたのは、レスティアの矢が当たると同時に大きな音を立てて崩れ落ち、気絶するモンスターだった。
安心すると同時に力が抜けたレスティアは足から崩れ落ちてしまって、座り込む。
「はぁ……はぁ……しっ……死ぬかと思った……」
(でも、私にもできた……)
レスティアはその事実に確かな達成感を感じていて……
「レスティアちゃん!」
足音とともに、レスティアに駆け寄ってきたのは、モンスターが気絶したおかげで周りの大きな宝石が消えたらしいリリーナと瑠雨だった。
レスティアの傍に来た途端、瑠雨がうるっとした瞳でレスティアにひしっと抱きついてくる。
「ううぅ……レスティア〜無事で良かったぁ〜」
レスティアが抱きついてきた瑠雨の頭を撫でながら「かばってくれて、ありがとうございました。」とリリーナにお礼を伝えていると、少し離れた所から感情の読めない無表情で、こっちを見ていたらしいリヒトと、リリーナの肩越しに目が合ってしまう。
だが、バチッと目が合うと同時にあからさまにレスティアから視線を逸らしたリヒトは、そのまま歩いていってしまって……
(相変わらずだな……まあ、とりあえず何とかなって良かった。私の弓に関する知識は、彩乃時代、ファンタジー小説と弓道部の青春マンガを読んで、弓について知りたくなって、ネットで調べて培った知識ぐらいだったんだけど)
コォォォ!!
けれど、そうして安心していたのもつかの間、モンスターが気がつき吠え始めたのだ。
「……!」
構えてモンスターと対峙しようとしていると、瑠雨が何かに気づいたように攻撃態勢を崩す。
「瑠雨……?どうしたの?」
それに気づいたレスティアがそう聞く。
コォォ!!コォ!
「約束……守る……?」
瑠雨のその言葉は、モンスターの鳴き声に対応してるようで……
「もしかして、モンスターの言葉が分かるの?」
基本、ずっと人型のため、忘れていたが瑠雨は人型になれるモンスターだ。
目の前のモンスターの言葉が分かってもおかしくなくて……
そうレスティアが聞くと、瑠雨がコクンと頷くのだった。
そちらの方が話の展開的に良いため、明日の更新は三話まとめてする予定です。




